大好きな貴方にたくさんの、
及川に彼女が出来たらしい。
近くに引っ越してきた女の子が、同じ学校の子だったらしい。
運命的な出会いだよねって及川は笑ってた。
私は、そうだねって笑顔で返した。
今日の部活はもちろん、その話題でもちきりだった。
「あの女遊びしてた及川がねぇ」
「世の中珍しいこともあるもんだ」
「まっつんとマッキー!ちょっと悪口言うのやめてよ!祝福して!!」
部員達からからかわれながらも、幸せそうな及川。
遠くから私はそれを見ていた。
「なまえちゃーん!助けてー」
しばらくすると、いつもみたいに私に近寄ってきて私の肩を握って後ろへと隠れる。
「はいはいうざいうざい」
そう言って及川の手を払うのもいつも通り。
「なまえちゃんもなかなかヒドイ!」
「でも、おめでとう及川」
私がそう言えば「ありがとうなまえちゃん」と心からの笑顔を見せてくれた。
及川は私のことをどう思っているんだろう。
仲の良いマネージャー?岩ちゃんと同じお世話係?仲間?
そんなことどうでもよくて、そばにいられればそれで良かった。
「俺はなまえとお前が付き合うと思ってたけどなぁ。顔だけなら二人とも美男美女だし」
「顔だけってなんだよ!」
「いや及川は特に中身がうざい」
マッキーはよく言ってたもんね。
「お前ら付き合ってんの?」って。
その度二人して否定してたけど、私は本当はにやけてた。付き合ってるように見えることが嬉しかった。
「マッキー、そんなこと言ったら彼女さんに怒られちゃうよ」
って無理矢理、笑顔を作る。
「そーそー!なまえちゃんのこと、岩ちゃんと同じくらい大好きだけどネ」
「キモいクソ川」
「岩ちゃん俺、泣くよ?」
笑い声に包まれる体育館。
でも私だけはどうしてもそんな気分になれなかった。
“大好き”って言葉、そんな簡単に言わないでよ。
すると及川が何かを思い出したように私に笑顔を向ける。
「あ、なまえちゃん。なんか、彼女がね今帰宅部なんだけど、バレー部のマネージャーやりたいって」
「え…?」
「俺のこと贔屓するような子じゃないし、いいかなって。岩ちゃんも知ってる子だし。それに俺達引退したらマネージャーいなくなっちゃうしね」
「ああ。良い子だし別にいいんじゃね?」
賛成の声をあげる部員達。
そっかぁ…。
今までは、「なまえちゃんがいればいい」って及川も皆も言ってくれてたのに、もう私はいらないのかもしれない。
もちろん皆がそんなこと考えてないのは分かる。優しい人達だもの。
でもね、私の居場所が途端になくなる気がしたんだ。
「なまえちゃんよろしく。仲良くしてあげて」
「うん。もちろんだよ。及川の扱い方教えてあげなきゃねー」
「なんだよそれ」
うまく笑えてるかな。
よく分かんないよ。
私は、マネージャーを辞めることにした。
もうここにはいられないと思った。
ここにいても皆と一緒に笑えない、そう思ったから。
私はなんて心が狭い人間なんだろう。
少し前、お父さんの転勤が決まった。
私はもちろんここに高校卒業まで残るつもりだったけど、家族でついていくことに決めた。
ここから離れたかったから。
誰にも言わなかった。
部員達にも、もちろん及川にも。
一枚だけこっそり部室に手紙を残した。
みんなへ。
今まで本当にありがとう。
いきなり何も伝えずに、いなくなってごめんなさい。
でも、もう私の代わりはいると思うから。
これからも頑張ってね。皆と過ごせて、幸せでした。
なまえより
そして、及川だけにもう一枚。
こっそり下駄箱にいれておいた。
及川へ
ずっと大好きでした。
幸せになってください。
なまえより
携帯も変えて、すべての繋がりを切った。
もう過去の幸せだった思い出に変えようと思ったから。
ねぇ、及川。
ーーーーー大好きだったよ?
今、伝えることはただ一つ。
たくさんの「おめでとう」と、
もっとたくさんの「ありがとう」を君に。
大好きな貴方にたくさんの、
(想いを)
あとがき
部員達は何を思うのでしょうか。及川はどんな行動をするのでしょうか。
一応続きものです。たぶん続きます。
prev next