3、君の「笑顔」は安心する

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「ひま、またサボり?」



遅めの登校で教室に向かうと、隣の席の国見がいつもの眠たげな表情で言ってきた。



「どうせ国見だって授業中いつも寝てるんだからサボってるようなもんでしょ」

「受験生がサボりとか余裕だよね、ひまって高校行く気ないの?」


自分の席に座ると、また国見は私に話しかけてきた。




「この前のテストの点数がそんなに悪くなかったから大丈夫、ていうか私に話しかけないでよ国見」

「何で?」

「誰のせいでこの間、私が平手打ちされたのか分かってる?」

「え、アレって俺のせいなの? 勝手に勘違いした女の子が悪いんじゃん。俺がひまと仲良くして何が悪いの?」

「それでも勘違いする子がいるの、だから私に話しかけないで」

「やだね、俺ひまの事好きだし」

「私は国見の事好きじゃない」

「残念、振られちゃった」


そう言って国見は欠伸をしていた。きっと国見は本気で私の事を好きではないだろう。





「(相変わらず眠そうな顔)」


国見とは一年の時から同じクラスで男友達の中では一番仲が良く、一緒にいる事が多かった。

……まぁ、そのせいで女友達に誤解されて平手打ち喰らったんだけどね。





「でもね、国見のせいじゃないにしろ、もう嫌われるのは嫌なの」

「つーか、女子に嫌われるのはひまにも悪いところがあるからだろ?」

「分かってるよ、そんな事」


分かってる、けど
八方美人なこの性格は治らない。





「じゃあさ、いい加減に彼氏作れば? そしたら他の奴らから誤解されないんじゃない?」

「なるほど、彼氏か。それは悪くないアイデアだけど私好きな人いないよ」

「俺と付き合う?」

「そういう冗談は好きじゃない」

「本気で言ってんだけど」

「……なんていうか、国見と私が付き合ってるところが想像出来ない」

「あっそ、ならいい」


拗ねたように、国見は席から立ち上がってどこかに行ってしまった。一体何だと言うのか。




「(今の、もしかして本気で告白してたとか?)」



まさか、あの国見が?

一年の時から仲は良い方だけど、まさかあの国見が私の事を好き?いや、ないない。あり得ない。絶対にない。

いくら私が可愛いからって、
国見はそんな事を言うはず……。













「……。」

「悩みすぎだろ、早くしろ」


自販機の前で、いちご牛乳か飲むヨーグルトか迷っていたら隣に影山がいた。影山に自販機を譲ったら、影山は迷う事なく牛乳を選んでいた(まだ身長伸ばす気?)



私は悩んだ結果いちご牛乳を選んだ。




「何かあったのか?」

「分かるの?」

「お前、顔に出やすいからな」


私の顔を覗いてくる影山に悩みを聞いて貰う事にした。

お互いストローをパックの飲み口に挿しながら、廊下の方に移動した。




「で?」

「えっと、友達だと思ってた男友達に、さっき告白? っぽい事言われて」

「告白? なんだ付き合う事にしたのか、良かったじゃねーか」

「いや、てっきりいつもの冗談だと思って、付き合ってるところが想像出来ないって言っちゃったの」

「なんだ振ったのか」

「だって本気か冗談か分からなかったし」

「でもひまはそう思ったんなら、もう答えが出てるじゃねーか」

「……そうなんだけど」



国見から告白されるなんて思わないし、それに気付かないで今まで仲良くしてるなんて私って結構ひどいやつだなって思ったし。




「私って鈍感なのかな……」

「鈍感?」

「他人の気持ちに気付くのが苦手って事」

「なるほど」

「難しいなぁ」


はぁ……、とため息を吐いていると
ふと視線を感じた。


廊下の向こう側にいた女子生徒が二人居て、私の方をチラ見しながらひそひそと何か話していた。




「(ああ、これはまた)」



いつもの、かな。





「ごめん影山、私もう教室戻るね」


悪い噂の絶えない「お姫様」な私と影山が一緒にいればまた勝手に勘違いされてしまうし、身に覚えのない噂が出てきてしまう。影山に迷惑がかかると思い、ここは逃げようと考えた。





「ひま」

「!」

その場から離れようとした私の腕を影山が掴んだ。そのせいで私の足はぴたりと止まってしまった。





「何?」

「行くな」

「行くなって……あのね影山、私学年の女子生徒のほとんどに嫌われてるんだよ? 影山にも悪い噂が付くかもしれないから」

「逃げんのかよ」

「だって」

「お前は何も悪い事してねえだろ」

「……。」

「俺の事なら気にすんな」

「でも、もし影山が私に狙われるとかたぶらかされてるとか噂になったらどうするの」

「別に構わねえ、それに今はもう少しひまと話したい。あとな、そんな顔したひまを教室に戻したくもない」

「……私は知らないからね」


変な噂になったとしても私のせいじゃないからね。






「あ、またあの子だ……」
「ホントだ、いつも男といるんだ」




「……。」


聞こえないように小声で言っているのか、それとも聞こえるようにあえて言っているのか。

私と影山を見た女子生徒はこそこそと話していた。ほらやっぱりこうなったでしょ?私といるとロクな事がないんだよ。




「あのさ、影山……やっぱり」

「おい、そこの」

「!」


影山は牛乳片手に、ひそひそと話している女子生徒に声をかけた。




「ちょ、影山?」

「ひまに何か用なのか?」

「「え」」


女子生徒達は、急に影山に声をかけられ戸惑っていた。ていうか影山、何やってんの?わざわざ声をかけるとか意味わかんない。





「影山、いいから。行こう」

「あ? ああ……いいのか?」

「いいよ、私に用事なんてないから」

「?」


影山はきょとんとした顔をしていた。







先ほどの廊下から少し離れると、影山のさっきの行動がどこか面白く感じた。



「全くもう、ああいうのは放っておけば良いんだって」

「何でだ?明らかにひまの方を見て言ってただろ」

「私は、平気だから」


何を言われたって、もう平気だから。
もう慣れちゃったから。






「平気なら、そんな顔すんな」

「え?」

「苦しい、って顔してるぞ」

「え?」

「そんな顔するくらいなら、自分を誤魔化してんじゃねえよ」

「……影山、私」

「あ?」

「そんな苦しそうな顔してる?」

「してる」

「……そっか」


なんだ私、全然

誤魔化せてないんだ。








「……全然、平気じゃないじゃん」

「?」

「影山、なんかありがと」

「おう」


そう言った影山は少し笑っていた。

なんだ無愛想かと思ってたけど、ちゃんと笑えるんじゃない。






(君の笑顔は、少し安心する)


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