1、男子バレー部の「日常」

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「マネージャーの清水先輩って美人だよなー」


休憩中の日向はバレーボールを手元で動かしながら隣に座っている影山に言った。

影山は飲んでいたスクイズを床に置いて、日向の方を向いた。




「なんだ急に」

「いやふと思って、田中さんが好きになるのも分かるなぁと」

「ふーん」

「あれ? お前は清水先輩の事を美人だと思わねえの??」

「いや思うけど、なんつーか」

「なんだよ」

「……別に」


上手く言葉に出来ないのか影山は何かいいかけた後、ぐっと口をつぐんだ。




「なんだよもー、言いたい事があるなら早く言えよ」

「うっせ」

「なんだと!」


無愛想な影山の反応に日向はバレーボールを影山の方に投げた。しかしそのボールは影山に片手で防がれてしまった。





「何やってんの?」


そんな二人の様子を遠目で見ていた山口と月島も休憩するのか体育館の壁の方に近寄って来た。




「聞いてくれよ山口! 清水先輩って美人だよな?って影山に言ったら「別に」とかもごもご言って、言いたい事をハッキリ言わねえんだよ、今絶対コイツ何か言いかけたんだよ!」

「え? え?」

「別に何も言いかけてねーよ」

「うっそつけ!」

「嘘じゃねーよ」

「とりあえず二人共落ち着こうよ、ところで日向、何で清水先輩の話?」


山口は日向の方を向いて聞いてみた。





「ほら、田中さんって清水先輩の事すっげー好きだろ? それってやっぱり清水先輩が美人だからなんだろうなーって」

日向はマネージャーにつきまとう一人の先輩を見ながら山口にそう言った。






「まぁ、確かに清水先輩は美人だよね」

「山口も清水先輩の事好きなのか?」

「え!? えっと俺は、美人だとは思うだけで好きとかじゃ」

「やっぱりそうだよなー? 何かさ、好きとか難しいよな。美人だから好きになるわけじゃないし」

「まぁ人の好みは人それぞれだから、好きになる理由なんて案外簡単なものだったりするよね」

「なんか山口かっけーな!」

「え、そう?」


えへへ、と照れた山口に隣で休憩していた月島がため息を吐いた。





「日向の口から恋愛云々が出るなんて思ってもみなかったよ、何? 日向は彼女でも欲しいわけ?」

「な、なんだよ。彼女は誰だって欲しいだろ!」

「僕いらなーい」

「んだと!?」

「まぁまぁ、ほらツッキーはモテるから、彼女作るなら好きになった子が良いって言ってたもんね」

「うるさい山口、なんでバラすの」

「ご、ごめんツッキー!」

「え? じゃあ月島って好きな奴いんの?」


興味津々の日向がずいっと月島に聞いてきた。休憩中だというのに元気な日向の様子に月島はげんなりしていた。




「いないよ」

「なんだよつまんねぇの」

「はいはい、それは悪かったね」


軽く日向をあしらうように月島はタオルで汗を拭いていた。





「山口は好きな奴いんの?」

「俺も今は居ないかな、ていうか高校入ってまだそんなに経ってないし、そもそも同じクラスの女子ですらあんまり話さないよ」

「え、俺クラスの女子と結構話すけど!?」

「うん、日向の人懐っこさが羨ましいよ」


山口は日向のコミュ力の高さを思い出して、なんとなく納得した。






「じゃあ影山は好きな人いんの?」

「あ?」

「ぶっは! ちょっと王様にまでそれ聞いちゃうの? 王様に好きな人とかあり得ないんだけど!」


日向の影山への質問を聞いて、月島があざけ笑い出した。あまりにも意外すぎて面白かったのか、月島はしばらく笑っていた。




「ツッキーのツボに入ったみたいだね」

「え、え、俺そんな変な事聞いたのか!?」

「バレーしか見えてない王様に恋バナふっかけるなんて君くらいじゃない?マジうけるんですけどー」

「確かに!」


どこで納得したのか、日向は「変な事聞いてごめんな影山!」と謝っていた。その様子に月島がまた笑い出した。山口も笑いを堪えていたようだった。





