5、気になる噂の「彼女」は
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放課後になり、
いつものように部活へと急ぐ飛雄を見送った。
なんとなく、今はなんの練習してるの?と聞いてみると「日向とタイミングを合わせておかねぇとな」と、飛雄は言っていた。
「(だから日向って誰なのよ)」
バレー部で飛雄がどんな練習をしているのか、私は知らない。聞いたら教えてくれそうだけど、バレーのルールを詳しく知らない私には全部理解をする事が出来ないかもしれない。
「(でも、日向が誰なのかちょっと気になるから、今度聞いてみようかな)」
そう思いながら、筆記用具や教科書を詰めた鞄を肩にかけて、廊下へと出た。私もこれから部活に行かなければいけない。
「ん?」
廊下を歩いていると、見覚えのある男子生徒が前を歩いていた。あの長身は間違いない、彼だ。
「月島君」
歩みを少し早めて、前を歩いている背の高い彼に追いついた。呼びかけると、月島君は立ち止まって振り向いてくれた。
「ひまさん?」
「やっぱり月島君だった。この間はプリントを渡してくれてありがとう」
「別に、いいよお礼なんて」
「ううん、助かったよ。それにしてに月島君は背が高いからすぐ分かるね、後ろ姿で分かっちゃったよ」
「それ、僕が目立つって事?」
「うーん。目立つというか、迷子になっても月島君はすぐ見つかりそうだよね」
「それって目立つって事デショ」
「あ、やっぱりそういう事になるかな?」
クスクス笑いながら月島君に言うと、彼は再び歩みを始めて先へと進んでしまった。すぐに追いついて、「ごめんね」と月島君に言って、彼の隣を歩いた。機嫌を損ねてしまったかな?と月島君の顔を覗いたが、無表情だったのでよく分からなかった。
「何? 人の顔をジロジロ見ないでよ」
「月島君ってほんと背が高いよね、見上げないと月島君の顔がちゃんと見えないし」
「ひまさんの背が低いんじゃない?」
「えー……平均身長だと思うけどなぁ」
低くも高くもない私の身長、やっぱり月島君の身長が高いんじゃないかなと思い、再び見上げた。
飛雄より高い身長、慣れた目線より少し上にある月島君の顔。
「……何?」
あまりにも私がジロジロと見過ぎたのか、月島君は怪訝そうな顔で私を見た。
「月島君ってさ」
「うん」
月島君の顔をじーっと見ながら彼に話しかけた。何故か目を合わせてくれなかったが、構わず話を続けた。
「月島君ってさ、高い所に手が届くから良いよね」
「は?」
「踏み台とか使わないでしょ?」
「……あんまり使わないけど」
「いいなぁ、私もあと10cmくらい身長欲しいなぁ、あと少し手が届かないって事がよくあるから」
少し背伸びをして歩いてみた。背伸びをした事で月島君と少し目線が近くなったが、彼は相変わらず私と目を合わせてくれなかった。
「別に」
「ん?」
「別に良いんじゃない? ひまさんは今の身長のままで」
「そうかなぁ、おっと……」
背伸びをしたまま歩いていたせいで、バランスを少し崩してしまい、つい隣を歩いていた月島君の腕にしがみついてしまった。
「……ちょっと」
「あ、ごめん」
すぐに月島君の腕から離れたが、彼はとても機嫌が悪そうだ。もう一度謝ると「気をつけてよね」と言われてしまった。
「じゃあ僕こっちだから」
「あ、うん、部活頑張ってね」
第ニ体育館へと続く渡り廊下で月島君と別れた、私は月島君に悪い事をしちゃったなぁと思いながら、合唱部の部室へと向かった。
「はぁ……」
バレー部の部室へと向かう途中、思わずため息が出た。誰かに聞かれていないかと周りを見たが自分一人のようだった。
「(ひま、わり)」
第一印象は、まぁ悪くはなかった。
言い方が悪いかもしれないが、クラスにいる女子生徒の誰よりも綺麗な子だと思った。初めて彼女を見た時はバレー部のマネージャー志望かと思ったが、彼女は影山に用があっただけだった。
