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「よお、矢田。入学おめでと。」
「ありがとうございます。」
「って会長俺には!?」
「あ、仁も受かったんだ?おめでと。」
「ひでえ!!!!!」
仁と待ち合わせをして大学に向えば、存在感出まくりの黒瀬会長が大学の入り口近くで立っていた。
「会長すげえ目立ってますよ。」
「おいお前さすがに大学で会長言うなって、俺何様だと思われんだろーが。ってか俺じゃなくて目立ってんのはお前。俺はもう去年に目立ち終わったんだっつーの。」
俺の言葉に会長がそう返事をした次の瞬間。
「あっ!拓也くんいたいた〜!えっ!もしかして拓也くんの言ってた後輩!?」
「えっやばいちょーイケメン!!」
「えっ拓也くんの後輩!?キャー!かっこいいー!!」
俺たちの周囲を取り囲むように女子大生がやって来た。……え、ちょっと拓也くんなにこれ。
大学に来て早々、先輩らしき人たちに囲まれてしまい少し引いていると、会長は仁に視線を向け、パチンと指を鳴らした。
「仁、航に報告。【 矢田、女子大生に囲まれる。】写真付きな。」
「了解。」
「おいやめろ!!」
拓也くんてめえ!!と言いたい気持ちで叫べば、拓也くんはケラケラと楽し気に笑っている。
「拓也くんの後輩くんライン教えて〜!」
そんな中で側にいた先輩に顔を近付けられながら聞かれた時、会長は「あーダメダメ、こいつコレいるから。」と小指を立てた。
「えーそうなのー?ショックー…。」
「あ、じゃあそっちのキミは?」
「あー…こっちは、お前まだ古澤と続いてんの?」
「続いてますよ。」
「あ、こいつもコレいるってよ。」
話題が仁の方へ向き、俺はホッと息を吐く。
しかしまだ何か言いたげに俺を見ている先輩が、耳に口を寄せて「…お願い、ラインだけ教えて?」とこっそり言われたから、俺は「えぇ…」と狼狽えた。
どうやら会長の知り合いくさいし、ちょっと断り辛さがある。
どうしようかとポケットに入れていたスマホを取り出そうか悩んでいた時、会長が先輩に向かって言い放った。
「矢田は諦めろー、そいつは絶対落ちねえぞー。」
仁に向いていた会長の視線が、再び俺の方へ向く。
「まあ落とせるもんなら誰かに落としてほしいところだけど。な?」
肩に腕を回され、ニヤリとした笑みを浮かべながら言われ、一体何が言いたいんだ。という目で会長を見れば、会長は「ま、安心しろ。期待はしてねぇよ。」と言いながらポンポンと俺の肩を叩く。
そのまま周囲の先輩方に背を向け、俺の身体を押しながら歩き始める会長に、そのあとを慌てて追ってくる仁。
「やっぱ男子校は気楽だったよなー。なぁ矢田?」
「…そうっすね。」
「今頃航も女に囲まれてんじゃね?あいつも女受けする顔してるしな?」
「……。」
「あ、わりぃ。心配させるようなこと言ったなーはっはっはっ。じゃあ新入生はあっちな。またなんかわかんねーことあったら連絡していいぞー。」
「…ありがとうございます。」
「じゃあなー」と会長は俺の肩から手を離し、俺と仁が向かう建物とは違う建物へと向かっていった。
「…なんなんだあの人。」
なんか入学おめでとうとか言って祝福されながらもいろいろとからかわれた気がするんだが。
会長の背中を眺めながら少し微妙な気持ちになっていると、仁も俺の隣でボケッと会長の背中を眺めている。
「……いやーやっぱオーラ違うわ。会長とかるいと一緒にいると俺ってあんまりチヤホヤされねーんだよなぁ…。」
会長の背中を眺めてから、今度は俺を見て、何故か一歩俺から距離を取った仁。
「お前なに言ってんの?早く行くぞ。」
「いや、別にチヤホヤされたいってわけじゃないけどね?でも俺も一応中高チヤホヤされキャラだったしなーんか面白くないっつーか、いや、別にチヤホヤされたいわけではないけどモテることは悪くねえよな。って俺貴哉いるし別にモテなくても問題はないけど、」
今度は俺の顔面を眺めながら、なにやらくどくどと仁は熱く語っている。一体なにを言ってんのか、とはじめは黙って聞いていたものの、だんだんイラついてきてしまい、仁の耳元で大声で怒鳴りつけた。
「は、や、く、行、く、ぞ!っつってんだろ!!初日から遅刻してえのかよ!」
「あぁごめんごめんごめんって!ちょっそんな大声で怒鳴るなよ!お前ただでさえ目立つんだから!!」
ったく、こいつと一緒だと新しい環境なのに全然新鮮味がねえな。と思いながら、俺は仁とキャンパス内を歩く。
そんな俺たちは、初日から遅刻はしなかったものの、何故だかやたらと注目を集めていて、ちょっと居心地が悪かった。
「イケメン2人組入学!てきなー!?」
「…は?」
「あなんでもないです。」
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