37、そして彼女は王子様に出会った
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1年5組「漢の焼きそば」





「えー、みなさんお聞き下さい。現在……我が5組の「漢の焼きそば」ではちょっとした危機に陥っております」


裏では5組の男子が挙手をして、クラスメイトに聞こえるように言った。その男子の表情は少し真剣だった。
ちなみに、5組は学ランorTシャツ姿で全員「必勝」の鉢巻を頭に巻いていた。いわば「漢」らしい仕上がりとなっている。





「なんだよ、急に」

「岩泉、とりあえず聞いてくれ、焼きそばを作りながらでいいから」

「お、おう」

「何々? どうしたのー?」


接客をしていたクラスの女子達も集まりだし、5組では緊急会議が行われていた。






「実は今、3組の様子を見て来たんだが」

「あ、私知ってる!「恋が叶う焼きそば」でしょ? ピンク色の焼きそばを作ってるっていう。出し物が焼きそばって、ウチらとかぶったんだよねー」

「そう、その3組のピンク焼きそばだが……凄く売れてる! 人がめっちゃいた!」

「え!? ピンク色なのに??

「そう!! ピンク色なのにだ! 正直、3組を甘く見ていた! 我が5組の相手にはならないだろうと思っていた! だがしかし! 現実はしう甘くはなかった!」


3組には、主に女子のお客さんが集まっていた。

しかも売り上げも結構良いらしい。俺ら5組とは一目瞭然、完全に負けている。ピンクなのにだ! ピンクの焼きそばなのに!! ピンクに負けているのだ!!




「俺らの漢の焼きそばが、ピンクの焼きそばに負けているんだ!!!」

「負けてるって……言われてもなァ」

「岩泉! お前は負けて悔しくないのか!?」

「そりゃ……まぁ、ちょっとは」



ピンクvs辛い焼きそば、で勝負してもなぁ。

……というか競ってたのか、3組と。








「俺思ったんだけさー」

クラスの男子が挙手をした。



「はい、小林君!」

「小林でーす。んで、俺が思うに、客が多い理由として……3組って言ったらあの子がいるじゃん? それも売れ行きの良い原因なんじゃないの?」

「あ、あの子か!?」

「あー、そうだよ3組にはあの子がいるじゃん。私らじゃそれは勝てないかもねぇ」

「は? あの子って誰だよ」


3組にそんな最終兵器みたいな奴いたか?と、岩泉は焼きそばをひたすらに作りながら考えた。





「思い出すんだ岩泉! 3組と言えば、あの及川徹の妹である及川葵がいる!」

「……あぁ、葵か」

「少なからず、及川葵目当ての客もいるだろうな。しかも3組は全員浴衣着用だ! あと3組は女子のレベルが高い! 羨ましい!」

「はぁああ!? 何よっ! 5組女子だってレベル高いわよー!」


女子達の大ブーイングを受けながらも、男子はそれを無視して話を続けた。






「そこでだ、岩泉」

「ん?」

「お前に指令を下す!」

「嫌な予感しかしねぇけど、一応聞こう」


岩泉は焼きそばを作っていた手を止めて、腕を組んでいる男子に向かい合った。






「今から3組に行って、ちょっと暴れてこい」

「はァ!?」


(何でそういう流れになるんだ!?)




「岩泉、ちょっとこれ着て」

「え?」


女子に渡された物は「黒い学ラン(上)」だった。
さっき暑くて脱いだ服だ。ちなみに学ラン(下)は今履いている。





「岩泉、次はこれ持って」

「……。」



クラスの男子に渡されたのは「釘バット」だった。一体どこから持って来たのか聞こうと思ったが、「漢」と言えばコレかなと思って持ってきた。とクラスメイトに言われてしまった。なんでも兄貴が5代目総長の時に使っていた釘バットらしい(ガチのやつじゃねぇか)







「(うお、釘バットなんて初めて持ったぞ)」




「岩泉君、良かったらコレも。家にあったやつを持って来たんだけど……似合うと思うから」


最後に、眼鏡をかけた女子に渡された物は、「般若のお面」だった。恥ずかしそうにそれを渡されたので、岩泉は断れずに般若のお面を装着した。





岩泉は学ランを装着し、

釘バットを装備して、

般若のお面を付けた。







「……。」

「最高だぞ!岩泉!」

「お前以外にその衣装が似合う奴はいない!」

「バッチリだぞ岩泉!」

「よし! さぁひと暴れしてこい岩泉!」

「何でだ!?」





岩泉はクラスの男子達に背中を押されて、教室から追い出されてしまった。




「え、マジで行くのかコレ」

「岩泉〜、及川さん居たら連れてきてよー!」

「俺も! 葵ちゃんの浴衣見たい!」

「連れて来ねェよ!」

ちょっと3組を見に行ってくるだけだ!
なんだよこのお面と釘バット……超うざい。


葵か、そういえば今日まだ会ってねェな。
むしろ、さっき兄の方が来たけど。
(主に5組の女子が騒いでいただけだった)







廊下を歩いていると、

周りの生徒が俺を避けていた。



「……。」







泣いてもいいかな、これ









※※※※






1年3組「恋が叶う焼きそば」







「だからさ、ねぇ?」

「……。」

「せっかくの文化祭なんだから俺と楽しもうよ?」

「……。」



(どうしよう)


焼きそばの麺が少なくなってきたから空き教室に置いてある在庫を取りに行った帰りに、見知らぬ他校生に捕まってしまった。


あともう少しで3組なのに、あと少しなのに!




