大好きな貴方にやっと、
(大好きな貴方にたくさんの、の続きです。)
「なまえちゃんが色々教えてくれると思うから」
彼女を連れて体育館へと向かう。
「なまえさんって今のマネージャーの人だよね?迷惑じゃないかな」
心配そうな表情を浮かべる彼女の頭を優しく撫でる。
「大丈夫。俺が岩ちゃんと同じくらい信頼してる友達だからね」
「…そうだよね!精一杯頑張るね」
うん、やっぱり笑顔が可愛い。
ちょっと彼女となまえちゃんって似てるし、きっと仲良くなれる。
そんな惚気たことを考えながら、体育館の扉を開ける。
「おはよー」
…?いつもなら返事か返ってくるのに、部員達は固まって何かを話している。
「どうかしたの?」
「あ、及川さん……」
金田一と国見ちゃんが、気まずそうに俺から目線を外す。
皆の目線の先にあるものを手に取れば、それは手紙のようだった。
「なんだよこれ…」
内容を読めば、それはなまえちゃんからの手紙だった。
「…なまえちゃん今日学校来てないの?」
同じクラスのマッキーを見れば、
「今日来てなくて、先生は理由言わねーからてっきり風邪とかだと思ってた。たぶんなまえが言わないようにって先生に言ってたんだと思う」
そう俯きがちで呟いた。
なんだこれ。意味がわからない。
なまえちゃんがいない?いっつも『及川おはよーっ』って笑顔でいってくれるじゃん。
今日からいないってこと?なまえちゃんが?
「徹くん…大丈夫?どうかしたの?」
「っうるさい!」
俺の腕を掴んだ手を振り払う。
「及川!彼女に八つ当たりしてどーすんだよ」
「え…あ、ごめん」
岩ちゃんに頭を叩かれ、やっと周りに目がいく。
隣を見れば泣きそうな彼女がいた。
「ごめん。ちょっと立て込んでるから、今日は帰ってくれる?」
「うん…分かった。無理しないでね…」
精一杯、優しく、笑って言ったつもりだけど、彼女は不安げに小さく頷いて体育館を後にした。
「なまえちゃんに電話した?」
「したけど、LINEも変わってっし、電話も繋がんねー…。たぶん携帯変えてる」
「なんでそこまで……」
もう代わりはいるから…?なにそれ。
なまえちゃんの代わり?誰それ。
「どうすんだよこれ…」
岩ちゃんはため息をついて、しゃがみこんだ。
他の部員もどうすればいいか分からないのだろう。黙ってその場にたたずんでいる。
「なまえさんの代わりって、及川さんの彼女さんのことですかね?」
一人冷静な国見ちゃんは、俺の手から手紙をとって、文章の一部を指差す。
「国見ちゃんそれどういうこと」
「及川さんの彼女さんがマネージャーになるから、なまえさんは自分はもういらないって思ったんじゃないかなって」
「なまえちゃんの代わりなんているわけ……」
「あの…なまえさん前に言ってたんです」
金田一がおずおずと控えめに声をあげる。
「及川さんに彼女ができたら自分はいらないよね…って……。俺がそんなことないですって言っても寂しそうに笑ってて。俺、どうすればいいか分かんなくて」
どういうことだ…。俺のせい?俺がなまえちゃんを追い詰めたの?
これ以上話してもいい解決策はない、部活もできない、そう考えて、その日は解散することにした。
いつも通り靴を履き替える。
その時ーーーー
「……」
靴を取り出すと何かが落ちてきて、それを拾えば、「及川へ」と書かれた見慣れた筆跡が目について、急いで開いた。
「及川ーーっ……お前どうしたの」
岩ちゃんに言われて、自分が泣いてることに気付いた。
「なまえちゃんを追い詰めたのは俺だよ…。俺のせいでなまえちゃんはいなくなったんだ」
俺のことをずっと好きでいてくれた。
俺のことをずっと見ていてくれた。
なのに、俺はーーーひどいことをした。
彼女ができたって言った時、彼女と仲良くしてあげてほしいって言われた時、彼女がマネージャーになるからって言われた時、なまえちゃんは何を思ったんだろう。
上手に笑ってたけど、きっと泣いてたんだ。
「及川……」
「ハハ…馬鹿だよね。一番、大事な子を逃しちゃったよ」
「懐かしい……」
長く伸ばした髪が風に揺れる。
高校の時、短かくしていた髪は、もう長く伸ばしていた。
私は思い出の詰まったーーー青葉城西高校に来ている。
最後にここを出てから、二年近く経っていた。
転校したあと、違う高校に通って、卒業し、そのあと一年間留学に行っていたのだ。
とにかく色んなところに逃げてばかりで、自分でも情けなく思う。
もう、及川も岩ちゃんも卒業して……二年生も卒業してるよね。
今は金田一や国見ちゃんが三年生かぁ。
バレー部に会わないように気をつけながら、体育館へと近付く。
バレーボールをつく音がここまで響いてくる。
懐かしい懐かしい懐かしい懐かしい。
その想いだけが心に響く。
「……なまえさん、ですよね」
名前を呼ばれて振り向けば見知らぬ顔。
そしてバレー部のジャージを着ている。
でも、なんとなく見たことがあるような気がした。
「あの…」
「私、バレー部マネージャーです」
