7、そして彼と「再会」する
───────----‐‐‐ ‐





昼休みになり、いつものようにお弁当を持って飛雄の席に向かった。今日は珍しく自主練には行かず、私と一緒に昼食を食べてくれるみたいだ。




「そうだ飛雄、駅前に新しくスイーツカフェ出来たんだって! 今日の放課後一緒に行こうよ」

「悪い、今日は部活がある」

「え、今日も? じゃあ部活が休みの日とか……あ、そうだGWとかは?」

「GWは合宿がある」

「じゃあ、今度の土曜日とか」

「部活はないけどGWに他校との試合があるから、いつも以上に練習しとかねぇとな」

「……。」


今にもバレーがしたいようで、わくわくした表情の飛雄に、私はそれ以上何も言えなかった。だってバレーが何よりも大好きな飛雄だ、その飛雄がバレーの合宿や試合を楽しみにしている。そんな飛雄を目の前にして、どうしてもデートがしたいなんてワガママは言えっこない。





「(どうして私は素直に、飛雄と共に喜んであげられないんだろう)」



飛雄が楽しいなら、私も楽しい

飛雄が嬉しいなら、私も嬉しい



いつからだろう、バレー部に向かう飛雄の背中を見るのが嫌になったのは。

いつからだろう、こんな真っ黒な感情が浮かぶようになったのは。




あ、今の私はすっごく嫌な奴だ。




だってバレーに飛雄を取られたと思ってしまっている。私はいつでもバレーを楽しむ飛雄を応援していたはずなのに。気付いた頃には、私から飛雄が離れていくような感じがして、とても心がちくちくと痛くなってきた。

我慢出来るほどの痛さだけど、気持ちはどうしたって晴れやしない。









「わり?」

「……ん?」

「その、GWの合宿が終わったら休みが多分あると思う」

「そうなの?」

「ああ、だから……その時に一緒に行くか」

「……。」





ねえ飛雄、

どうしてそんな顔をしているの?



私はそんなに困った表情でもしていたのか、だって目の前にいる飛雄は凄く申し訳なさそうな表情だ。飛雄のそんな表情は見たくない、例え私がそうさせてしまったのだとしても、飛雄には気を使って欲しくない。いつもの飛雄でいて欲しい。





「わり?」

「……ううん、いいや。GWの合宿が終わったらすぐにIHの予選もあるんでしょう? カフェにはいつでも行けるから気にしないで、飛雄は部活頑張ってね」


にこにこと、私は「何でもないよ」「気にしてないよ」「私は良い彼女だよ」そう言っているかのように笑顔で飛雄に言った。私は笑顔が得意な方だ、だって笑顔でいれば心配されることもない。


大丈夫、良い子を演じるのは慣れている。


でも飛雄にまで演じるのは正直なところ嫌だ。本当は本音を言いたいけれど、彼にはどうしても嫌われたくないと思ってしまい、ついつい自分を誤魔化してしまう。身に付いてしまった特技の笑顔でいつも誤魔化してしまうんだ。


我儘なんて、言えない。


きっと私の気持ちに、飛雄は気付いていない。だって私の笑顔は完璧だから、きっと飛雄は私の心の痛みには気付いていない。






「俺は、わりがそうやって、笑ってる顔が好きだ」

「……飛雄に好かれるなら嬉しい」



嘘っぱちの笑顔だったけど、飛雄は私のこの笑顔が好きだと言う。ああ、なんて残酷なんだろう。顔に張り付いた仮面を、彼はそのまま私だと思ってしまっている。いつもニコニコしている私を好きだという。