次に分かった事といえば、ひまわりはあの王様、影山の想い人らしい。バレーにしか興味がなさそうな王様から恋愛話が出るとは思わなかった。
だってあの影山が恋をしているなんて、誰も思わないデショ。
しかもあんな綺麗な子に恋だなんて、意外と影山も見る目があるんだなと少し関心してしまった。
「(まぁ、あれだけ美人だったら影山以外にも好かれてそう)」
第一印象だけなら、きっとときめかない男はいないだろう。自分ですら、最初見たときに彼女から目が離せなかった。
「はぁ……」
もう一度、小さくため息を吐いて部室の扉を開けた。中には日向と影山が着替えていて、二年生もいるようだった。山口はトイレに行ったっきりまだ来ていないらしい。
「おう月島、お前今ため息吐いてなかったか? 悩みがあるなら俺にドーンと相談してみろ!」
「結構でーす」
田中さんにそう言って自分のロッカーを開けた。先輩には悪いけど、相談するような悩みは全くない。
すぐに練習着に着替えながら、ちらりと影山の方を見た。なんとなく見ただけなのに、影山とばっちり目が合ってしまった。あーあ、最悪なんだけど。
「なんだ」
「別に」
「?」
「……ああ、さっきひまさんに会ったよ」
眼鏡をかけ直しながら、なんとなく影山にひまさんに会った事を伝えた。彼女の名前を出せば影山も少しは動揺するかと思ったが
「そうか」
影山は一言だけそう言った。
表情ひとつ変えず、たった一言。
「……。」
何それ、それだけ?
なんだ、つまんないの。
もっと反応するかと思ったのに
動揺する顔が見たかったのに、残念。
「ひまさんって誰だっけ?」
はて?と日向が話しかけてきた。思い出せそうで思い出せない、っていう顔をして聞いてきた。ていうか君、早く着替えなよ。
「なぁなぁ月島、ひまさんって誰だっけ?」
「ああもう、うるさいな」
ぴょんぴょん跳ねる日向を鬱陶しく払った。近寄られると着替えにくいんだけど。
「なぁって」
「うるさいな」
日向に答えず着替え終わると、部室にやっと山口が入って来た。そして日向に言い寄られている僕を見て不思議そうに聞いてきた。
「日向、なに騒いでるの?」
「あ、なぁ山口! ひまさんって誰だっけ?」
「え? ひまさん? えーっと、確か影山と同じのクラスの人だっけ?」
日向の質問に、山口は思い出すように答えた。そういえば山口はひまさんが影山の好きな人という事を知らない。知っているにはこの中では僕だけだろう。
面倒だからバラしたりはしないけどね。
「あ、そうだ! 影山のクラスメイトで仲が良いって言ってた子だ、確か美少女の」
「美少女」という言葉に田中さんが反応した。
「日向、そのひまさんというのは誰だ。先輩に説明しなさい」
「ヒッ!」
田中に両肩をがっしり押さえられた日向は怯えていた。田中の顔が怖いせいか日向は近くにいた山口に助けを求めていた。
「日向くーん?」
「え、えっと、俺、そんなにひまさんっていう人の事をよく知らないっていうか、会った事ないっていうか」
「でも美少女なんだな?」
「つ、月島がそう言ってた、から」
「そうなのか月島?」
「……まぁ(面倒だなぁ)」
「どうなんだ、影山」
「まぁ、可愛い方だと思います」
「ほう……」
田中はなるほどなるほどと頷いていた。月島はその間に着替えを済まして、そそくさと部室を出て行き、その後に山口が続いた。
「ねぇツッキー、日向が言ってたひまさんってそんなに可愛いの?」
「なに、山口も気にしてるの?」
「そりゃ気になるよ、あの影山だって可愛いって言ってたし」
「山口もいつか会うんじゃない?」
(ひまさんは僕の事を目立つって言ってたけど、ひまさんも十分目立ってるんだよね)
あのルックスだ。
何処にいても目立つだろう。
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