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……あれ?ここどこだ?
ぱちっと目を開け、すぐに自分の家じゃない場所に居ることに気付いた俺は、その瞬間サァッと血の気が引いた。
確か昨日はバイト先の送別会で、……あれ?刺身食った記憶まではギリ残ってるんだけど…えっと、えっと、待ってとりあえずここどこ?と重い身体を起こして辺りを見渡すと、自分が良く知る場所でとりあえずホッとした。
…あ、よかった、なんかよくわかんないけどここ航んちだ。
……え、でもなんで??
手元にちゃんとあったスマホにも安心しながら時間を確認すると、朝の6時前だった。室内は薄暗く、航や矢田くんの姿は無い。恐らく隣の寝室に居るのだろう。
何があってこうなったのかめちゃくちゃ気になるけど、とりあえず二人が起きてくるのを待つしかないかなと考えながらスマホをいじっていると、昨晩自分のスマホで雄飛との通話履歴があることに気付く。
それから、雄飛からラインもきている。
【 なっちゃん無事? 】
…あれ…、なんか心配させちゃってんのかな。といっても何があったのかまったくわからなくて混乱中なんだけど。
雄飛寝てるよな〜と思いながらも、一か八かで電話をかけてみると、雄飛は5コール目くらいで電話に出てくれた。
『…もしもし?なち?』
寝起きでちょっと掠れた声にキュンとする。
「あ、ごめん、寝てたよな。」
『んーん、平気。あんま寝られんかったし。誰かさんのせいで。』
「…え…。それって俺?なんか、起きたら航んちに居たんだけど…。雄飛なんか知ってんの?」
『バイト先の送別会でなちがコークハイ飲んで爆睡してるって、なちに電話した時電話に出てくれた男が困ってた。』
「コークハイ…?なにそれ、そんなの俺飲んでないんだけど…?」
『コーラだと思って飲んだんだろ。それは仕方ねえけど、俺は迎え行ってやれねえし航先輩に頼んでわざわざ迎え行ってもらったから、なちからもお礼ちゃんと言ってな。』
昨晩のことを話す雄飛は、最後ちょっと溜め息混じりで呆れているように感じてしまった。
「…うん、分かった…。雄飛も、心配かけてごめんね…。」
どうやら知らず知らずのうちにいろんな人に迷惑をかけているらしい。自分が悪いことをした覚えはまったく無いのに怖いなぁ…。
雄飛に呆れられるのは嫌で、謝罪をするとクスリと笑う雄飛の優しい声が聞こえる。
『いいよ、俺は。なちが無事なら。でも次から酒の場は気を付けてな。』
眠そうな声と優しげな声が合わさって、とびきり甘い雄飛の声に、今すぐ会いたくなって、抱き付きたくなってくる。
「うん、わかった。…へへ。雄飛ありがとね、だいすき。」
雄飛のことを考え、へへへ、って思わず顔が緩みきってしまいそうになっていた時…
「なぁ〜にがだいすき、だこの野郎。」
背後からあまりに冷めた矢田くんの声が聞こえ振り返ると、腕を組んで扉の縁に凭れかかりながら、冷めた目で俺を見下ろしている矢田くんの姿があった。
「ヒッ…!」
矢田くんもしかしてお怒りになっていらっしゃる!?
俺は咄嗟に雄飛との通話を切り、床に正座した。
「この度はご迷惑をお掛けしたようで申し訳ございませんでした!!!」
自分に悪いことをした覚えが無いとは言え、無関係な矢田くんまで巻き込んで、何があったか覚えてない、なんてことなど言えず、矢田くんからの説教を食らう前に俺は土下座しながらそう叫んだ。
「バカ、うるせえよ朝っぱらから近所迷惑だろーが。」
うう…謝罪したのに逆に怒られた…。
矢田くん怖い…。
けれど、土下座をしたまま少しも動かず固まっていると、その後矢田くんのクスリと笑った声が聞こえてきた。
「あーあ、せっかく夜は航くんといちゃいちゃする予定だったのにな〜。」
……あ、それはそれは…矢田くんの楽しみを奪ってしまい誠に申し訳ありません…。返す言葉も無く相変わらず土下座ポーズのまま動かずにいると、航が欠伸をしながらのっそりと現れた。
「ふぁ〜、るいしつこいぞ、まだそれ言ってんのかよ。」
眠そうに目を擦りながら起きてきた航は、矢田くんを邪魔そうに押し除けて、俺の顔色を窺うように覗き込んでくる。
「なっちくん起きた?大丈夫か?」
「…あ、うん…航なんか迷惑かけたみたいでごめんな…。」
迷惑かけたのに俺を心配してくれる航にちょっと目が潤みそうになった。
「俺はいいけど。雄飛に感謝しろよ〜、雄飛がなっちくんに電話かけてこなかったらお前あのままずっとバイトの友達に抱きついて寝てたぞ。」
「……えっ」
バイトの友達って、横井くん?……え、抱きついて寝てたって、俺なにやってんだよ…最悪だ。
航の話を聞き、俺は再びサァッと血の気が引いたのだった。
「なっちくんまじでなんかやらかしてないか心配だわ〜。もーひやひやさせんなよなー。」
「バイトの友達に抱きついて寝てる時点で十分やらかしてる。雄飛が可哀想。」
「う…耳が痛い。」
棘のある言い方をする矢田くんに、航も苦笑している。横井くんに抱きついて寝てたなんて、考えただけで恥ずかしいし横井くんも困っただろうな。
横井くんとは歳も近いし、バイトでは仲良くしている方だけどそれ以外の関わりは無いし、そもそも私的なこと聞かれるのが嫌でバイトの人とは極力距離を置くようにしている。
それなのに俺、まじで恥ずかしい姿晒してやらかしたなぁ。とため息を吐いていると、「でもあのバイトのやつ良い人そうで良かったな。」と航が俺に救いのある言葉をくれた。
「俺らにすげー申し訳なさそうに謝ってくれたし、雄飛からの電話取ってくれたのもあの人だろ?至れり尽くせりだな〜。」
そう言ってポン、と俺の背中を叩き、話は終わりだというように洗面所へ向かった航。そして、その航を追うように部屋を出ようとする矢田くんが、チラリと振り返り一言。
「良かったな〜、未成年のうちから酒の怖さを知れて。」
そう言った矢田くんの態度は、まだちょっとだけ棘が残っていた。航、頼むから早く矢田くんの機嫌を直してくれ。
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