冗談じゃない、いくら私でもいつもニコニコなんてしていられない。私はそんなに出来た人間じゃない。仮面を取り払って本当の自分をさらけ出したいと思っている。



けど飛雄の前では、例え作られた笑顔でも向けていたいと思っている。だって好きだから、心配をかけたくないし嫌われたくない。




だから私は何も言わずに、また飛雄に向かってニコニコと笑顔を向ける。

ワガママを言わない、
彼氏の部活を応援する、
とても聞き分けの良い彼女。

そんな嘘っぱちの彼女を演じる。









「(……でも、やっぱり寂しい)」


放課後、部活がお休みの私は飛雄と一緒に帰る事なく、一人でとぼとぼと帰っていた。地元の駅で降りると、駅前には新しくオープンしたスイーツのカフェが目に入った。

少しカフェの中を覗くと女の子同士やカップルがたくさんいた。この時間帯だからか学校終わりの学生がたくさんいる。






「(いいなぁ……)」


本当なら私も飛雄と二人で此処に来たかったなぁ、と思いながら店の横を通り過ぎようとした。







「あれ、ひま?」

「え?」


行きたかったカフェを見ながら歩いていると、名前を呼ばれた。


誰かと思い前を見れば、懐かしい顔。





「あ、国見」

「何してんの、こんな所で」


ばったり出会ったのは青葉城西の制服を着た国見だった。会うのは中学を卒業して以来だから少し懐かしかった。





「何って、帰ってる途中だけど? 私の家こっちだし」

「つーかその制服……お前烏野に行ったのかよ、通りで青城に居ないと思った」

「言ってなかったっけ?」

「言ってねーよ」


そう言って国見は不貞腐れていた。

私は周りと同じように青城に行くと思っていたらしい、まぁ北中はほとんど青城だしね、私も烏野より青城の方が家近いし。




「ところでひま、そこのカフェ行くの?」

「え?」

「さっき覗いてただろ、てっきり入るものだと思ってたんだけど」

「いや行きたいとは思ってたけど、流石に一人じゃ入りにくいなと思ってやめた所なの、入るのはまた今度にするよ」


もしかしたら飛雄と一緒に来られるかもしれないし、まぁそれもいつになるか分からないけどね、飛雄はバレーで忙しいし。でもオープンイベントのイチゴたっぷりショートケーキは食べたかったなぁ。





「じゃあ俺と一緒に入る? 俺もここのカフェが気になってたし、行ってみたかったけど、流石にカップルとか女の子ばっかりでだから、金田一と一緒だと入りにくいと思って諦めてたとこ」

「え、いいの?」

「ていうか、一緒に入ってくれると助かるんだけど」

「私も一緒に入ってくれると助かる! どうしてもショートケーキを諦めきれなくて」

「じゃあ行こっか」


国見と一緒に新しく出来たカフェの中に入ると可愛い制服の店員さんが席まで案内してくれた。中はやっぱり女の子やカップルが多かったけど、私達もカップルだと思われてるだろうからも浮いていないはず。





「塩キャラメルロールケーキ」

「私はイチゴショートケーキ」


それぞれケーキセットを注文すると、写真写りの良さそうな輝かしいケーキ達が私達の目の前に運ばれてきた。





「国見って甘いの好きだったんだね、ちょっと意外」


甘くて美味しいショートケーキを頬張り、目の前に座る国見に話しかけた。





「甘い物っていうか、塩キャラメルが好き。普段はあんまり食べないよ」

「そうだったんだ、そういえば今日は部活ないんだね」

「月曜は休み、ていうか何でひまは高校を烏野にしたの? ひまの学力なら青城の試験は難しくないでしょ、家も青城の方が近いし……烏野に行く理由が見つからないんだけど」

「確かに烏野は青城より遠いけど通えない距離じゃないよ、それに烏野は女子の制服が可愛いし」

「青城の制服だって可愛いだろ、私立だし、悪くないと思うけど」

「うーん、でも私、青城には行きたくなかったの。北一の女子に嫌われてたし、もうあんな事は御免」

「……お姫様って呼ばれたくないから?」

「お姫様ね、北一の時は色々と言われてきたけど、今私の事をそうやって呼ぶ人はいないよ? それなりに高校生活を楽しんでるつもり。彼氏も一緒だし、北一の時よりは凄くマシになった」

