24、1年5組で決闘やってるってよ!
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7月になり、

暑苦しい髪を横に束ねた。



暑さで授業なんてまともに聞いてられなくて早く夏休みにならないかな、と外をジッと見ていた。



相変わらず千堂先輩は「及川さん今日も可愛いねv今日こそ俺と付き合おうか」なんて挨拶のように言ってくる。








「そういえば、葵ってさ」

「うん?」


昼休み、お弁当の卵焼きを口に運んでると茜がいつもより真剣な表情で聞いてきた。





「千堂先輩の事どう思ってんの?」

「先輩? どうって……」

「好きになる?」

「わかんない、悪い人じゃなさそうだけど」

「……ふーん」


茜はまた何か考えているようだった。





「まぁとりあえず先輩の事は置いといて」

「?」

「岩泉の事は?」

「!?」

「好きになる?」

「な、なんで岩泉君」



お弁当のおかずを吹き出しそうになったので急いでお茶を飲んだ。




「岩泉も良いと思うんだよ、私は」

「岩泉君は幼馴染だよ」

「そう思ってんの葵だけだったらどーする?」

「え?」

「え? じゃなくて、岩泉も千堂先輩と同じ男なのよ? アイツだって、恋愛の好きとかそういうのに鈍い方じゃないと思うのよ。岩泉が葵の事を好きって事もあるでしょ」

「ない」

「ん?」

「岩泉君が私の事好きとか、ない」






あり得ないよ、そんなこと。


考えないようにしてたのに。





「(岩泉君は優しい、でもそれは好きだからとかじゃない。私たちは仲の良い幼馴染であってそれ以上でもそれ以下でもない。)」



そんな関係が、壊れるのは嫌だ。




例えば、岩泉君が私の事を好きだとしても私はきっと彼の気持ちを受け入れないだろう。

怖いんだ、変化が。



幼馴染という安心感が、どう変わってしまうのか









「葵はさ、何に怯えてんの?」

「え……」

「岩泉はさ、ちゃんと葵の事見てるよ。見てないのは葵の方なんじゃない?」

「見てない?」

「考えないようにしてんだなって思った、まぁこれも私の予想だから違うかもしんないけど」

「……。」

「というわけで、告ってきたら?」

「なんで告白!?」

「だってそうでもしないと何も起こらないでしょ」

「起こらなくていいよ!」

「えー」


なんでー?と茜は文句を言っていたが、無視した。









「(岩泉君は好き、だけどこの気持ちに自信がない。)」








(私は、とても臆病者だ)









****








「(クッソ上手くいかねェ)」



今日は朝からやけについてなくて
ああ、今日一日ずっとこんな感じなのか、と思った







「やぁ、どーも」


だって目の前にいる男とこうやってばったり出会ったから、ああもう本当に今日は最悪だと思った。









「岩泉君だっけ?」

「なんか用ですか、先輩」


目の前にいる奴は確か、写真部の葵の先輩だ。名前は忘れた。聞いたかもしれないが、思い出せない。






んで、葵に好意を持っている男。







「いや、偶然だね」

「先輩、1年廊下を歩いてて何言ってんスか」

「あらら、やっぱり分かる?」

「葵なら3組ですよ」

「あ、違う違う! 及川さんに会いに来たんじゃないよ」


続けて先輩は「君に会いに来た」とか
気持ち悪い事を言い出した。








「あ、引いた?」

「失礼します」

「ちょ、待って! 待ってってば!」


横を通り過ぎると腕を掴まれた。






「……なんですか?」

「話があって、あ! 話っていうのは結局のところ及川さんについてなんだけどさ」

「……。」

「単刀直入に言うと、及川さんを貰いに来た」

「!」

「そんなに睨まないでよー、ちゃんと君らの了承を得てから及川さんと付き合おうと思っててさ」

「了承って、及川にもですか?」



及川が簡単に了承するわけがない。
あのシスコン野郎の事だからな。





「ああ、及川徹は話にすらならなかったよー。ずっと俺の事を睨んでくるし、なんなの及川君ってさわやかイケメンボーイじゃないの? 噂と全然違うんだけど、あんなにメンチ切られるとは思わなかったよ。結局は俺が何を言っても及川徹は無視だし、なんか俺は嫌われてるっぽいしー」

「……。」

「でも」

「!」

「君となら、ちゃんとした話し合いが出来そうだなと思って」

「…。」


飄々と目の前の男は言い放った。








「俺は「なんだ岩泉、ついに2年からも挑戦者が来たのかー?」

「花巻?」



睨み合っていると、何故か花巻が横に居た。







「いつまでも廊下で睨み合ってないで早く勝負しろよ、はーい先輩もこっち来てねー」

「え、いや……なに?ていうか君誰?」


花巻は先輩の男の背中を「さぁさぁ」と、押してそのまま5組へと入って行った。








「おーい! 岩泉に挑戦者が来たぞー!」






花巻が5組に入ってそう言うと、5組はざわついた。





「マジか、二年だぞ」
「デケェ奴来たなー!」
「ちょ、イケメンじゃん」
「ぶっ潰せ岩泉っ!」



5組にいたクラスメイトはそれぞれ思った事を口にしながら、机をガタガタと移動し始めた。






「え? え? 何事? 今から何が始まるの?」」

「何言ってんすか先輩、腕相撲しに来たんでしょ? 岩泉と廊下でずっと睨み合ってないで早く勝負始めましょーよ、睨み合いじゃ勝敗はいつまで経ってもつきませんい?」


花巻はニヤニヤと笑いながら先輩の背中を押して行った。






「は!? 腕相撲!? なんで俺が!」

「先輩、利き腕どっちッスか。俺はどっちでも良いっすよ」

「岩泉君まで何言ってんの!? 俺は別に腕相撲をしに来たんじゃなくて! 話をしに!」

「葵が欲しいんじゃないんですか?」

「!」


そう言うと先輩の表情が変わった。






「俺が勝ったら及川さんくれるの?」

「いいですよ、俺負けないんで」

「チビのくせに」

「あ"?」


「及川葵は俺がもらう!」




先輩が大声でそう言うと、

5組の男子の眉間に青筋が走った。





「は? 何言ってんだアイツ、先輩だろうと容赦するな! ぶっ潰せ!」
「イケメンが調子こいてんじゃねーよ!」
「及川さんはテメェにやらねーよクズが!」
「岩泉! 遠慮すんな!」
「本気やれ!!」






5組の男子達の罵声に千堂は、

「ひっ!」と一瞬怯えていた、






「な、なんだこのクラス……」

「うちの組はただでさえ葵好きが多いんスよ、まぁ同時に及川ファンも多いっすけど」

「ガラ悪過ぎだろ」


千堂は右腕の袖をめくって
恐る恐る机に肘を置いて構えた。







「はーい、じゃあ始めるよー」


花巻が勝負を見届けるらしくお互いの間である真ん中に立っていた。いつの間にか松川も野次に参加していた。











「(こんなチビに俺が負けるわけないだろ)」


千堂は余裕そうな表情でそう思っていた。







……が、岩泉が袖を捲ると見えたのは


制服で隠れていた

たくましい腕だった。






「(はぁ!?)」


なんだその腕!?
そういやコイツ、バレー部だっけ?

運動部相手かよ!?

いや、でも
勝負してみないと分かんないし!







「はーい、ちから抜いて握ってー」

花巻がそう言うと、二人は土俵についた手をがっしりと握った。











「よーい、のこった!


「貰ったァァ!」


勢いに任せて右腕に力をいれた千堂だったが、





「甘ェ!」

「!」


力をいれた腕は、岩泉の力によってむなしく押された。そして、そのまま先輩の手の甲は机にしっかりと付いていた。



勝負が、ついた。








花「勝者、岩泉!」

「うっし!」


岩泉は手を離し、立ち上がりガッツポーズをした。






「え、いや、そもそも運動部に勝てるわけないだろ! こんな勝負おかしいだろっ!」

「何言ってるんですか先輩? 勝負は勝負ですよー?」


花巻は先輩の肩をポンッと叩いて言った。




「う。」

花「というわけで及川葵は岩泉のモンて事でー」

「ハァ!?」

花「え? なにその反応。岩泉は先輩と葵ちゃん賭けてたんじゃないの?」

「ちげーよ!」

花「でもさっき先輩が葵ちゃんを貰いに来たって言ってたじゃん」

「(聞いてたのか)」

「俺は諦めないからな! 岩泉君!」


先輩は岩泉に向かって指を差した。





「は、」

「今回は負けたけど、何度でも君に挑んでやる! 次こそ岩泉君を倒す! 勿論「力」でだ!!」


千堂はそう言って5組から出て行った。










花「なんかあの人すげーな。すっげェ負けず嫌い。そんだけ葵ちゃんの事好きなんだろーな」

「……。」

松「岩泉も大変だなぁ」



二人は哀れみの目で岩泉を見た。









「何回やっても負けねェよ」

「「岩泉かっけェ!」」







花巻と松川はこれから楽しみだなーと笑っていた。









「岩ちゃんが先輩と葵を賭けて戦ってるってホント!?」




大声で5組に入って来たのは及川徹だった。







花「おせーよ馬鹿」

松「もう終わった、岩泉の圧勝」

「流石、岩ちゃん!!」

「うっせェ」

「ありがとう岩ちゃん! これからも葵を守ってね!」

「お前もちゃんと守れよ、兄貴だろーが!」

「岩ちゃんの方が頼もしいから!」

「ハァ!?」




(なんで兄貴のお前より俺なんだ!)





1年5組で決闘やってるってよ!


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