「あ、あの、急いでいるので」

「学校の中を案内してよ」

「今は忙しくて……」

「ねぇ、この恋が叶う焼きそばってどこ?」

「それは、すぐそこの3組で」

「え? どこ? こっち?」


男は葵の腕を掴んだ。





「そっちじゃなくて……」

「とりあえず一緒に行こう? ね?」

「……。」


葵は男三人に囲まれて動けなくなっていた。






「ねぇ、あの子やばくない……?」

「あれって他校生でしょ? 怖いよね」

「誰か助けてあげなよ〜」

「え……だって怖そうだし」


周りの生徒達は、困っている葵を助けたいが……他校生を恐れて、見て見ぬふりをしていた。





「あの、私は」

「とりあえずこっちに……うわっ!」

「!」


他校生に腕をグッと引っ張られたかと思えば、急に離れて、目を開くと目の前に黒い背中があった。






「黒?」


よく見ると、
目の前に黒い学ランの人が立っていた。




「何すんだ……っ!」

「……。」


黒い学ランの人の手には禍々しい釘バットがあり、それを肩に乗せていた。




その姿は、なんというか




「(え、怖っ……)」

「何だ、お前っ、そこどけよ!」

「……。」


黒い学ランの人は無言のまま、釘バットを他校生の男達の前に向けた。恐ろしいその様子に、他校生はビクッとしていた。

よく見ると学ランの人は般若のお面を付けていて、まさしく鬼のようだった。






「……。」


ジロっと般若の人に睨まれた他校生達は、「ひっ!」と言って、後ろに下がった。




怖い、怖いよこの人。


むしろ私も逃げ出したい。


けど足が上手く動かない。





「!」


私がその場から動けないでいると、学ランの人が急に振り向いて私を見たかと思えば、そのまま私をお姫様抱っこをして、抱えたまま目の前の他校生から逃げ出すように走り出した。




「(え……!? どういう事!?)」





般若さんにいきなりお姫様抱っこされ、

降ろされた場所は1年3組の教室前だった。






「……。」

「え、えっと、ありがとうございまし……」


お礼を言い終わる前に、学ランの般若さんは走り去ってしまった。般若さんの異様なその姿に、すれ違う人達は驚いていた。





「……般若さん」


学ランの般若さんは、

私を助けてくれたんだと、わかった。



ナンパから助けてくれた般若さんに、胸がときめいた。見た目はどうあれ、急に現れて私を助けてくれた、まるで王子様のような彼の姿を思い出してドキドキしてしまった。




ナンパを怯ませて私を守り、私をあんなに軽々と持ち上げて教室まで送ってくれた。


しかもお礼も聞かずに



颯爽と立ち去る……





なんて、素敵な人なんだろう!







「……。」

「葵ちゃん?」

「……。」

「おーい、葵ちゃん??」

「……花巻君」

「大丈夫? あ、麺ありがとう」

「……うん」



焼きそばの麺が入った箱を花巻君に渡した。

どうしよう、さっきの般若さんが格好良かったから……私の顔は赤いかもしれない。


胸がドキドキしている。







「葵? おかえりー」

「あ、茜」

「顔赤いよ、何かあった?」

「ねぇ、茜」

「ん?」

「この辺の学校で、黒い学ランの学校ってある?」

「何いきなり……学ラン? んーっと、この辺だったら、近い所で烏野高校かな。私の彼氏が烏野だし、間違いないよ」

「……烏野高校」


なら、さっきの人は烏野高校の人だったんだ。
釘バットとか持ってたけど、素敵な人だった。





「葵? 本当にどうしたの」

「あのね、実は」


私は先ほどの出来事と

学ランの人の特徴を茜に教えた。





「凄く格好良かった」

「いや、釘バット持ってたんでしょ? 危ないじゃんその人」

「でも私を助けてくれたから良い人だよ」

「……そ、そうかなぁ」


真剣な表情の葵に茜はたじろいだ。










「とりあえず、葵は次休憩だよ」

「わかった、ありがとう茜。あ、もし学ランの般若さんがいたらすぐ連絡してね」

「はいはい(居たら怖いけど)」




(彼女の王子様は、般若)



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