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大学の講義を全て終え、さあ家に帰れると大学の敷地内を歩いていたところで、「あっ!見つけた!!!」と、もう二度と会うことも無いだろうと思っていた人物に話しかけられ、俺は一瞬ギョッとしながらも無言でそいつ、茉莉花を睨みつけた。
「必死で探しちゃった。」
「なに、…こわ。なんか用?」
歩きにくそうなヒールの靴で駆け寄ってくる茉莉花に、スタスタと歩く足を止めずに問いかけると、はぁはぁと少し息を切らしながら付いてくる。
「あれだけで終わりにするわけないでしょう?ちょっと今から時間ちょうだい?るいくんとおはなしがしたいなぁ。」
「無理。」
「無理じゃない、あんなのひどすぎだからね!あなたの彼女最低よ。あたしるいくんの彼女特定したらなにするかわかんないから!」
強い力で腕を掴まれながらそう言われ、めんどくささにため息を吐いた。
こいつは執念深そうだ。ここらで解決しておかないと、航が関わるともっとめんどくさい事になると思い、俺はひとまず今日は諦めて、茉莉花に付き合ってやることにする。
茉莉花に腕を掴まれながら連れてこられた場所は学食で、人気の少ない奥の席に座らされる。隣に座った茉莉花に今も尚腕を掴まれ、逃げられない状況だ。
うんざりしながらも耳元で高い声で話しかけられることは“彼女”のことばかり。キンキンと響く声に頭が痛くなってきそう。
よっぽど“俺の彼女”が俺に沙希ちゃんの彼氏のフリさせたのがお気に召さなかったらしい。自分は姿すら現さないなんて卑怯だ、と。
俺の本当の彼女はどういうやつなんだとか、写真を見せろだの、可愛いかとか綺麗かとか。そんなの聞かれたって一生答えるわけがない。
そもそも俺に“彼女”はいない。
だからこいつはいくらその“彼女”に対抗心を燃やしたとしても張り合う相手など最初から居ないのだ。
…というのはただの屁理屈だけど。
ただただめんどくさい時間を過ごし、いつか飽きるだろう、いや飽きてくれ。とぞんざいに扱ってもなかなかしぶとい茉莉花をどうしたものかと思った時に浮かんだのがモリゾーの存在だった。
茉莉花の目を盗んでモリゾーにラインを送った後、あいつは俺から特に理由も聞かずに現れた。
モリゾーをこんなに頼もしいと思ったことはない。
モリゾーが現れたことでできた隙をついて逃げるようにその場を立ち去ったからその後のことはわからねえけど、モリゾーならなんとかうまいことしてくれるような気がしていたのだ。
略奪女かなんか知らんが、美女を欲している男は山ほど居る。欲しい人の元へ行けば良いだろ。俺は一生、航しか要らねえんだから。
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その後、まさかの翌日、また茉莉花は俺の前に現れた。どんだけ暇なんだよ、バイトしろ。
「…げ、また来たの?お前も飽きねえなあ。」
「るいくんがあたしのこと見てくれるまで毎日来ちゃう。」
「うわクソ迷惑。まじ帰って、俺これから用事あるから。」
「用事ってなに?あたしも着いてこ〜。」
早足で茉莉花を振り切り目的地へ向かおうとしていた俺に、うっとおしいことにこいつはしぶとく付いて来た。
この後航と買い物をしに行く約束をしているというのに参ったな、こんなときはあいつの出番だ。と、俺はここで素早くモリゾーに連絡を入れた。
あいつもなかなかの暇人だからきっとすぐに来てくれるだろう。
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