4、「あの子」を知りたくて
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自販機でぐんぐん牛乳を買い、それを一気に飲み干してから部室に向かい、練習用のジャージに着替えた。


部室には既に日向が居て、同じようにジャージに着替えていた。日向の奴が静かに着替えればいいものの、俺よりも早く着替えるとか言ってうるさかった。


しばらくするとガチャっと部室の扉が開いて、制服姿の月島が入ってきた。




「あれ? 月島、山口は?」


日向は月島といつも一緒にいる山口の姿が無い事に気付いて、気になったのか月島に聞いていた。




「山口は日直で遅れるってさ」

「へー」

「そんな事より日向、それ逆に履いてるけど新しいファッションなの?」

「んあ!?」

「斬新だねぇ」


ぷすぷす笑う月島は日向のジャージの下が前後ろ逆になっているの指差した。




「うわ、やべっ!」

「え、まさか気付いてなかったの? あり得ないんだけど」

「ち、ちげーし! 気付いてたし! わざとだし!」


顔を真っ赤にしながら日向は月島に訴えていた。日向はジャージをすぐに脱いで、ズボンを履き直した。



「じゃあ僕は先に行くから」


そう言って着替えをすぐに済ませた月島は笑いながら部室を出て行った。





「くっそー、月島の奴め……気付いたなら普通に教えてくれればいいじゃん!なぁ影山! ズボンを反対に履くなんてよくある事だよな?」

「いや、ねえだろ」

「え!? でもこの前田中さんも反対に履いてた!」

「……履く前に気付くだろ」

「うっせーなぁもう、つい間違えたんだよ! いつもは間違えねえ!」

「いいからお前早く着替えろ、練習に遅れる」

「つーかお前何やってんの? 爪切り?」


履き直した日向は、部室の壁に寄りかかかって爪ヤスリで爪の手入れをしている影山を見て言った。



「あ? 悪いかよ、少しでも爪が伸びてると気持ち悪ぃんだよ」

「なんか爪の手入れとか女子みたいだな、影山って」

「あ"?」

「な、なんだよ怒んなよ!」

「ボールと指先の間に何かあるとボールが分かんなくなるんだよ、だから爪と指先はいつも完璧に手入れする」

「へー、そういうのってセッターみんなやんの?」

「さぁな、する奴もいればしない奴もいるだろ」

「(なんかカッケーな、影山のくせに)」




日向が爪の手入れをしている影山を見てそう思っていると、ガチャリと部室の扉が開いて先ほど出て行ったばかりの月島が入って来た。





「あれ? 月島忘れ物?」


日向は不思議に思い、部室に戻ってきた月島に話しかけた。しかし月島は日向には答えずに爪の手入れをしている影山に話しかけた。




「王様に届け物が来てたからわざわざ持って来たんだけど?」

「王様って言うんじゃねえ、つーか届け物ってなんだよ」

「はい、これ」


月島は持っていた紙を影山に渡した。影山はその紙を受け取り、それが自分のクラスで配られた数学のプリントだとすぐに分かった。しかし何故このプリントを月島が持っているのか?




「あ! それ数学のプリントじゃん、影山のクラスの宿題?」

「……何でお前がこれを?」

「だから届け物だって言ったデショ、ひまわりって女子生徒がそれ持って体育館に来てたよ」

「わりが?」

「(わり?)」


てっきりただのクラスメイトが届けに来たんだろうなと月島は思っていたが、どうして影山はその女子生徒の事を名前で呼ぶんだろうと疑問に思った。





「なんだ、そうか、わりが持って来てくれたのか」


影山は納得したようで、

ふ、と笑った。



その様子を見た月島と日向は、滅多に笑わない影山が穏やかに笑った姿を見て、「あの影山が」と驚いていた。






「……なんかさぁ、王様に仲が良い女子がいるとか超意外なんだけど」

「いいだろいても」

「なぁなぁ月島、影山と仲が良い女子ってどんな子? この前昼休みに影山と一緒に居た子?」

「は? 昼休み? それは知らないけど、そのプリントを持って来た女子は綺麗な子だったよ、あんな子が一年に居たんだね」

「おー、美少女か! 月島が言うならそうなんだろうな!」

「……。」

「影山?」


先ほど穏やかに笑ったかと思いきや、影山は不機嫌な表情に変わっていた。影山は手に持っているプリントをバッグの中に入れると、再び爪の手入れを始めた。




「ねえ、王様」

「なんだよ」

「ひまさんってどんな子?」

「あ? なんで、んな事聞くんだよ」

「気になったから」

「は?」

「プリントを持って来てくれたって事は同じクラスでしょ?」

「ああ」

「わざわざここまで持って来てくれるなんて優しいよね、仲良いの?」

「……。」


月島の質問に影山は答えないまま、爪の手入れをひたすらに進め、さっさと終わらせた。




「ちょっと聞いてるの?」

「どっちでも良いだろそんな事」

「……ふーん」


意味深に感じた月島は、しばらく影山を見下ろしていたが、思っていた反応が見られず、つまんないなと思い視線を外した。




「ってかそろそろ体育館行こーぜ!」


日向が部室の扉を開けて、中にいる月島と影山に言った。影山は立ち上がり、月島の横を通り過ぎて部室から出ようとした。日向は既に一目散に体育館へと向かったらしい。





「なーんかさ」

「なんだよ」

「随分とひまさんの事を話したくないみたいだね、あっやしいなー」

「……別にいいだろ」

「まぁね、王様と仲の良い女子の関係なんて正直、興味ないし」

「だったら聞くな」

「僕が興味あるのは彼女自身だからね」

「は?」

「綺麗な子だね、ひまさん」

「……。」


体育館へと向かっていた影山の足はぴたりと止まった。そして後ろを歩いていた月島に向き合った。




「月島」

「何?」

「お前はわりを好きになんなよ」

「なにそれ? まぁ一応、理由を聞いておいてあげるけど?」

「俺がアイツを好きだからだ」

「……は?」


影山のまさかの発言に月島は固まった。まさかあの影山が「好き」という言葉を知っているとは、いやそうじゃない、問題視するのはそこじゃない。




「驚いた、君って随分とハッキリ言うんだね」

「悪いかよ」

「そういえば前に好きな子がいるって言ってたっけ、ふーん、ひまさんなんだ? 影山の好きな子って」

「……。」


影山は月島の問いに何も答えずに、足を再び動かして体育館へと向かった。月島もそれ以上はしつこく聞いてくる事もなく、いつの間にかひまわりを話題にする事は無くなっていた。





(王様の好きな子、あの子だったんだ)

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