4、この「キス」の答えは

───────----‐‐‐ ‐
「えっと、大丈夫? 何かあった?」



放課後、授業が全部終わり

さぁ帰ろうとしたら、影山が凄く落ち込んだ表情で私の教室に入って来た。



ていうか私のクラス知ってたの?





「ひま、俺」

「えっと、とりあえず一緒に帰ろうか」

「おう」


落ち込んだ影山の背中をぐいぐい押して教室を出た。だって教室にいた女子生徒達の目線がとても鋭かったから。



「うわ、まただよ」
「また男を落としたんじゃない?」
「お姫様だからなんでも手に入るのね」
「まじ死ねばいいのに」


「……。」


教室から聞こえた女子生徒の声には聞こえないふりをした。そう言われるのも仕方ない。だってこうなったのは私にも原因があるんだし。






「……。」

「で、どーしたの影山?」

学校を出て、歩きながら落ち込んでいる影山の顔を覗き込んだ。





「……落ちた」

「?」

「白鳥沢、落ちた」

「え、マジで」

「試験、意味不明だった」

「まぁ、白鳥沢は超難関だし……残念だったけど青城から声がかかってるんならそっち行ったら?」

「……青城」

「青城もバレー強いんでしょ? 此処からそんなに遠くもないし」

「青城には行かねぇ」

「え?」

「ひま、お前確か烏野に行くんだったよな?」

「うん、烏野を受けるつもりだけど?」

「俺も烏野に行く」

「え」


落ち込んでいたはずの影山は、私の肩掴んでそう言った。あれ?さっきまで落ち込んでなかったっけ?

立ち直り早くない?




「絶対に烏野に受かる、だからひまも絶対に烏野に来い」

「そのつもりだけど、分かった」

「よし、じゃあ勉強教えろ」

「えっ」

「烏野には絶対受かる、だから勉強を教えろ」

「ちょっと待って、影山って頭良いんじゃないの? 白鳥沢受けたんだし」

「試験が意味不明だったって言っただろ。烏野も落ちるわけにもいかねぇからな、今から勉強すれば間に合うだろ」

「えっ、ちょっと待って、烏野の入試は来月だけど」


それって間に合うの?
影山、頭良いんじゃないの?








「影山、ちょっといい?」

「ん?」


途中で私の家に寄って、問題集から少し問題を影山に出してみた。影山の解答欄はびっしりと埋まっていたが、答え合わせをしてみればそれは残念な結果だった。





「なんでこんな答えになるの!?」

「おっかしいな、どこで間違えた」

「最初から違うよ影山!」


なんでこの結果で超難関の白鳥沢受けたたの!?受かると思ったの??




