できることなら、「春歌は私の恋人です」と言いたかった。けれど恋愛禁止という規則があるせいでそんなことは言えない。一ノ瀬は春歌の周りにいる男を見てため息をついた。あきらかに春歌に好意を寄せている男たちの集まり。見ているのがつらくなってくる。
そのままその場にいるのも何とも言えない気持ちになるだろうと感じた一ノ瀬は部屋に戻ることに決めた。

「私は部屋に戻ります」
「一ノ瀬さん?」

急に部屋に戻ると言って立ち去る一ノ瀬に春歌と一十木は首を傾げる。鈍感な二人には一ノ瀬の気持ちなど分かるはずもないだろう。二人とは違いこの手のことに鋭い神宮寺は一ノ瀬の気持ちに気づき、春歌に一ノ瀬を追いかけるように言った。春歌はそう言った理由が分からず首を傾げる、すると神宮寺は色っぽく微笑んだと思ったら春歌の背中を押した。

「子羊ちゃん、いいから行くんだ」
「あ、は、はい!」

春歌は訳も分からずにとりあえず一ノ瀬の下へ向かうことに決めた。

***

「一ノ瀬さん!」
「…春歌、二人きりのときはその呼び方は禁止ですよ」
「で、でも…は、恥ずかしい、です…」

春歌がそう言うと一ノ瀬は近くにあった空き部屋へと春歌を引っ張り込んだ。かちゃりと鍵を閉める音が静かな部屋に響く。春歌は鍵を閉めた意味が分からず一ノ瀬の顔をじっと見つめると、一ノ瀬は少し怒っているのが分かった。思わず後ずさりをすると一ノ瀬は春歌の腕をつかみ自分の胸に引き寄せた。

「い、一ノ瀬さん、どうされたんですか?」
「トキヤ、です。春歌。どうした…ですか。春歌がほかの男と楽しそうに話している姿を見ているのが辛かった。ただそれだけです」

一ノ瀬が切なそうに言うと春歌も切なくなってきた。寂しそうに春歌を抱きしめる一ノ瀬はまるで、寂しがり屋な子供のよう。春歌は思わず頭を撫でて「可愛い」と言ってしまった。すると一ノ瀬の体が小さく揺れた。そのときの一ノ瀬にはもう先程の可愛い子供っぽさはなかった。ニッコリと恐ろしいほどの笑顔で春歌を見ていた。

「私にヤキモチをやかせた上に可愛い、ですか」
「あ、あのその今のは…い、一ノ瀬さん?」
「ト、キ、ヤ、です。春歌…お仕置き決定ですね」

嫌がる春歌を簡単に押し倒した一ノ瀬は、己の唇を春歌の唇に重ねた。途切れ途切れに聞こえる甘い声に一ノ瀬は満足そうな笑みを浮かべ、それからまた唇を重ねた。


お仕置きはキス1万回

続編


BACKNEXT


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -