25、一番良い選択はどれなのか
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「暑い……」



せっかくの夏休みだというのに、私はどこにも行かずリビングのソファで冷えた麦茶を飲んでいた。

夏休みの部活は自由参加だし、茜とは来週遊ぶ約束をしているし、夏休みの宿題は半分終わったし、読みたかった本も読破してしまった。



要はヒマなのである。




Tシャツにショートパンツという部屋着、

寝癖がついたままの髪、

コンタクトではなく眼鏡、




ああ、これでは駄目だ。

こんな姿を徹が見たら「女の子なんだから身だしなみはちゃんとしなさい!」と今にでも説教をしそうだ。彼の周りにはいつもキラキラした女の子達がいるからやけに目が肥えている。とても面倒だ。



しかし出掛けるにしてもどこに?
図書館は冷房が効き過ぎて嫌だし、そのへんをただ散歩するのも日焼けしそうで嫌だ。



徹が今日部活じゃなかったら買い物にでも付き合って貰えたのに。でも今度付き合って貰おう、一応あんな兄だけどセンスは良い。








「(あ、岩泉君も今頃は部活かな)」







テレビを見ながらボーッとしていると、 机の上に置いたスマホから着信をお知らせする機械音が鳴った。



表示されている名前は【岩泉 一】
思わずビクッとしてしまった。



何だろう?と思いながら電話に出た。




「も、もしもし?」

【あ、葵ー?俺、俺】

「徹?」


電話の向こうは岩泉君ではなく、


兄の徹だった。




(部活中に何故電話? というか徹が今かけて来てるのって岩泉君の携帯だよね?何で?)








「どうしたの?」

【実は携帯と財布を部屋に置いて来ちゃって、悪いんだけど葵、持ってきてくれない?】

「持ってきてって、今どこ?」

【学校の体育館】

「……。」

【あ! 今嫌だと思っただろ!】

「別に、そんな事」

【いーじゃん、葵って今ヒマでしょ?】

「まぁ、ヒマだけど」

【じゃあよろしく!】

「はいはい、わかったよ」


通話を切って、はぁ……とため息をついた。







「(流石にこの格好じゃ不味いよね)」



仕方ない着替えるかと、着ていたTシャツを脱いで、可愛い白のシフォントップスを代わりに着た。眼鏡からコンタクトに変えて、徹の部屋に行くと携帯と財布を見つけた。


日傘をさして

暑い陽射しの中、学校へと向かった。











「……暑い」



夏の気温に耐えながら学校の体育館につくとボールの弾む音が聞こえた。バレーの練習している音だ、と思いながらそっと体育館を覗いた。


北川第一のときより遥かに多い部員数に驚いた。そういえば青城はバレーの強豪校だって言ってたかな。




みんな背が高いし、何より、




……入りにくい。








「(どうしよう)」


みんなTシャツとジャージだし、どこを見ても女の子なんて一人も居ないし、私なんて制服じゃなくて私服だし!


徹を探したけど人が多くて見つけられない。




ああ、どうしよう。
















「あっれー? 葵ちゃん?」

「あ、花巻君?」



体育館を覗いていると後ろから花巻君が話しかけてくれた。ようやく見知った顔が見れて少し嬉しくなった。







「花巻君、どうして学校に?」

「え? いや、俺バレー部で練習しに来てんの。あれ? 葵ちゃん俺がバレー部って知らなかった?」

「……ごめん」

「いーよ。用があって来たんでしょ?ちょっと待ってて」

「?」





花巻君は体育館の中に入って行き、





「岩泉ィ! 葵ちゃん来てるよー!」



大声で岩泉君を呼んだ。






「……葵?」


汗をかいている岩泉君がこっちを見た。





「え、花巻君っ、違う、違うよ、岩泉君じゃないよ」

「え?」


花巻君の腕を掴んで思いっきり揺らして「違う」と説明しようにも、既に目の前には岩泉君が立っていた。






「何だ?」

「あ、岩泉君」

「ああ、及川だろ? ちょっと待ってろ」

「え?」


岩泉君はそう言って徹を呼んで来てくれるようだ。





そういえば徹は岩泉君の携帯で私に連絡してきたんだった。私がここに来た理由も知っていて当たり前か、













「オイ、及川」

「岩ちゃん、俺もうサーブ無理。休ませて……」

「サーブしろって言ってねェだろ、葵が来てんぞ」

「え!」




寝転がっていた及川は、ガバッと起き上がった。





「え? 及川さん?」
「マジで?どこ?」
「及川葵が来てるって本当か?」
「なー、及川葵と話したい!」




バレー部の男子は
そわそわしながら岩泉と及川に寄ってきた。







「駄目です! いくら先輩達のお願いでも駄目です!」

「「「ええー!」」」

「おい、及川」

「何、岩ちゃん、俺忙しいんだけどっ!」

「葵が」

「え?」



岩泉に言われ、体育館の入り口にいる葵を見ると、既にバレー部の先輩達に囲まれていた。









「あの、私は」

「及川の妹なんだって? いくつ?」

「こ、高1です」

「え、及川と一緒?」

「この子、及川の双子の妹だろ?」

「えっと」

「番号教えて?」

「俺もー」






その様子を見た及川は、先ほどまで練習に疲れて寝転がっていたのにも関わらず、ダッシュで葵の所へ向かった。








松「羊に群がる狼って感じだな」

花「野郎ばっかりの所に、あんな可愛い子が来たらそりゃ先輩達も我慢出来ないだろーよ」

岩「練習になんねェな」


三人は及川が葵に話しかける先輩達を蹴散らす様子を思い思いに傍観していた。








「葵っ」

「あ、徹! はい、財布と携帯」

「ありがとう! 助かった! でももうここは危険だから帰って!」

「え? え?」

「早く!」

「ちょ、あ、そうだ徹! 今日の晩御飯は?」

「岩ちゃん達とラーメン食べに行くからいらない!」

「わ、分かった」



及川は葵の手を引っ張り、体育館から出て行った。







「ちぇー、なんだよまだ番号聞いてねーよ!」
「及川ちゃん置いてけー!」
「兄貴ばっかりずりーぞ!」


葵を連れて行ってしまった及川にバレー部の先輩陣は野次を飛ばしていた。







岩「中学ん時より人気あんじゃねェか」

花「なぁ、さっさと彼氏作った方がよくない? 葵ちゃん」

松「いやいや、あの兄貴が許すかよ」

花「でも特定の男を作っといた方が及川も安心しない?」

松「それでも争奪戦になるな」

岩「怖ェーな」




さーて練習再開するべ、

と岩泉達はボールを打ち始めた。



















「ねえ徹、手が痛いよ」

「ああ! ごめん!」

「あのね、心配してくれるのは嬉しいけど」

「葵、早く彼氏作って! というか岩ちゃんと早く付き合って!」

「はい?」


この兄貴は一体何を言っているんだ。







「意味分かんないんだけど」

「葵と岩ちゃんが付き合えば、葵に寄ってくる男も減ると思うんだよ!」

「あのね徹、そういうのは私達が決めるんじゃなくて岩泉君の気持ちも考えなきゃ駄目だよ」

「岩ちゃんには俺がお願いする!」

「いや、だから」




そんな簡単に私と岩泉君の関係を壊さないでほしい。







「私は岩泉君と付き合うとか、そういうの考えられない」


(怯えてるんだ、拒絶される事に)


「第一、好きとか……そういうの分かんないし」


(私が岩泉君への気持ちが何なのか分からない)







「だから、放っておいて?」

「葵……」

「帰るね」

「ごめん」

「ううん、私も、よく分からないんだ。どうするのが一番良いかなんて」

「……。」

「練習、頑張って」




そう言って、葵は学校を出た。










(どれが一番良い選択か、誰も知らないんだ)




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