6、「好き」だなぁって

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「わり、月島と会ったんだな」


休み時間に飛雄が教科書一式を持ち、私の席に来てそう言った。そういえば次は移動しないといけないんだった。私も次の授業の準備をして立ち上がった。



「月島君? うん、昨日ね、部活に行く前に会ったよ。この前プリントを届けてくれたお礼を言ってなかったからね」


次の授業へと向かう為、廊下を歩きながら隣を歩く飛雄にそう言った。



「ふーん、月島と仲良いのか?」

「どうだろう、月島君とそんなに話した事ないからなぁ、というか飛雄の方が仲が良いんじゃないの? 同じバレー部でしょ?」

「……。」

「あれ? 仲良くないの?」

「良くはない」

「そんなハッキリ言わなくても、同じチームなんだから仲良くしないと」

「……。」

「まぁ、無理にとは言わないけど」


私だったら仲良くない人と仲良くしろって言われて、はいそうですかと素直に頷く事は出来ないと思う。特に飛雄の性格を考えたらそれは難しいだろう。




「わりは」

「うん?」

「月島みたいな奴、どう思う」

「どうって」


え? どうしたんだろう飛雄、月島君をどう思うなんて聞いてくるなんて。





「えーっと、月島君は……あ、背が高いなぁって思ったかな」

「わりは背が高い方がいいのか」

「うん? まぁどちらかと言えば、踏み台使わないで済むから、背は高い方が良いんじゃない?」

「……そうか」

「?」



どうしたんだろう?

もしかして飛雄は月島君と上手く言ってないのかな?仲は良くないけど、本当は月島君と仲良くしたいとか?だから私に聞いてきたのかな?だったらちゃんとアドバイスとかしてあげた方がいい?

でも私、人間関係って苦手だしなぁ。





「えっと、喧嘩でもしたの?」

「喧嘩? 誰が?」

「飛雄と月島君が」

「別に、喧嘩はしてない」

「ならいいけど」


飛雄の方を向いてそう言った。
どうやら深刻な状況ではないらしい。

ふと隣にいる飛雄を見ると、月島君と歩いていた時とは目線が違うなぁと思った。まぁ飛雄と月島君は身長が違うから当たり前なんだけどね。



「……。」

「どうした?」

「ううん、何でもない」

「?」

「(飛雄と月島君を比べちゃ駄目だよね)」


私が好きなのは飛雄だし。

そう思いながら、飛雄から目線を外して前を向いて歩いた。もうすぐ授業が始まりそうだから急がないとなぁ。





「お、影山じゃねーか。何?移動?」

「ちっす」

「ん?」


飛雄と一緒に階段を上がっていると、坊主頭の人が飛雄に話しかけて来た。もしかしてバレー部の先輩かな?と思った。



「ん?」

「!」

「え、じょ、女子……?」

「へ?」


坊主頭の先輩は、飛雄の近くにいた私の方を見た。何か言った方がいいのか悩んでいると、先輩の顔はみるみる驚いた顔へと変わっていた。




「え、おま、影山」

「なんすか?」

「いや、おま、女子と、え?」

「?」

「あ、あの」


しどろもどろになっている坊主頭の先輩に、おそるおそる話しかけてみると、先輩は私を見てビクッとした。


いや、そんなに驚かなくても。




「バレー部の先輩ですか?」

「え、あ、そうだけ、ど」

「やっぱりそうなんですね」

「えーっと……影山クン? 隣にいる子は、誰かな?」

「誰って」

「はじめまして、ひまわりです」


飛雄が答える前に自己紹介をした。




「ひま?」

「はい、ひまです」

「ひま……」

「?」

「あのひまさん!?」

「あの?」


あのひまさん、ってどういう意味なの。何、私って有名なの?なんでバレー部の先輩が私の名前を知ってるの?

なにこれどういう状況?




先輩の反応に私自身も驚いていると、授業が始まる音が鳴ってしまった。




「やっべ、遅れる。すみません田中さん失礼しますっ!」

「お、おう」


バレーの先輩と別れ、私と飛雄は次の教室へと急いで走った。授業に遅れたかと思ったが、教科担任はまだ来ていないらしくなんとかなった。

けど、先ほどバレー部の先輩が言っていた「あのひまさん」という台詞が気になって仕方がなかった。









どういう意味だったの?

と、昼休みに飛雄に聞いてみたが、
「知らねえ」と言われてしまった。




「私って有名なの?」

「わり、何か目立つような事でもしたのか?」

「してないよ、多分」

「多分なのか」

「うん、優等生のフリしてるから目立つような事はしていないよ」

「あ、そういえば」

「ん?」

「部室で、わりの話を少ししたかも」

「私の? 何か私の事を話したの?」

「んー……あ、少し前にわりが俺にプリントを届けに来ただろ? それで届けてくれた女子生徒は誰だって話題になってたかもしれねえ」

「ふーん」

でもそれだけじゃ有名にはならないよね。それとも男子高校生ってそういうものなの?よく知らないけど。




「どちらにしろ、あんまり目立ちたくないなぁ」

「そうなのか?」

「なんていうか、高校生活は静かに過ごしたい。目立たずに、ひっそりと。中学の時は……うん、思い出したくない」


中学時代は、どちらかといえば目立っていたと思う。良い意味でも、悪い意味でも。この顔のせいで何かと噂になっていた。私としては地味に過ごしていたはずなのになぁ。




「はぁ……」

「……。」


ため息を吐いていると、紙パックの牛乳を飲んでいる飛雄の視線に気がついた。

そんなに見つめられると気になるんだけど、どうかしたのかな?



「なに?」

「わりってさ」

「うん」

「可愛いよな」

「へ?」


思わず飲み物の吹きそうになった。ジッと見つめてきたから何かと思えば、「可愛い」と飛雄は口にした。




「な、何、急に」

「別に、わりの顔見てそう思った」

「……。」


可愛い、とか、美人、とかは正直何度も言われて来た。直接言われた事だってあるし、そんな噂が広まっていた事もあったから、言われ慣れてしまい、気付けば言われても嬉しいと思わなくなっていた。

けど今、飛雄に改めて「可愛い」と言われて、頬がぽかぽかと熱くなってきた。顔が赤くなっていないか気になる。




「……ありがと」

小さくお礼を言うと、飛雄は「おう」と答えた。





「ああもう、私やっぱり飛雄が好きだなぁ」


机に項垂れながらそう言った。私は飛雄が好きだ。顔も性格も、ふと見せる優しさも全部好きだ。ずっと一緒にいたい、隣にいて欲しいと思う。



「俺もわりが好きだ」

「……うん」


飛雄は机の上にあった私の右手に触れて、軽く握っていた。私の手よりも随分と大きい彼の手。爪は手入れされている綺麗な手だ。




「わりは、綺麗な手だな」

「こ、これ以上はもう恥ずかしいからやめて」

「何をだ?」

「え、自覚なし?」

「?」


飛雄らしいというか、何というか。けどきっと私の顔はもう確かめなくても赤くなっているに違いない。私は本当に飛雄に弱いようだ。真っ直ぐな飛雄に私はいつも困惑してしまう。

バレーが好きな飛雄も好きだけど、これ以上は私の顔が茹でダコのようになってしまいそうなので、口には決してしない。





(けど、いつかちゃんと伝えたい)



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