1、初めまして「王様」

───────----‐‐‐ ‐

「コート上の王様」



いつからだったか、
そう呼ばれるようになったのは






中学最後の大会、

県予選の決勝で俺が上げたトス、


チームメイトは誰も拾おうとはせずに地面に落ちた。誰もボールに触れようとはしなかった。そしてそのまま俺はベンチに下げられた。



強さを求めた、勝ちたかった。


ただそれだけだ。


勝たなきゃ、強くなれないだろ


強くないと、コートに残れないんだ





「(アイツらは、違うのか?)」



県大会が終わった今でも、

あのシーンが思い出される。



勝ちに行って何が悪いんだ。
俺の何が間違っていたんだ。





「クソッ!」



授業に出る気分でもなく、屋上へと繋がる階段を荒々しく上がりながらなんとかイライラを落ち着かせようとした。


屋上へ行こうとしたが、鍵が閉まっていた。「チッ」と思わず舌打ちが出た。






「今日は屋上、開いてないみたいだよ」

「!?」


声がして横を振り向くと、大人しそうな女子生徒が屋上前の踊り場に座り込んでいた。スマホを触っていて、俺の方をチラリとも見てはいなかった。




「サボれなくて残念だったね」

「そう言うお前は何してんだよ」

「サボり」

「……。」


座り込んでいる女子生徒の顔を見ると、左頬が赤く腫れていた。


まるで平手打ちされたかのように。





「おい」

「ん?」

「その頬、殴られたのか?」

「うん、バチーンってね。良い音出たよ」


殴られたというのに女子生徒は気にするわけでもなく、腫れている左頬に手を当てていた。




「どう? 腫れてる?」

「ああ、すっげぇ痛そう」

「そっか、じゃあ今日はもう帰ろうかな。このままここに居ても仕方ないし」

「友達とか心配しねぇのかよ」

「あはは、その友達に殴られたんだよ」

「は?」

「でも、友達だと思ってたのは私だけだったみたいでさ。友達の好きな人が私に告白した途端これだよ、もう最悪」

「お前、なんでそんなに平気そうなんだよ」

「そう見える?」

「おう」

「流石に慣れたのかな、こーいうの。女の友情って簡単に壊れちゃうんだよねー、もう面倒になってきたよ」


君もサボりなら隣座ったら?と頬を腫らした女子生徒がやっと俺の方を見て言ったので、言われた通りに隣に座った。




「……。」

「悩みあるなら聞くけど?」

「なんでお前なんかに」

「そう?話してみると軽くなるかもよ君の悩みってやつも」

「悩みなんてねぇよ」

「じゃあ何でそんなに苦しそうなの?」

「!」


女子生徒は隣のいる俺の方を向いて首をかしげた。その目は俺の心の中を覗かれているみたいで胸騒ぎがした。






「県予選の決勝で、独りよがりなプレーだと言われた。んで、ベンチに下げられた」

「県大会?」

「バレーの試合だ」

「ふんふん、なるほど君は自分勝手なプレーをしたと」

「……コート上の王様だと言われた。俺は試合に勝つ為に自分なりに動いていたつもりだ、けど周りはそう思っていなかった」

「え、王様?かっこいいじゃない王様!なかなか言われないよ王様なんて」

「何回も言うな! 俺は嫌なんだよ、そうやって呼ばれるのがッ!」

「そうなの? バレーが上手いとか、凄いからそう呼ばれたんじゃないの?」

「ちげーよ」


バレーが上手いだけで周りが「コート上の王様」なんて呼ぶかよ。





「私さ、」

「なんだよ」

「バレーのルールとか、あんまり詳しくないけど、バレーって一人でやるスポーツなの?」

「は?」

「さっき自分で独りよがりって言ったでしょ? 君は一人でスポーツしてたの?バレーってみんなでやるスポーツでしょ?」

「俺は、勝つために」

「ほらまた」

「!」

「俺、じゃなくて「俺達」じゃないの? 一人じゃバレーは出来ないでしょ?」

「……。」



一人じゃバレーは出来ない。

当たり前の事を言われ、言葉が出なかった。なんで初めて会った見知らぬ女子生徒にこんな事を、当たり前の事を言われなければならないのか。




「俺は、間違えたのか?」

「間違えたなら、やり直せばいいよ、今度は間違えないように」

「……。」

「ねぇ、泣きたいなら胸でも貸そうか?」


そう言って見知らぬ女子生徒は俺に向かって腕を広げて来た。




「……は」

「あれ? 泣かないの?」

「泣かねーよッ! 何で見ず知らずのお前なんかの胸なんか借りなくちゃいけねぇんだよ!」

「泣きそうだったから」

「はぁ!?」

「まぁ、泣かないで済むならいいけど。あんまり無理して自分を誤魔化すといつか壊れちゃうよ?」

「……そういうお前は泣かないのかよ、友達だと思ってた奴に殴られたんだろ?」

「なら胸を貸してくれるの?」

「ばッ、誰が!?」

「ちょっと声が大きいよ、今授業中だから静かにね」

「……おう」

「確かに泣きたい気分ではあるけど、あいにく一人で自己解決しちゃうタイプなの、それに慰めてくれる友達はもう居ない」

「不器用な奴」

「君に言われたくない」

「お前、名前は?」

「ひま」

「下の名前は?」

「わり、そういう王様は?」

「王様って言うな、影山飛雄」

「影山ね、で、何? 名前聞いて来たって事は私と友達にでもなってくれるの? あ、私に惚れたとかマジやめてね、そういうのマジ困るから」

「誰がお前に惚れるかよ。まぁ友達くらいにならなってやってもいい」

「何その上から目線。まいっか、今の私には友達居ないし、一人くらいいた方がいいよね。よろしく影山」

「おう」


小さく笑って俺に言った
「ひまわり」というらしい女子生徒。


腫れている左頬が痛々しかったが、なんとなく俺に似ている気がした。

何があったかは知らないが、友達だと思っていた奴に殴られたという今のひまはチームメイトから見放された俺によくに似ていた。




この日、俺とひまは


「友達」に、なった。





(あ、痛いと思ったら口の中切れてる)
(どれだけ強く殴られたんだよ)
(うへぇ、血の味がする)
(保健室行くか?)
(そうする)

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