「はぁ……」
今のマネージャーの子か。
なんだろう、とても羨ましい。
「あと、徹くんの彼女です」
…っ、ああ、そうだ。この子、及川の彼女の子だ。
「そう、なんだ。及川、元気?」
「よくそんなこと言えますね。徹くんのこと、あんなに傷つけて」
傷つけて…?迷惑はかけたけれど傷つけた覚えなんてない。
私がそう言えば、彼女は小さくため息をついた。
「徹くん、毎日疲れた顔してました。なまえさんのこと、ずっと探していました」
「なんで及川が私を……」
「分かりませんか?」
ゆっくりと首を振れば、彼女は優しく、でもどこか困ったように笑った。その表情はとても可愛らしくて、及川の隣がよく似合うと思った。
「私、徹くんと別れてるんです。とっくの昔に」
「えっ……」
「なまえさんがいなくなったあとすぐでした。徹くんから別れよう、って言われたのは」
なんで彼女と……。
私はわけが分からないまま彼女の話を聞いていた。
「まぁ、私はマネージャーがいなくて困るかな、と思って今もこうやってマネージャーやってますけど…。とにかく徹くんと会ってください」
「っ無理だよ…。私が及川に会う資格なんてない」
その時体育館の扉が開く音がして、そちらを見れば見慣れた顔より大人になった人がいた。
「なまえさん!?」
「えっ…あ、金田一……?」
「そうです!!おい、国見!」
止める間もなく金田一が国見ちゃんを呼んで二人からじっと見つめられる。
「二人とも……先輩っぽくなったね」
そう笑いかけたら、二人は泣きそうな顔をしていた。
「すみません。あん時俺ら、なまえさんの気持ちなんも分かってなくて…」
頭を下げる二人を私は慌てて制止させる。
「ちょ、なんで二人が謝るの!?謝らなきゃいけないのは私の方で……」
「とにかく、及川さんに会ってください!ずっと待ってますから」
金田一と国見ちゃんも、私に及川に会えって言うの…?どうして?及川は私なんかに会いたいと思ってるの?
「とりあえず待っててください。今、及川さん呼ぶんで」
「えっ、ま、待って…」
「ダメです。なまえさんは及川さんと会わないと」
国見ちゃんに無理矢理引きずられ体育館の中に入る。
私は部員達の注目を浴びる中、座らされ、ずっと監視されたまま居させられた。
その時ーーーー
「なまえちゃんがいるってホント!?」
体育館の扉を勢いよくあけて、息を切らせながら入ってきたのは……。
「及川……」
ずっと、思い出から消していた及川だった。
私は及川に連れられ、体育館から部室へと移動した。
部室もあの頃と何も変わってなくて思わず涙が出そうだった。
部室についても、及川は私の腕を掴んだまま何も言わない。
「……及川…。腕、離して」
「無理。離したらまたいなくなるでしょ」
私を見た及川の顔は、怒っていて、でも、
「…泣かないで」
目にたくさんの涙を溜めていた。
「ごめんね、及川。及川は優しいから私のこと探してくれたんだよね。でもね、私のことなんて気にしなくていいんだよ?」
そう言った瞬間、及川は私のことを強く抱き締めていて、私は固まったまま動くことはできなかった。
「違う。優しくなんてない。俺は…きっとなまえちゃんのことがずっと好きで、でもなまえちゃんは俺のことなんて興味ないと思ってた。だから…彼女と付き合ったんだ。なんでか分かる?笑った顔がなまえちゃんと似てたから。ね?ひどいでしょ?それでなまえちゃんは傷ついていなくなった。俺の隣からいなくなった」
なに、それ……。
そんなこと、全く知らなかったよ?
隣にいたのに…なにも気付けなかった。
「…なまえちゃんまで泣かないでよ」
及川はそっと腕を解くと、私の涙を拭ってくれた。
「私と及川、両想いだったの…?」
「そういうことだね。お互い気付いてなかったけど」
及川は小さく笑う。
「私…及川のこと好きって伝えてもいい?」
「うん。俺もなまえちゃんに伝えたいこと、あるよ」
もう一度、強く抱き締められた。
それは私がずっとずっと望んでいたものだった。
歯車が狂った時間が終わり、やっといつもの時間を迎える。
そしてーーー私は初めて及川に気持ちを伝えた。
ねぇ、これからなくなってしまった最後の高校一年間を一緒に過ごそうよ。
そして、これからは今度こそ、ずっと隣にいさせてください。
たくさんの「ごめんね」と
もっとたくさんの「大好き」を君に。
大好きな貴方にやっと、
(「想いを伝えられた。」)
あとがき
なんだかうまくまとめられなくて、ごめんなさい!!!
もっといい感じに書きたかったんですけど、どんどん長くなった挙句、全然いい感じになりませんでした…。
とりあえず及川さんとなまえちゃんが幸せになるところを書きたかったので、それだけ伝わればいいな、と思います。
切ないお話も、切なくて甘いお話も大好物なので、これからもちょくちょく書きたいです。
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