「は? 彼氏? ひま、彼氏いるの?」

「いるよ。本当はこのカフェに一緒に行こうって誘ったんだけど、部活があるって言われちゃったの」

「悪かったね、一緒にいるのが俺で」

「何で? 私としてはカフェに来れたし、限定のショートケーキが食べられたし、久しぶりに国見と話せて良かったと思ってるけど」

「……あっそ」



久しぶりに話した国見は、中学の時とあまり変わっていなかった。相変わらず無気力そうで眠そうだぁって思った。






「で? ひまの彼氏ってどんな奴?」

「あ、もしかしたら国見の知り合いかも、北一のバレー部だったし」

「え」

「バレー部に影山飛雄っていた?」

「はぁ!? 影山!?」

「え? 知ってるの?」

「……うっわ、マジかよ」


最悪、という呟きが聞こえた。国見の様子から見るに、同じバレー部だったようだ。






「なんで……よりにもよって影山かよ」

「やっぱり知り合いだった?」

「知り合いの何も……あー、マジか。本当にあの影山と付き合ってんの? 冗談じゃない?」

「うん」

「……本当に?」

「何回聞くのよ、本当に付き合ってるってば」

「……。」

「国見?」



突然黙り込んでしまった国見の顔を覗くと、こっちを向いた国見と目が合った。





「ひま」

「うん?」

「ひまの連絡先教えて」

「え、うん、いいけど」


国見からの突然の提案に、私はとりあえず頷いて連絡先を交換した。





「ひまさ、影山と一緒に居て楽しい?」

「え、何、急に。楽しくなかったら付き合ってすらないと思うけど」

「影山の事だからさ、あいつどうせバレーしか見えてないだろ。ひまが嫌な思いする前に考え直した方がいいと思う、付き合ってまだ経ってないだろ? まだ間に合う」

「確かに飛雄はバレー馬鹿だけど」


飛雄はいつもバレーばっかりで、私の事を全く見てないんじゃないかって、そんな事何度も思った。時間があればすぐにバレーの方に行ってしまう。





でも、







「でも、私は飛雄が好きなんだよ」

「……。」

「まぁ、国見の言う通り……最近はバレーの方を優先されちゃってるけど」

「ふーん。それでもあいつの事が好きならまぁ大丈夫でしょ。あーあ、俺結構ひまの事、好きだったんだけどなぁ……まさか影山に取られるなんて思ってもみなかった」

「……えっと」

「俺さ、ひまに割と本気で告白したのに、スルーされちゃうし」

「(あ、やっぱり本気だったんだ)」


国見の事だから、冗談で言ってるとばかり思ってたけど、やっぱりそうじゃなかったようだ。

あの時、国見の告白にちゃんと向き合っていたら、今の私は国見と付き合っていたんだろうか?




飛雄ではなく、国見と?





「あのね、国見。ごめ……」

「待って、謝るとかやめてよ? 俺って意外と打たれ弱いから、謝られると余計に傷付く」

「……。」

「まぁ友達でいいよ、ひまと俺は」

「いいの?」


告白してくれたのに、私は国見にちゃんと向き合わなかった。国見を傷付けたかもしれないのに。





「言っておくけど、ひまの事は今でも好きだからね俺」

「えっと……ありがとう」

「なんで影山かな、ますます気に入らない」

「私と飛雄って、似合わない?」

「……。」

「国見?」

「別に、似合わないわけじゃない。俺個人が影山を気に入ってないだけ、中学最後の大会であいつ暴走したし……でもまぁバレーが上手いのと、黙ってれば顔が良いのは認める。ひまと並んでるの想像したけど案外悪くないから腹が立った」



国見からそう言われて、なんだか私は照れ臭くなってしまった。お似合いだと言われたわけではないけど、正直嬉しかった。





(国見、ずっと友達でいてね)
(振った相手によく言えるねソレ)
(あ……)
(ひまは変わってないな)

[ 12/12 ]
[*prev] [next#]
Back/TOP


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -