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書き掛け多数
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跡ジロ
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跡ジロ

「おい、ジローは」

そうぶっきらぼうに問いかけてきたのは跡部だった。偉そうに聞いてくるくせに目線はどこか宙を彷徨い、落ち着かない。

「人にものを聞くときはまず名前を呼んで目を合わせろよ」
「アーン?いいから、ジローは」

俺の言葉に不快感をあらわにした跡部は、それでも今はジローの行方が大切らしい。
俺は食べていたチューチューアイスを口から離すと「教えるか、バーカ」と言ってやった。俺はこいつが嫌いだ。

「なんだと?向日テメェいい度胸だな」
「ふん、ろくに頼み事も出来ねぇやつに度胸を量られる筋合いはねぇぜ」
「まあまあ、なんやふたり仲悪いんやなぁ」

知らなかったわぁ、と隣で悠長に構えているのは最近よく遊ぶようになった侑士だ。チューチューアイスを半分こする仲である。

「ジローになんの用か知らねぇがあいにくジローはお前に用なんかねぇよ」
「テメェが決める事じゃねぇだろうが」
「ジロー、もう三日くらい休んでるやん」
「なんだと?」
「あっバカ!言うなよ!」

侑士の言葉に跡部はいち早く反応し、目を丸くした。
ジローはここのところ三日間学校を休んでいる。夏風邪をこじらせたらしくまだ快復はしていないらしい。その事を知らなかったらしい跡部は何故だか少し動揺していた。

「理由は」
「なんやったっけ、風邪?」
「なんでそう侑士はすぐ言うんだよー!」
「やって隠したってすぐバレるし」
「……バカは風邪引かないと聞いたが」
「夏風邪はバカが引くんやで。俺のいとこも引いてたわ」



* * *


ジローを最近見なかった。
つい先週交換した連絡先にメールをしても音沙汰はなく、休み時間に教室へ行っても見当たらない。どこかで寝ているのかと樺地に探させたが見つからなかった。とうとう痺れを切らして向日に聞いたところ、風邪だという。家の場所をそのまま聞いたら再度「教えるか、バーカ」との言葉を吐かれた。こいつ後で覚えてろよ。

結局ジローの家はわからず、その日はまっすぐ帰宅する事にした。帰りの車内でぼんやりと外を眺めながら考える。そういえば、つい先週交換した連絡先のみが、俺とジローとの唯一の繋がりだった。出会って数ヶ月も経たないのだから当然なのかも知れないが、その事実に落胆する。
かたや今日の向日や忍足は仲睦まじくしていたというのに。俺がジローの事を名前で呼ぶようになったのだってつい最近の事だった。本人を前にして呼ぶ事にまだ少し照れくささが残る。

「!おい、止めろ!」

もうすぐ家だというところで、俺は慌てて車を止めた。窓越しの街並みに少し派手な金髪頭が視界によぎり、思わず窓にはりつく。人違いかも知れないがもしあいつだとしたら風邪だというのに外をほっつき歩いているとは何事だ。という気持ちが半分と、ドキドキとした胸の高鳴りが正直のところ半分あった。

車から降り、柄にもなく小走りをする。

「ハァ、ハァ……お前、なにやってんだ」

鼓動が高まって少し胸が窮屈だった。普段であれば上がらない筈の息が少し上がっている。
目の前の金髪頭は、本当にジローだった。
夏だというのに少し厚着をしてマスクをしていた。

「あれ、跡部だぁ」
「お前、こんなところほっつき歩いて、風邪じゃなかったのか」
「うん、風邪引いたんだけど……」

熱、下がったから。とニカっと笑ったジローの頬はそれでもまだ赤かった。下がったからと言って外を出歩く理由にはならない。
ジローの話では、この三日間ほとんど寝ていたそうだ。熱が高く起き上がるのも億劫で、起きていた時の記憶はほとんどないらしい。そして今日の午後、ようやく体が軽くなり熱をはかると微熱にまで下がっていた。なので跡部に会いにきた、と。
そのひと言に、俺の思考は停止してしまった。

