2、「不良」のレッテル

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「お前、いつもここにいるんだな」

「そういう影山だって」



屋上へと続く階段を上がると、この前のようにひまがスマホを触りながらそこに座り込んでいた。


ひまの隣には女子が好きそうなぬいぐるみがたくさんついた通学鞄があった。

という事はコイツこのまま帰る気か?




「お前受験生だろ、授業サボっていいのかよ」

「影山だってサボりじゃん」

「俺のクラスは自習だから良いんだよ」

「え、何それ羨ましい」

「志望校落ちても知らねーぞ」

「うーん、ギリギリって言われたしなぁ。でもまぁなんとかなるでしょ」

「なんだよその自信」

「私やれば出来る子だもん」

「そういうのは自分で言わねえだろ」


とりあえず座り込んでいるひまの隣に座った。こいつはいつも授業サボってるのか?つーか何組だ?受験シーズンに授業サボるとかひまは高校に行く気はあるのか?それとも受験勉強しなくてもいいくらいに凄く頭が良いとか?




「お前は一体何なんだ」

「え? なに? 何か言った?」

「何でもねぇ」


ひまの事を知りたくなったが、それを口にしたくなかった。


けど、ひまは一緒に居て楽だ。


俺が知っている事と言えば、ひまは素直過ぎるくらい裏表のない性格で、多分嘘が付けない。若干、バカっぽい感じだがそれはあえて言わないでおこう。だから最初はなんでこんな人の良さそうなこいつが友達に殴られたりしたのか分からなかった。







「そういや、バレー部引退した」

「もうそんな時期なんだね。じゃあこれからは受験勉強で忙しくなるんじゃない?」

「うげ」

「そういえば影山って志望校どこ?」

「白鳥沢、バレー強いし」

「うわ、超難関な所に行くんだね。平均点ギリギリの私じゃ絶対に受からないかな、ていうか影山って頭良いんだね」

「……そういうひまはどこ行くつもりなんだよ」

「んー、烏野かなぁ。そんなに遠くないし、烏野は女子の制服が可愛いから」

「そんな理由かよ、てっきり俺は青葉城西に行くのかと思ってた」

「うちの生徒はほとんど青城に行くよね。だからこそ私は青城には行かない」

「なんでだ?」

「だって私、北一の女子に嫌われているもん」

「は?」


北一の、特に同級生の女子生徒に嫌われる理由。俺がひまを嫌うような理由があんのか?





「強欲なお姫様」

「?」

「この間さ、同級生の女子生徒は私の事をそう呼んでたの「欲しいと思った男は逃さないお姫様」だってさ」

「なんだそれ? 二股でもしたのかお前」

「二股どころか今まで彼氏いた事ないよ私、誰に対しても人懐っこくしていたせいで狙ってもいない男に好かれる好かれる」

「……。」

「変な呼び名のせいで仲が良かった女友達にはことごとく無視されるし、知らない女子生徒からも嫌われて、信じていた親友にもこの前、平手打ちされて「死ね」って言われた」

「えげつねえ」

「そんな状況で私が青城に行くわけないでしょ?」


淡々と説明したひまに俺はポカンとしていた。




「それって別にひまが悪いわけじゃねーだろ?」

「まぁそうなんだけどね、私も男子に思わせぶりな態度だったわけだし、少しは私にも悪い所があったんだよ」

「お前って意外とモテるんだな」

「ほら、私って可愛いし?」

「自分で言うなよ」

「ビッチとか男好きとか言われたけど、私はその気一切ないんだけどね」

「なら今のままでいいだろ」

「ん?」

「俺は今のお前しか知らねえし、今のところ俺はひまに対して特別な感情もない」

「今のところ、なの?」



それって、影山もいつかは私の事を違う目で見ちゃうって事?





「今のところは、だ」

「もしかして影山君って私の事、好みだったりする?」

「……悪いかよ」

「!」


冗談で言ったつもりだったけど、影山の返事に私は思わず手に持っていたスマホを落とした。







「え、超引くんだけど」

「引くなよ、今のところはそういう風に見てねえって言っただろうが」

「いや、そうだけど」



今のところ、っていうのが妙に引っかかるんだけど。私はどう答えればいいの?

告白されてる感じではないけど。






「ちなみに影山は、どんな女の子が好みなの?」

「は? あー、考えた事ねえな」

「あ、そう」

「でもひまは割と好みだ」

「……なんかもうよく分からないんだけど」

「?」





(そういやひまって、実は不良か?)
(なんで?)
(いっつもサボってるだろ)
(だって教室行くと無視されるし)
(……。)
(あとコソコソと悪口言われるし)
(……。)
(まだ不良のレッテル貼られた方がマシ)




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