15、君の本当の気持ちが知りたくて───────----‐‐‐ ‐
高校に入学して俺は、及川と共に中学の時と同じくバレー部に入部した。ひたすらやってきたバレーを、強豪と言われている青城でもなんとか続けている。
練習は苦ではないし、出来れば早く体育館へ行って練習がしたい。
「重っ……」
放課後、いつものように部活に向かうはずだったが、あいにく今日は掃除当番の日で、サボるわけにも行かず、くっそ重たいゴミ袋をゴミ捨て場まで運んでいた。
持っているゴミ袋を捨てたらそのまま体育館へ向かおうと思い、エナメルバッグも一緒に持ってきた。ゴミ庫がある以外に何もない裏庭まで行くと、話し声が聞こえてきた。此処からは誰がいるのか見えず、分からない。
「……チッ」
さっさとゴミを捨てて部活に行きたい俺は、裏庭に誰が居ようが気にせず、止まった歩みを再び進めようとした。
「あの、及川さん」
前に進んだ足がピタッと止まった。
男の声で「及川」と聞こえた名前に、
身近にいる幼馴染が二人浮かんだ。
どっちの及川だ?
女にいつも囲まれて愛想振りまいている女たらしか?それとも、今はどこで何をしているのか分からない妹の方か?
「あの、話って何ですか?」
「!」
小さく聞こえた女の声に、
俺の体は固まった。
なんで葵が裏庭にいるのか、どうして葵が男と一緒にいるのか、そういえば入学以来、まだ避けられてるのか葵と一度も会ってねぇな、とか
色んな考えが一気に駆け巡った。
葵に全然会ってねェのは、偶然なのか必然なのか。あ、これってまた避けられてんじゃねェか?とか思ってしまう。
葵の連絡先は一応知っているが、あいにく連絡する事も無いし話題も無い。
「(まァ、クラスが違えば会う事もねェか)」
中学の時も、葵とそんなに会う事も無かったな、と思い出した。結局、及川兄の方とはよく会うが葵とは予定を作らない限り会う事がない。
昔はよく遊んでたんだけどなー
こうやってどんどん離れて行くのか?
なんか腑に落ちねェ。
「(つーか俺、なんで隠れてんだ)」
さっさとゴミを捨てて
部活に行きてェんだけど。
「話っていうのはその」
「……も、もしかして徹がまた何かご迷惑を?」
「え?」
「ご、ごめんなさい。えっと、どうしたら」
「え、いや、及川徹は俺あんまり知らないし、何もないから!」
「そうなんですか? じゃあ話というのは」
「実は、及川さんの事、実は中学の時から気になってて」
「へ?」
「それで、その……同じ青城に進学したのを知って、チャンスだと思って、中学の時は結局、言えなかったから」
「……。」
「やっぱり、俺、及川さんの事が好きで、卒業したら諦めようと思ったんだけど、やっぱり好きで」
「(これってアレか?告白現場ってヤツ?)」
クソ面倒臭ェ時に来ちまったじゃねーか!なんでよりによって今、裏庭でそんなイベント発生してんだ!
どっか他所でやれ!
俺にゴミを捨てさせろ!
あークソ、
なんで俺、ずっと隠れてんだよ。
気にせずにゴミ捨てて部活に行けばいいじゃねーか。たった10mの距離がなんでこんなに遠いんだ!
葵が、他の男子から人気なのはなんとなく知っていた。本人からじゃなく及川とかが勝手に教えてくるからだ。「好きだ」って告白されてるから何だって言うんだ。俺には関係ねーし。
オイ!
俺の足、動けよ。
「……ご、ごめんなさい」
「え」
葵の声が聞こえた。
「あの、及川さん」
「私と、付き合いたいという事でしたら……ごめんなさい」
「!」
「私には、そういう経験がないので付き合うとかそういうの、まだ早いかなって……それに私、貴方の事をよく知りません」
「そ、そんな事、分からないじゃないか。俺の事も付き合ってみて知って貰えれば!」
「……。」
「あ、じゃあ今日一緒に帰らない??及川さん放課後ヒマでしょ?まずはお互いを知る為に」
「放課後は部活があるので……」
「明日とか!」
「明日も部活が」
「!」
「(うわぁ)」
なんつーか、葵は悪意が無いんだろうけど、こうもハッキリ言われちゃうとなぁ……なんだか告白した男が可哀相になってきた。
「なんで」
「え?」
「なんで俺じゃ駄目なんだよっ!」
「!」
「いい加減にしろよ! お前も俺をバカにしてんだろ!! 及川徹もそうだよなァ女子に囲まれて俺の事を見下してよ!!」
「なんで、徹の話……?」
「ふっざけんなっ!!!!」
「!」
(殴られるっ!?)
バシッ!!!
