俺にも金を出させてくれ [ 51/87 ]


「一括払いで。」

「はっ!?!」



スーツのポケットが破れてしまったから新しいのを買いに来たのだが、ずっと側で俺のスーツを選んでくれていたるいが、そのまましれっとお支払い時に財布の中からクレジットカードを取り出した。


「なに?」

「いや、自分のは自分で買うって。」

「なんで?あ、一括でお願いします。」


俺が口を挟んだことにより、クレジットカードを預かろうかどうしようか、と手が止まっていた店員さんに、るいはそのままクレジットカードを押し付けた。


「ありがとうございます。ご一括でお預かり致しましたので、こちらにサインをお願いします。」


支払い後、“矢田 るい”とボールペンでサインをし、クレジットカードを財布にしまったるいが、俺用に買ったスーツを手にする。


「あれ?それ誰のスーツだっけ?」

「なに言ってんの、航のだろ。」


…だよなぁ?

何故この人は当たり前のように俺のスーツを買って、そのまま自分で持ってんだろう。と、暫く頭を悩ませた。


目的の買い物を終えたあと、せっかく買い物に来たのだから、とついでに靴下や下着など、いろいろ買うことにした。


るいの分と自分の分の商品を手に持ち、ここは俺がまとめて払おうと思ってレジに向かうと、俺の後ろをひょこひょこついて歩くるい。

そして、商品を台の上に置いた瞬間、るいは俺の隣に並んだ。

いやお前あっち行けよ。という目でるいを見ていると、「ん?」と俺の顔を見てにっこり笑うるい。


間近でそんなるいの笑顔を見た店員さんの顔は見事に赤面している。


こいつやたらと機嫌良いな。と思いながら合計金額分のお札と小銭を出そうとしている俺の横で、


「一括で。」

「おい!!!」



さっさとクレジットカードを出しやがったるいに、俺は再び口を挟んでしまい、レジの店員さんはビクッとしていた。


「お前その『一括で。』って横からクレカ出すのやめろよ!!!」

「え、なんで?」

「なんで全部るいが払うんだよ!」

「え?だって生活に必要なものだからだろ?」


いや確かに生活に必要なものだけど。
ちょっと返答が俺の聞いていることとズレている。


結局ここでもるいが支払いを済ませてしまい、買ったものを手に持っているるいは、まるで荷物持ちに来ている旦那のようだ。


「航、お腹減ってない?」

「あーそうだなぁ。なんか食う?」

「うん。何食べたい?なんでもいいよ。」


にこにこにこにこ…
るいは俺を見ながら凄まじいほどの笑みを見せてきた。
「キャッ!」とすれ違う女性たちが、るいをガン見しては頬を染めている。
相変わらずのモテっぷりだが、気にしていたらキリがない。


「お前なんで今日そんなに機嫌いいの?なんか俺の買い物の荷物持ちと財布役みたいになってるけど。」

「えー、だって航と久しぶりのデートだもん。」


俺の問いかけににこにこ笑って答えながら、片手で荷物を持ち、もう片方の手を俺の指に絡めてきたるいは、そのまま飲食店街へと俺を促しながら歩いた。


…あぁ、そう言えば最近は予定が合わず、二人で出掛けることがなかったかも。


「じゃあ飯代は俺に出させて。」

「え、なんで?」

「でたよ。るいのなんで返し。」


「だってデートだよ?」

「一応俺のスーツ買いに来たんだけどな。」

「…デートじゃねえの?」

「…デートですけど。」


ここでデートじゃないって答えたら確実にるいのテンションを下げてしまう。と思ったら、そう頷かざるを得なかった。

結局食事代までにこにこしながらるいが支払いをしてしまい、ここまで俺は一銭も使っていないことになる。

スーツ代に、とお金を多めに銀行から下ろしていたというのに。


「さすがに出してもらってばっかじゃ申し訳ないんだけどなー。るいなんか買うもんねえの?」


俺のことばっか優先していて、お前はなんかねえのかよ。と問いかけた時、るいは「あ、」と何か買いたいものがあるのか声を漏らした。


「ん?なに?なんかあるなら俺が買うから。」


俺がそう言ったとき、るいはにっこり笑って「じゃあ…」と側にあったドラッグストアを指差した。


「コンドーム買ってきて?」

「それはてめえが買ってこい。」


へらへらしながらなに言ってやがる。とバシンとるいの頭を叩けば、るいは「ごめんごめん。」と笑いながらコンドームの方へ向かっていった。


五分ほど棚の前で悩んでいるるいの姿を、俺は少し離れた場所から眺めて待っていた。

が、


「なんでそんなに悩んでんだよ!」


さすがに悩んでいる時間が長すぎて、るいをしばきに向かった。


「別に買わなくても家にあるだろ!家にあるの使っとけ!」


って今夜ヤる気満々じゃねえか。


俺にも金を出させてくれ おわり


るいは航のことを完全に嫁扱いしているので、嫁の生活に必要なものは自分が出す!という考えをしているのでした。

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