これじゃあ青城も危うい

もしかしたら烏野だって、





「勉強しよう、影山」

「お、おう」

「このままじゃ烏野だって受かるかどうか……やれる事全部やるよ!」

「そ、そんなに酷いのか?」

「私が嘘を吐けるような性格に見える? 私が教えられる所は教えるから頑張ろう」

「お、おう」

「じゃあさっそく中一の問題から」

「そんな前から!?」




影山と私の受験勉強は、放課後だけでなく、昼休みや空いた時間にも続いた。





「違う違う、これはこうして」

「何でそうなるんだよ」


一緒に勉強をする姿はもうお馴染みとなったのか、最初はジロジロと見て来たクラスメイトもいつしか私達に興味がなくなったようだった。







「そういえばお前さ」


図書室で一緒に受験勉強中、影山は問題集を解きながら話しかけて来た。


残念ながら答えは間違っているよ影山。入試を間近に控えて、勉強する時間はあまりない。私が教えてあげられる時間ももう僅かしかないだろう。






「何?」

「教室でいつも一人なのか?」

「うん、だって友達居ないし。もう慣れたけどね。どうせあと少しで卒業だし仲直りする気もないよ」

「でもそれじゃあ誤解されたままだろ? 男好きとか、そういうの。言い返さねぇの?」

「とっくに言い返したし、違うって何回も言ったけど、無駄だったよ。所詮友達ごっこだったって事だよ」

「女ってよくわからねーな」

「女心というのは、男にはなかなか理解出来ないものなんですよ影山君」

「ふーん」


相槌を打った影山は不機嫌そうに「意味不明だ」という問題に取り掛かった。







二人が図書室で受験勉強をしていると、いつの間にか外は真っ暗になっていた。





「ん?」

「……。」

「おい、ひま。寝るな、この英文の意味教えろ、テストによく出てたんだろ?」

「う、うん」

「寝るなっつってんだろ! おい、この並びで合ってんのか!?」

「……うん」


いつの間にか睡魔がやって来たらしく、眠気に勝てない私は虚ろになっていた。隣に座る影山に激しく揺さぶられても、私はもう限界だった。


ごめん影山、ちょっと寝かせて。





「おいひま!」

「……う」


図書室の机に突っ伏したままの私の肩を揺らす影山に曖昧に返事したが、おやすみモードに入った私の眠気はとれる事はなかった。


影山に勉強を教えてあげたいけど






「おい」


不機嫌になった影山の声が聞こえた。




「おい、ひま、起きろ」

「……。」

「おいテメェ、教える気あんのか」

「……。」



影山の声が聞こえる。
けど閉じた私の目は開きそうにない。











「おい、ひま」













「寝てんのか?」











「……黙ってれば、可愛いのにな」













「つーか起きろよ、ボケェ!」

「うぎゃッ!」


影山に頬を勢い良くつねられて、
眠気はすぐにどこかへ飛んで行った。





「痛いよッ! 起こすならもっと優しく起こしてよ馬鹿影山!」

「何度も起こしたわボゲェ!」

「頬つねるとかヒドイよ!」

「この英文が合ってるかって聞いてんだよ! どうなんだッ!?」

「英文? んー? 合ってるけどここのスペル違うよ。惜しいね」


ヒリヒリする頬を撫でながら、
影山が見せてきた解答を確認した。




「チッ」

「うう、ヒリヒリする」

「そんなに強くつねってねェだろ」

「でも痛かったよ」

「……悪かった」

「全く、私の顔を可愛いと思ってるならもう少し手加減してよね。ああもう痛い……」

「悪い……って、え?」

「?」

「お前、起きて、聞いて、たのか?」

「うとうとしてたから聞こえていたけど? えっと確か、私の顔が可愛いとか言ってなかった?」

「言ってねェ!」

「でも確かに聞こえたような」

「言ってねェ!!」

「そうなの? さてと、じゃあ目も覚めた事だし、続きしようか」

「お、おう」

「影山、顔赤いよ? 風邪? えっと、次の問題は……っと」


問題集を覗いて、過去にテストに出ていた問題を探した。そういえば図書室にちらほらいた生徒達は私達以外居なくなっていた。もうすぐ下校時間らしい。そろそろ帰り支度をした方がいいのか聞こうと隣にいる影山をちらりと見れば、こっちまで照れそうになるくらい顔を赤くしていた。






「(……なんでそんな顔してんの)」



この気持ちは何だろう。





隣にいる影山を見ていると、彼もこちらを向いて、私とばちっと目が合った。いつもの無愛想な表情で私を見つめていた。




「ひま」

「……なに」


目を逸らさないでいると、影山の顔がぐっと近寄ってきた。気が付けば、私の腰には影山の手が回って来ていた。




「え、ちょ」

「ひま、」

「影山?」



気付いた時には、唇が合わさっていた。逃げようと思えば、逃げれたかもしれない。


影山を振り切って、逃げればキスをする事もなかっただろう。






「……悪い」

唇を離した影山は、口を開いたかと思えば謝ってきた。





「謝るくらいならしないでよ」

「悪い」


気まずそうに影山は下を向いた。けど相変わらず私の腰には影山の手が回っている。






「……ねえ、影山」

「なんだ」

「私、影山と友達にはなれない」

「は?」

「もう、戻れない」

「……。」

「どうしてくれるの」


見上げて影山に言うと、影山はぐっと私を引いて強く抱き締めた。






「なら今から俺はお前と友達をやめる」

「……。」

「好きだ、ひま。俺と付き合ってくれ」

「順番が色々と逆だよね」

「うっせ」

「ふふ、影山らしいね」


甘えてるように影山に擦り寄ると、影山は驚いていたけど、ちゃんと抱き止めてくれた。




きっとこの気持ちに嘘はない。





(ていうか外真っ暗じゃん)
(そろそろ帰るか、送ってく)
(影山優しいね、私の顔が好みだから?)
(まぁ、嫌いじゃねぇけど)
(えっ)






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