社内人気No.1男の噂 [ 43/87 ]


新入社員として矢田が入社してきた時、女性社員の間では超絶イケメンが入ってきた、と大騒ぎだった。

これは、やばい…
女みんな矢田に持ってかれる…

入社二年目の俺はその頃、そんな心配をしていた。


「受付けの山田さんは俺まじ狙ってるから勘弁して。」

「はい?」

「今口説いてるとこなんだよ。」

「は、はあ…そうですか。がんばってください。」


とりあえず山田さんだけは見逃して、とお願いすると、意味わからなそうに俺の応援をしてくれた。

よし。まあ山田さんさえ矢田に落ちなければそれで良い。矢田も、山田さんにさえ惚れなければそれで良い。

と思っていたが、早くも矢田が入社してすぐに山田さんは矢田の存在を知ってしまったらしい。


「すごいかっこいいよね〜、あ〜でも年下かぁ…年上好みだと嬉しいよね〜。」


山田さんがそんな会話をしているところを偶然俺は聞いてしまい、恐れていたことが起こってしまった…と絶望した。


「おはようございます。あれ?先輩なんか顔色良くないですよ、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃねえよ!!!おまえが来てから絶不調だわ!!!この女ったらしが!!!」

「女ったらし?俺女誑した覚えはないっすよ。」


矢田の女性人気に嫉妬して、勢いで矢田に言った言葉に、矢田は真面目にそんな返答をよこしてきた。


「新入社員が先輩に口答えしてんじゃねえ!」

「あ、すみません。」

「いや、謝らなくていい。謝らなくていいから…まじ頼む、山田さんだけは…!ほんとまじ…!」

「ああ、先輩が口説いてる人ですか?」

「そう!だから山田さんだけはダメだから!」


毎日辛い仕事も頑張れるのは、出社する度に山田さんに会えるから。俺の楽しみを奪わないでくれ、矢田!という思いで矢田に必死で牽制するが、矢田は爽やかな笑みを浮かべて「がんばってください。」とまた俺の応援をしてくれる。

ったく…むかつくくらいにイケメンで、むかつくくらいに良い子なんだよこの後輩…

だから実際、この男になら狙ってる女を取られてもしょうがねえな、って思えるだろう。

でも!後輩にとられるのはやっぱり悔しい!


「山田さんは俺の活力なんだ…。あの子の笑顔が、俺は最高に好きなんだ…。」

「わかります。俺も、好きな子の笑顔は活力です。」

「ん?」


なんだって?
今、好きな子っつったか?


「好きな子?いんの?」

「はい。死ぬほど好きな子が。」

「まじで?付き合ってんの?」

「はい。かれこれ五年以上経ちます。」

「まじで!?その情報社内に流していい!?」

「え、」

「いや、流すわ!新入社員矢田には付き合って5年の彼女がいるって言いふらすわ!」

「え、いや別に言いふらすようなことじゃ…」

「いや、絶対言いふらした方がいい!その方が男性社員に敵視されずに済むからな!」

「は、はあ…」


よっしゃ!一気にやる気出た!




新入社員、矢田 るい。

入社して早々にイケメンだと騒がれたその男は、入社して早々に『付き合って五年の彼女がいる』という話題を男性社員の間で口々に話され、あっという間に社内に噂が広まったのだった。

そんな、男性社員の間で話題とされているイケメン新入社員の噂を、女性社員は信じているのだろうか。


「どうせそんなのただの噂よ。」

「モテない男が流した噂。」


社内人気No.1男の噂 おわり


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