「何やってんだテメェ!!!」
「な!? 誰だお前っ!?」
「いっ…(岩泉君!?)」
目の前にあった拳を、怒った表情の岩泉君が掴んでいた。
「頭冷やせボゲェ!!」
「グハッ!!!」
「!」
岩泉君は男の胸倉を掴んで頭突きをした。
「(い、痛そう!)」
頭突きされた男はそのまま倒れてしまったかと思えば「す、すんませんっした!」と言ってふらふらと走り去ってしまった。
私はその場にへたり込んでしまい、立ち上がれなかった。だって今絶対に殴られるかと思ったし。
凄く、怖かった。
「オイ、葵」
「!」
名前を呼ばれて顔を上げた。
「大丈夫か?」
「う、うん」
「ありがとう」と言おうと思ったが、岩泉君の顔が見れなくて思わず顔を背けてしまった。
だって、岩泉君
凄くカッコ良かったから。
どうしてか分からないけど、いつも私がピンチの時は私の前に現れて助けてくれる。差し出される手につい甘えてしまう。
ああ、顔が熱い、
どうかバレてませんように
「……おい、葵」
「!」
「俺ってさ、葵を怒らせるような事したか?」
「え?」
一体どういう意味だろう?
「もしそうだとしたら、謝る。そうやって目ェ逸らされるのは嫌だからな、俺はお前に何をした?」
「何って、何もしてないよ!」
「そんなわけねーだろ! 急に俺を避けて、理由を言え理由を!」
「理由なんて分かんないよ!」
「分かんないわけねーだろ! 俺は前みたいにお前と普通に話してェんだよ!なんだ!? 何だよ、俺が嫌いか!??」
「き、嫌いじゃない! そんなの絶対にない!」
「じゃあ、なんでだよ」
「分かんないよ、岩泉君の顔を見ると心が痛いんだよ、上手く話せなくなるの!」
「ハァ!?」
「痛くなるの!」
「意味分かんねェよ!」
「……。」
ごめん、としか言えなかった。
傷付くのが嫌で、嫌われるのが嫌で、だったら距離を少し離れようと思った。でもそれは結局、岩泉君を傷付けていた。
私は自分の事しか考えていなかった。
それがとてつもなく、辛かった。
私が岩泉君を不安にさせた。
「ごめんなさい……」
「はぁ、って事は俺は葵に何もしてないし、葵は俺の事嫌ってはいないんだな?」
「は、はい!」
「そっか」
「?」
岩泉君は私に手を伸ばして、起こしてくれた。
「ならいーや」
「?」
「俺ずっと葵に嫌われてるかと思ってた、何が理由かは知んねーが、これからもよろしくな」
「う、うん」
「やべ! 部活遅れるっ! じゃあな!」
岩泉君はそれだけ言って、持っていたゴミ袋を拾ってゴミ庫に入れ、そのまま走って行ってしまった。
「(嫌いじゃない、嫌いじゃないよ)」
ああ、また胸が苦しい。
「……。」
「岩ちゃん、そんなに顔をジロジロ見られると及川さんの顔に穴が空いちゃうよー?」
「はぁ……」
「え!? なんでため息!?」
「俺がお前くらい顔が整ってればなぁ」
「え!? どうしたの岩ちゃん?? 大丈夫! 岩ちゃんも男前だって! 俺の次くらいにっ!」
「ああそうかよ」
「え、何どうしたの?何かあった?」
「……葵に」
「葵に?」
「俺の顔を見ると心が痛ェって言われた」
「……え?」
「はぁ」
「え、ちょっと待ってそれって、え?どういう事?え、もしかして葵って……ええ!?」
「うるせーよ、さっき葵に会ったから、なんで前から急に俺の事を避けてるのか聞いたらそう返ってきたんだよ」
「へ、へぇ」
「でもまぁ、嫌ってるわけじゃないって分かっただけでもいいわ」
「(葵は滅多に人を嫌う事ないんだけどなぁ、クールビューティーだけど)」
「とりあえず俺は遠慮せずに葵に話しかける」
「え! もしかして今まで遠慮してたの?」
「たりめーだろ、話しかけて無視とか逃げられるとか俺そういうの嫌だし、正直凹む」
「岩ちゃん、凹んでたの?」
「……。」
「え、もう俺よく分かんないんだけど、」
「俺もよく分かんねぇ」
「ごめん、俺全然気付いてなかった。葵が岩ちゃんを避けてるとか、二人は仲良しだと思ってた」
「まー、今はどうか知んねーけど、ひとつだけ分かった事がある」
「?」
「俺、葵に嫌われんのすっげェ嫌だ」
「岩ちゃん……」
「うっし、今凄くスパイク打ちてェからトスあげろ」
「分かった、でも岩ちゃん」
「あ?」
「いくら岩ちゃんでも葵はあげないから!」
「ハァ!?」
(岩ちゃん、葵は絶対岩ちゃんの事嫌ってないよ!だって葵はいつも岩ちゃんの事見てるから!気付いてないの岩ちゃんだけだから!)
君の本当の気持ちが知りたくて
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