16、幼馴染の特権とは何ですか?
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「今日の体育、3組と合同だってよ!!!」



大きな声で同じクラスの男子はとにかく慌てた表情で教室に入ってきた。
3組と合同と聞いて、クラスの男子達はザワッと騒ぎ出した。テストが中止になったと聞かされるくらいの喜びようだった。



「よっしゃー!」や「今日マジついてる!」など、男子の喜びの声がたくさん聞こえてきた。






「なんで3組と合同がそんなに嬉しいんだ?」

「は? 岩泉、お前知らねーの?」

「え?」

「まぁ体育館に行けば分かるって」

「ふーん、ていうか女子は6組と合同が良かったってブーイングしてるけど?」

「6組? ああ、どうせ及川徹が目当てだろ」

「ああ……なるほどな」



なんだいつもの事か。


つーか体育館に行けば分かるって、

一体なんの事だ?








体育館に行くと、指定ジャージに着替えた3組の男子達がちらほらいた。特に変わった様子は見えなかった。



「?」


一体、3組に何があるんだ?











「やっぱいいよなー、及川葵」

「可愛いよなー」

「3組の奴らが羨ましい」



5組の男子達は、体育館の向こう側にいる女子の姿を見て喜んでいた。


葵、という名前が聞こえて思わず葵の姿を探した。俺と同じジャージ姿で髪を横に結っている葵がすぐに見つかった。






「(いた)」


葵は3組だったのか……と、女友達と談笑しているらしい葵を目で追いかけた。






「可愛いよなー、葵ちゃん」

「なんで5組じゃないんだろーな。ずりーよ3組男子」

「やっぱり岩泉も葵ちゃん見てる? 可愛いよな、葵ちゃん」

「なんでみんな葵を見てるんだ?」


葵をひたすら見ている5組の男子にそう聞くと、みんな一斉にこっちを振り向いた。




「岩泉、お前なんで今、葵ちゃんを呼び捨てにした?」

「なんでって幼馴染だし」

「「「はァ!!?」」」


詰め寄ってきた男子達に圧倒された。






「なんだそれ羨まし過ぎる! あれか? 小さい時は一緒にお昼寝をしてましたとかか!?」

「いや、一緒に遊んでたくらいだけで、昼寝はねぇな」

「じゃ、じゃあ、朝になると幼馴染が部屋まで起こしに来たり」

「そんなに家近くねーし」

「でも名前で呼んでるじゃん!」

「名前は昔から呼んでる」


そう言うと男子は「岩泉」と真剣な表情でこっちを見た







「頼みがある」

「?」

「及川葵さんを俺に紹介して下さい」

「は?」

「俺も及川さんと仲良くなりたい」

「なればいーだろ」

「お前、そんなに簡単に……」

「葵に話しかけれねーの?」

「いや、ほら及川さんて噂あんじゃん?だからその、話しかけづらいっていうか」

「噂?」


なんの噂だ?
葵の奴、なんかやらかしたのか?






「俺もその噂知ってる。葵ちゃんてモテんじゃん? 告白いっぱいされてるしさ」

「まぁ、な」


ほんと兄妹そっくりだよな。
そーいう所ばかり似てる。







「でも告白を成功した奴は誰もいない! 全員撃沈したわけだ!」

「……。」

え、アイツってそんなに告白されてんの?及川の奴そんな事一度も言ってねぞ。




「それで及川葵は男嫌いだ、とかレズだ、とか噂が広まってよー、でもあのルックスだろ? もしかしたらと思って告白する奴が後を絶たないんだよなー」

「男嫌い?」

「岩泉、何か知ってる?」

「いや、でも男嫌いじゃねーだろ。アイツ兄貴いるし」


いっつもヘラヘラしてる兄貴が。





「へぇ、葵ちゃんて兄貴いるんだ」

「?」

「兄貴もさぞや美形なんだろーなぁ」

「え、いやいるだろ6組に」



知らねーのか?




「「「「え?」」」」

「6組の及川徹、双子の兄だろ」

「「「マジかよ!」」」





やっぱり知らなかったのか。






「マジか、アレが兄貴かよ」

「まぁ同じ名字だしな、でも同じってだけだと思って気にしてなかった」

「葵ちゃんを手に入れるにはまずあの兄貴を倒さねーといけねぇのか、はぁ、勝てる気しねぇ」

「(倒す?)」


男子達の背中には「絶望」という言葉が見えた気がした。







「ま、俺は葵ちゃんを見てるだけでいいや」

一人の男子は、ため息をつきながら向こう側の女子の体育を見つめていた。女子の方は3組対5組でソフトバレーをやっているようだ。葵はまだコートに入っていないみたいだけど。







「葵ってそんな人気なのか」

「俺は岩泉が知らなかったって方に驚きだわ」

「……。」

「幼馴染の余裕ですかー?」

「そんなんじゃねーよ」

「幼馴染もいつか彼氏とか出来たら離れちゃうんだぞー? っていうか及川葵に彼氏とか想像したくねぇ!!!」

「……。」



彼氏ねぇ、この間の告白を聞いた限りだと好きな奴がいるって風には見えなかったな。ただ単に男が苦手か、そもそも興味がないか、だな。






「……よし、行くか。」

「おう! ミスんなよ?」

「任せろ!」

「……何やってんだお前ら?」

男子達は何か企んでいるようだった。
その手に持っているバスケットボールはなんだ?





「名付けて「及川葵と話してきっかけを作ろう作戦」!!」

「は?」

「葵ちゃんに向けてこのボールを転がす→葵ちゃんが拾う→葵ちゃんと話す→仲良くなる。という作戦だ。そして→あわよくば付き合う。」

「……。」

「俺からな! 俺が先に行く!」

「よっしゃ行けー!」




そして、一人の男子は作戦を実行した。転がしたボールは上手く葵の近くに転がり、葵は足元に来たボールを拾った。





「すみませーん!」

ボールを転がした男子は爽やかな笑顔で葵に向かって駆け出した。






「?」

「そのボール俺っす!」

「はい」

「ありがとー及川さんv」

「男子はバスケしてるの?」

「!……そう! 3組と5組で試合やってるとこ!」

「そうなんだ(男子はバレーじゃないんだ)」


岩泉君もバスケよりバレーの方が良いんじゃないかな、いやまぁ彼ならバスケも上手いだろうけど。





「あ、あのさ及川さん!」

「ん?」

「……えと、その、バレー頑張ってね」

「うん、バスケも頑張ってね」

「!!」















「あ、戻ってきた」

「どうだったー?」

「……。」

「どうした?」


岩泉は戻ってきた男子の様子がおかしい事に気付いた。




「……が、」

「「「が?」」」

「葵ちゃんに、頑張ってねって言われた」


男子の顔は真っ赤だった。






「は?」

頑張ってって、それだけか?
なんでそんなに照れてんだ?




「マジかよ! やったな!!」

「俺もう泣きそう」

「どうだった? 葵ちゃん可愛いかった?」

「か、可愛いかった! 普通に話せた!」

「いいなー今度は俺な!」

「(まだやんのか)」

「岩泉もやりたい?」

「いや、俺はいい」

「幼馴染だったらいつでも話せるもんなー」

「(最近は全然話してねーけどな)」



幼馴染ってそんなに良いもんじゃねーし。





「幼馴染が羨ましー!」

「葵と話せるからか?」

「それもだけど、名前で呼べるのも羨ましい」

「……ああ」


名字で呼んだら兄貴と被るしな。








(当たり前が、他とは違うと今日感じた)




幼馴染の特権とは何ですか?

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