同僚と、居酒屋で。 [ 44/87 ]


るいが今日から海外出張に行ってしまい、寂しい日々がスタートした。

期間は三ヶ月。たった三ヶ月。
でも、結構長くないか、三ヶ月。
俺にとって三ヶ月って結構長いぞ。

だって今まで一週間の出張でも離れてる時間が寂しかったから。


「友岡くん、今日飲んで帰りません?」

「あー…うん。いいよ。」


わりと断ることが多かったけど、同僚の女の子の誘いに頷く。家に帰っても一人だし。でも、お酒は苦手だから、ちょっとだけ。


女の子と飲みに行くだなんて、るいが聞いたら嫉妬しそう。でも、俺にも人付き合いがあるわけで、こういう機会がないと嫉妬深い恋人の存在が気になって同僚の女の子と飲みには行けないから、これはいい機会だ。


「やった〜!友岡くんいっつも断るから嬉しー。」


同僚はそう言って、テンション高く絡んでくる。


「あのセクハラ課長の愚痴聞いてほしかったんだ〜。」

「あー、あの人な。まだ触ってくんの?」

「んーん、なんかあれ以来あたしと友岡くん付き合ってるって思ってるみたいで近付いてこなくなったよ。でも嫌味なメール送ってくるけど。」


同僚はそう言って、チラリと俺を上目遣いで見上げてきた。あ、やば。この目はやばい。もしかすると、この目は俺に気がある目。

俺はサッと彼女から目を逸らして歩く。


「友岡くんって社内ですっごい人気なの知ってる?」

「……え、さあ…。」

「狙ってる子多いよ?」

「…えー…」


俺の左手に嵌められた指輪が見えんか。
これはるいが就職して初任給で買ってくれたものだ。


「でも結婚……はしてないけど彼女はいるんだよね?」


同僚はそう言いながら、俺の左手に目を向けてきた。


彼女じゃねえけど。
まあ、いるな。大事な人が。


でも、職場の人にプライベートなことは言いたくないから何も言ってないし、俺にはただ彼女がいる、という噂だけが流れているようだ。


「最近はね、その友岡くんの彼女があたしだって思ってる人が増えてきたみたい。」


同僚はそう言いながら俺を見て、にっこりと笑った。


「えー、まじで?ごめん、否定しとく。」


なんか知らんが俺がセクハラ課長からこの前同僚をセクハラから庇ったのが原因のようだ。


別に深い意味とかはなくて、課長が偉いからってセクハラしていいわけがなくて、そんなセクハラ課長にムカついたから、同僚のお尻に手を伸ばそうとした課長の手を『蚊!蚊がいましたよ課長!』とかなんとか言って、はたき落としてやったのだ。


「んーん、あたしは全然平気。寧ろ付き合ってるって思われてる方が都合良いかも。」


同僚はそんなことを言いながら、彼女おすすめの居酒屋に入っていく。


テーブルに案内され、とりあえずビールと適当に摘みを頼んだ。


飲みすぎるとすぐに酔うし、とりあえずグビッと一杯だけ。


でも、ピリッと辛い摘みが美味しくて、結局はゴクゴクいってしまう。


あーダメダメ。るいが出張だからって、俺ちょっと油断してる。

酔って帰るとるいが心配するから、外ではお酒控えてたけど、今日から三ヶ月のことを考えたら憂鬱でお酒を飲むペースが早くなってしまった。


「友岡くーん、酔っちゃったのぉ?」

「…ん〜ぅ…。るぃ〜むかえきて〜」


って、気付けば俺の隣で俺の身体を支える同僚。

女の子に支えられるってどうなんだよ、俺。


「…るい…?…って彼女?」


その瞬間、彼女の顔つきが変わったことを、俺は知らない。


ポケットに入れていたスマホを抜きとられ、同僚は俺のスマホを勝手に触り、すぐに電話できる設定にしていた【 矢田 るい 】を探し出したようで、同僚はるいに電話をかけた。


そして、るいはすぐに電話に出た。


『もしもし航?…どうした?』

「…えっ!?(男!?)」

『は?誰?』


同僚は、びっくりして電話をすぐに切ったらしい。

その日の夜は、るいからの着信が止まらなかった。


翌日電話でるいに、同僚と飲みに行ったという話を永遠とるいが納得するまで話したのだった。


同僚と、居酒屋で。 おわり

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