「跡部、メールとかすごくしてくれただろ?読んではいたんだけど視界もぼんやりしてて返す余裕もなかったんだよね。元気になったから直接お礼言おうと思って」

記憶を辿って跡部の家へ行こうとしてた。と、ジローは屈託のない顔でへへへと笑った。俺はジローの家の場所を知らないが、ジローは一度俺の家へと来た事がある。その記憶を辿ってわざわざ歩いてきたのか。本調子でもないのに。バカだな。バカだが、どうしようもなく嬉しい。

「ありがと、跡部」
「っ、バカだな、だったら連絡くれりゃ俺から会いに行ったのに」
「あ、そっか。岳人に頼んで案内してもらえばよかった」
「いや、あいつはもうたくさんだ……」
「?」

明日にはきっと治ってるから、また一緒にお昼食べような。そうに笑ったジローをなんでか直視出来なくて、それでも、ああもちろんだと俺も笑った。


* * *


「あれ、跡部は?」

そうびっくりしたように問いかけてきたのは元気に復活してきたジローだった。さもここに跡部がいて当然のような素っ頓狂な声につい嫌気がさす。

「おいこらデジャブか。お前ら揃いも揃ってなんなんだよ……」
「え?なにが?」

跡部の野郎の事なんて俺が知るか。とそっぽを向いた俺に「えー」と文句を言うジローはもうすっかり回復したようだ。

「お昼食おうって約束したんだけどなー」
「そんなん無視してここで食えば」
「えー」

弁当片手に口を尖らせるこいつに昨日の跡部のオロオロした様子を伝えたらどう反応するんだろう、と考えて、でもどうせ嬉しそうにするんだろうなと思ったらなんだか悔しかったので俺はそれ以上口を開くのをやめた。


***



跡ジロ

時折変な夢を見るんだ。それは多分なにかを暗示しているんだと思う。
と、いつかに跡部がそう言っていたのを、俺はぼんやりとだが覚えていた。


「うわあ!……跡部ぇ?」

朝にコンビニで買ったパンを屋上で頬張っていたらなんの突拍子もなく跡部が後ろから抱き締めてきた。
俺はそれに盛大に驚いて心臓が飛び出しそうなだけでなくせっかく買った新作の惣菜パンを固く汚いコンクリートの上へと落としてしまう。あー、落ちたー!とかやっべぇマジマジびびった!とか跡部さっきまで珍しいぐらい熟睡してたのに!とか色々思う事はあったけどとりあえず俺はパニックに乗じてわーわーと騒ぎながら未だに抱きついてくる跡部の頭をバシバシと引っ叩いた(だってマジで死ぬほど驚いたから)
跡部はさっきまで俺の隣で汚いコンクリートの上で熟睡していた筈だった。その珍しい状況に相当疲れていたんだなと俺は黙ってそのまま寝かせていたのである。

「とんでもない夢を見た」

ようやく跡部が口を開いたと思ったら、怖い顔。

「しゅわしゅわとした夢だった」

目を開けたらお前がいたのでとりあえず咄嗟に抱きついた。と、状況を理解出来ていない俺にそう言って腕の力を強めた跡部はどうやら俺を離す気はないらしい。ちょっと可愛いなとか思ったけど落としたパンは別問題だからなこのやろー


* * *
と、尻切れトンボ。
かなり古いやつが出てきました
何年前に書いたやつだろう…



>>

信仰にも似た恋でした



>>

まだ、ふとした瞬間に会いたいなって思う間はきっとどうしようもなく好きなんだろう。



跡部

「お前の事は嫌いじゃないがまぁ確かに鬱陶しくはあるかも知れないただそれもそれで良いというかお前だから仕方ないと諦めているしむしろその面倒くささもある種可愛くも感じるっつーかいやだからといってサボって寝てばかりいるのは認めないがただ寝顔には少し癒されたりもしまったなんでもない忘れろまぁつまりはそのなんだお前の事は嫌いじゃない全く嫌いじゃないというかうるせーな察しろとにかく嫌いじゃないからつまりその…………

好きだよ」




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