「……。」


そんな周りの様子を影山は無言で見ていた。一体何が起こっているんだと言いたげだったが、自分に謝って来た日向を目の前にして言葉が上手く出なかった。






「王様に彼女とかまだ早いデショ」

「あ?」

「落ち込むなよ影山! バレーにだけ集中するのも良い事だぞ!」

「え? 何? バレーが彼女ですってやつ? 何それ超面白いんだけど(笑)」

「ちょ、ちょっとツッキー!」



ひたすら影山を励ます日向、

悪い笑い方をしている月島、

あたふたと困っている山口、






「何だ? 何だ? お前ら何をはしゃいでるんだ?」


騒がしい一年の所に田中が近寄ってきた。どうやらつきまとっていたマネージャーには無視され続けたらしい。





「つーか、月島すっげー笑ってんじゃん、何の話してたんだ?」

「えっと、その、バレーが恋人の影山君を励ましていました! 田中さん」

「ぶっ!(笑)おま、それ、ひでぇな日向!」


日向の説明を聞いて、ぷすぷすと二人は笑っていた。そんな二年の先輩を影山は相変わらず無愛想な顔で座り、ただただ見上げていた。




「? なんでみんな笑ってるんスか」

「ま、落ち込むなよ影山。そのうちお前にも恋愛の何たるかが分かるようになるさ! 俺のようにな! 何なら俺が教えてやってもいいぞ!」


田中は自信満々に影山に言った。



「はぁ、いや、別にいいッス」

「そう言うなよ影山! いいか、好きな人の為に勝利を掴むというのもまた良いもんだぞ!」


うんうん、と頷きながら田中は続けて影山にそう言った。







「……。」


無言になった影山に田中は「どうした?」と声をかけた。もしや落ち込んでいるのでは?と思ったからだ。





「俺は」

「お、おう? どうした?」


落ち込んでいるわけではない様子の影山に首を傾げた。





「俺は、田中さん達のように恋愛の何たるかを分かっている自信はないです」

「お? なに言ってんだ、自信があるやつの方が少ねえぞ! 」

「なんつーか」

「「うん?」」


影山の続きの言葉に田中は耳を傾けた。



「なんつーか、好きな奴と一緒に居たい気持ちは十分にあります。けど俺は恋愛とか難しい事は分かんねーと思います」

「うん??」


意味がよく分からない、といったような顔をしていた。隣で聞いていた日向も「?」と困っていた。








「ねえ王様、その言い方だともしかして好きな人いるの?」


何かに勘付いた月島が、笑うのをぴたりとやめて影山に聞いた。






「あ?」

「一緒に居たいって、そういう意味デショ?」

「そういう意味がどれの事かよく分かんねーけど」

「どんだけ鈍いのキミ、好きな人いるならさっさとそう言えばいいじゃん、そういえばさっきの日向の質問にもちゃんと答えてなかったよね」

「ああ、あれか」


思い出したかのように影山は、日向の方をふと見た。




「日向」

「お、おう?」

「俺は好きヤツ、いる」

「え!?」


影山は日向の方を向いて言った。遅れたがさっきの質問に一応答えたようだった。







「え! あの影山に好きな人が!」

「ひゅー! やっぱり影山もただのバレー馬鹿じゃなかったんだな!」


日向は影山の意外な答えに「マジか!」と驚いていた。そして田中は嬉しそうに影山を囃し立てていた。月島は何だか面白くなさそうに静かになっていた。




「で? どんな子どんな子?」

「えっと」


田中さんに言われ答えようとしたが、






「おーい、そろそろ練習再開するぞ!」


主将の声に、ひとまず会話は強制的に終了し、休憩していた部員達は立ち上がってコートへと向かった。







「……。」





好きヤツは、いる。

一緒に居たいと思った。


たとえ不器用な愛し方しか出来なくても、とにかく好きな気持ちは変わらない。





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