3、「彼」を知らな過ぎる
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「わり、宿題見せてくれ」

「……また?」


朝練が終わって教室に入って来て早々に飛雄は私にそう言った。いつになったら飛雄は自力で宿題をしてくるんだろうか。






「いいけど、自分でやらないとテストの結果が大変な事になるよ?」

「そん時は勉強を教えてくれ」


私のノートを渡すと、飛雄は綺麗とは言いがたい字で自分のノートに宿題を写していった。








「そうだ飛雄、今度の日曜って空いてる?」

「部活がある」

「……そっか、頑張ってね」


バレーを頑張っている飛雄が好き、一生懸命で、何よりもバレーが好きなんだなってひしひしと伝わってくる。





「わりも頑張れよ、軽音部」

「合唱部だよ」

「そうだったか? 悪い」


そう言いながらも、飛雄は私のノートを写していた。もうすぐHRが始まってしまうせいか飛雄は急いで宿題を写し終えた。







「飛雄、お弁当食べよ」

「悪い、今から日向と自主練してくる」


昼休みに飛雄の席に向かうと、早弁したらしい飛雄は制服の上着を脱いで机の上に雑に置き、颯爽と教室から出て行ってしまった。





「……行ってらっしゃーい」


小声でそう言って、飛雄を見送った。


雑に置かれた飛雄の制服の上着を綺麗に畳み、仕方ないから一人で食べようと自分の席に戻った。





「(自主練、ってなんだろ)」


バレーボールなら放課後、部活でやれば良いんじゃないの?何もお昼休みにまでやらなくたって。



ていうか、日向って誰?


同じバレー部の男子?
自主練って言ってたからそうなのかな。飛雄にもっとバレー部の事を聞いておけば良かった。





何も知らないじゃん私。







お弁当のおかずを見て、はぁ……とため息を吐いた。結局残ってしまったお弁当のおかず達を食べてくれる飛雄は今はいない。無理矢理食べてしまってもいいが、それだと午後からの授業が辛い。




「……。」



残ってしまったおかず達に申し訳ないと思いつつ、お弁当のフタを閉めた。





「(今度からは、量を減らそうかな)」


何気に飛雄が食べる分も入っている私のお弁当、けど食べてくれる飛雄がいないのなら、それも意味がない。


教室をぐるりと見れば、仲良さそうにお昼ごはんを一緒食べているカップルや女子のグループ。一緒にお弁当を食べてくれる女友達がいないわけでもないが、どうしても飛雄を優先してしまっていた。


今日だって、飛雄といつも通り一緒にお弁当を食べるものだと思っていた。







「(なんか、疎外感)」


飛雄はきっと私よりもバレーを優先するだろう、でもそれは分かりきっていた事。良い意味で「バレー馬鹿」な飛雄と一緒にいれば、そんな事すぐに分かるようになってきた。



飛雄は私が好きで、

私も飛雄が好き。






当たり前のイコールに、

私はいつも安心していた。







私の隣には飛雄が居て、
飛雄の隣には私がいる。

そんな関係はこれからもずっと続くと思っている。飛雄はいつもの笑顔で私の名前を呼んでくれると、好きだからこそ信じている。


ベッドの上でだって、何度も私の名前を囁いてくれる。何度も好きだと言ってくれる。逞しい男の腕で、ぎゅうっと優しく抱き締めてくれる。飛雄には私が必要で、私には飛雄が必要だ。



けどこうやって一人ぼっちになると、急に寂しくなってしまう。不安になってしまう。


大丈夫、私は飛雄が好きだよ。



自分自身に言い聞かせるように、心の中で思う事にした。










「あっぶね、ギリギリ!」

昼休みが終わる予鈴が鳴ると同時くらいに、飛雄が教室に戻ってきた。



「おかえり、飛雄」

「おう」


まだ予鈴なので騒がしい教室で飛雄に話しかけると、飛雄は私の方を向いてくれたが、すぐに自分の席へと行ってしまった。





午後の授業が終わり、放課後になれば飛雄は一目散に教室を出て行った。部活に向かう飛雄を呼び止める事もせず、私も合唱部へと足を進めようとした。


しかし、ふと飛雄の席を見ると紙が一枚、机の下に落ちていた。




「?」


それを拾って見てみると、その紙は課題となっていた数字のプリントだった。提出は明日、つまりこれは家に持って帰ってやらなければいけない課題で、






「……はぁ」


仕方ない、とそのプリントを持って教室を出た。向かう先は合唱部ではなく、第二体育館。


男子バレー部が練習で使用している体育館、私はこの体育館に体育の授業以外で来た事がない。そもそも、私は飛雄がバレーをしている姿を一度も見た事がなかったりする。






「……。」


少しだけ開いている体育館の扉からこっそりと中を覗くと、黒いジャージを着た人達が何人かいた。体格からして先輩かもしれない。







「(あれ? 飛雄がいない)」


まだ来てないのかな?と、第二体育館を見渡したが、飛雄の姿はどこにも無かった。





「(どうしよう)」

「ねえ、君」

「!!」

体育館を覗いていると、後ろから声がした。きっと私に話しかけているに違いない。





「そこ、通りたいんだけど」

「あ、ごめんなさい」


恐る恐る、後ろを振り向きながら謝ると、私に話しかけた人物の目線はとても上の方にあった。




「(うわ……背、高いな)」


飛雄も背が高いけど、この眼鏡君はもっと高いかも……流石バレー部だな、とそんな事を思いながら、私は長身の眼鏡君の邪魔にならないように体育館の扉から離れた。





「あのさ」

「え?」


眼鏡君は体育館には入ろうとはせずに、何故か私に話しかけて来た。






「バレー部に何か用? それともマネージャー志望?」

「マネージャー? ううん、私はこれを届けに来ただけで」


数学のプリントを見せると、眼鏡君は「ああ、」と納得してくれたのか、そのプリントを手に持って見ていた。




「一年? って事は、日向か影山?」

「あ、うん。飛……影山君にそのプリントを渡しに来たの、教室に忘れて行ったから」

「ふーん、じゃあ僕からコレ渡しておくよ、あいつ部室で日向と揉めてたからまだ来なさそうだし」

「本当? 助かるよ、ありがとう」

「ところで君、名前は?」

「ひまわり、私が届けに来たって言って貰えれば分かると思うよ」

「ひまサンね、分かった」

「本当にありがとう、えっと……」


そういえば、この眼鏡君の名前を知らなかった。





「月島蛍」

「ありがとう月島君、部活頑張ってね」


飛雄の数学のプリントを月島君に託して、私は月島君に小さく手を振りながら、その場からそのまま合唱部へと向かった。


「(月島君って背が高いなぁ……)」


















「……。」



月島は走り去った女子生徒を目で追っていた。





(ひまわり……か)


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