36、食べると恋が叶う焼きそば───────----‐‐‐ ‐
いよいよ学祭当日になり
いつもより学校内は騒がしくなっていた。
「あれ? あれ? ねえ葵ちゃん、これ帯ってどうやんの?」
「私やるよ、後ろ向いて」
「ありがとー」
3組の出し物「恋が叶う焼きそば屋」ではクラス全員、浴衣を着てやろうという事になった。私は髪をアップにしてミントグリーンの浴衣を着た、今は花巻君の浴衣を着付けている最中だ。
「はい、出来たよ」
花巻君の浴衣の帯を貝の口に結んで、ポンっと彼の腰を叩いた。出来上がった着物姿を上から下まで見つめた。花巻君は背が高いからとても浴衣が似合っている。黒い浴衣は、なんというか色気がある。
うん、羨ましい。
「ありがと、葵ちゃん」
「……。」
「どうかした?」
「浴衣が凄く似合ってるなぁと思って、花巻君って大人っぽいよね」
「そう? あ、でも前に松川と一緒に歩いていたら女子大学生にナンパされたわ」
「二人共、高校生にしては大人っぽいからね」
「及川徹には負けるけどね」
「あー………徹は、ね」
「今日は他校生も来てるから、一段と騒がしくなるんだろうな……及川のファン」
お互いに「今日は及川徹に関わらないでおこう」と、謎の結束を組んだ。
「葵ー、髪やってー」
「はーい、じゃあね花巻君」
「うん、ありがと」
茜に呼ばれたので花巻君に「焼きそば頑張ってね」と言って別れた。意外と焼きそば作るのって力仕事だからほとんどは男子が作る。焼きそばをやりたいって言ったのクラスの女子なんだけどね。
お昼頃になると人も増え、忙しくなってきた。
3組の「恋が叶う焼きそば」は意外にも好評で、結構な勢いで売れていた。食紅を混ぜただけの塩焼きそばなのに。ネーミングのおかげか売れ行きは好調だった。これにはみんな驚いていた。
「謎だ」
「謎だね」
「ピンクの焼きそばってさ、俺どうかと思ってた」
「ごめん、私も」
「なのにさ、なんでこんなに売れてんの」
「……謎だね」
「恋が叶うって、ネーミングのせい?」
「かもね。女子は好きだから、そういうの」
「じゃあ葵ちゃんも信じる? 恋が叶う焼きそばって」
「どうだろう、でも私も女子だからね、信じちゃうかも」
「マジか」
「……でもピンクはちょっと」
ひたすら焼きそばを焼いている花巻君の隣で、手伝いをしながらそんな会話をしていた。
「でも5組の焼きそばには負けたくないな」
「岩泉君のとこ?」
「そ、「漢の焼きそば」っていう辛いやつ」
「あ……辛いんだ」
「うちのクラスが言う事じゃないけど、なんで普通の焼きそばを作らないんだろうな。普通でいいじゃん? なんでピンク色だったり、激辛だったりするんだ? 普通の焼きそばでも売れるだろ」
「確かに、変わった焼きそばしかないよね」
学祭っぽくていいかもしれないけど、
普通の焼きそばが食べたい人はどうしたら?
「葵ー、」
呼ぶ声がしたので顔を上げると、徹がいた。
「徹、なにその格好……」
「コスプレか」
私と花巻君は、徹の格好に驚いた。
いやだって、執事の服を着てるから。
女装よりは全然マシだけど。
「どう? 執事、似合ってる?」
「うん、似合ってる」
「似合い過ぎてこえーよ、及川」
「でしょ? おかげでお客さんいっぱい!」
「ほぼ女の子でしょ? 徹のファンとか」
「まぁ、そうなんだけどね。それにしても葵もマッキーも浴衣似合ってるね、二人が並んでるとカップルみたい」
「そりゃどーも」
「ありがと」
(花巻君とカップルか、そんな風に考えた事ないけど)
「徹君だ!」
「本当だ徹君だー!」
「及川君、焼きそば食べてー!」
3組の浴衣女子達は、執事姿の徹を見つけて寄ってきた。徹の周りはすぐに女の子に囲まれた。
「徹君、焼きそばどうぞー!」
「ありがとー、みんな浴衣可愛いねー!」
徹は、女の子に勧められて焼きそばを食べた。
「美味しい? 徹君」
「美味しい! こんなに美味しい焼きそば作れるなんて良いお嫁さんになれるよー!」
「作ったの俺だけどな」
「ブフッー!?」
「……っ」(葵は笑いを堪えている)
「俺は良いお嫁さんになるよ」
「ちょ、マッキーが作ったの!? これ人参とかハートになってるけど!?」
「ハートの人参さん可愛いだろーが」
「花巻君、器用だよね」
「人参さん!? マッキーが人参にさん付けって……いや、そういう問題じゃなくて! 凄いけどさ!器用だし、凄く美味しいけどさ! なんていうか、もうマッキー凄いよ!」
「おいおい、そんなに褒めるなよ」
「良かったね花巻君」
良かった、凄く美味しいみたいだ。
実際、凄く売れてるしね。
本当に凄いよ花巻君。
「なぁ、葵ちゃん」
「ん?」
「もうすぐで休憩だし、一緒に岩泉んとこ行く? 冷やかしにだけど」
「うん、行こうか。5組の「漢の焼きそば」って気になるし」
「じゃあ休憩時間まで頑張るか」
「はーい」
浴衣の袖を結んで、
クラスの出し物を積極的に頑張った。
「ねぇマッキー、葵が作った焼きそば食べたいんだけど」
「俺の焼きそばで我慢しろ」
「……美味しい」
(なんでマッキーこんなに料理上手いのさ!)
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