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【 モリゾーちょっときて 】
………は?どこに?
突如送られてきた矢田くんからのラインメッセージに、俺はスマホ画面を見つめながらほんの数秒間固まった。
【 どこに? 】
なんで?理由がわからない状況で俺をどこに呼び付ける気だ?と思いながらも、矢田くんからの呼び出しの理由なんかおいしい話にしか思えない俺は、特に理由は聞かずに場所を聞き出せば、呼び出されたのは矢田くんの通う大学だった。
時刻は17時ちょっと過ぎ。
大学の講義を終え特に用も無く暇を持て余していた俺は、本屋に立ち寄りグラビアアイドルの写真集やエロ本を物色していたところだ。
尻が良いグラビアアイドルの表紙を見ただけで良い気分になり、その中身も見てみたいが、残念ながらビニールで包まれていて中身を見ることができない。
クソ、写真集欲しいけど金がねえ。
泣く泣くお気に入りのグラビアアイドルの写真集を棚に戻して、本屋を出る。
さあて、矢田くんなんの用だろうな〜と、俺は理由も分からずるんるんで矢田くんの元へと赴いた。
数十分かけて指定された場所へ向かうと、そこに広がる光景に唖然とする。
「矢田くん…その美女誰ですか…。」
矢田くんは不機嫌そうな態度で大学の食堂のソファー席に座り、その隣にぴったり矢田くんにくっつくように座っている美女がいた。
なにこの絵になる光景。
恋愛映画のポスターですか?
「…あ、モリゾーやっと来た…。」
矢田くんは俺の姿を目にした瞬間、ホッとするように表情を和らげた。
しかしそんな矢田くんとは真逆に、「えぇ、誰?」と少し顔を顰める美女。それは俺が聞きたいことだ。あなたは一体どこの国のお姫様ですか?
ひとまず俺は矢田くんの正面の席に腰掛けた。
「どういう状況?」
「この女に付きまとわれて困ってるからモリゾー連れて帰ってくんねえかなって。」
「え、喜んで。」
「付きまとってない!るいくんが連絡先とか彼女のこととか教えてくれたらすぐ帰るもん!!」
「彼女…?」
って航のこと?と疑問に思っていたとき、ぽつりと口を開いた俺の声を聞き逃さなかった美女が俺の方を見た。うわ、まじかわいい、激しく美女だ。
「あなたはるいくんの彼女と知り合い?」
「え、うん。」
問いかけられた言葉にうっかり頷いてしまったのがいけなかったのか、矢田くんはぐったりしたように背凭れに後頭部を預けてため息を吐いた。
「るいくんの彼女ってどういう人?あたし酷いことされちゃったの。悔しいっ!一度会って顔を見ないと気が済まない!」
うるうる、目に涙を溜めて俺を見る、美しいその人。航のやつ、この美女になにしやがった!?
俺は航を憎く思い、メラメラ燃え上がる炎を胸に秘めた。
「矢田くんの彼女?それはもうとんでもないクソ野郎です。俺がギャフンと言ってやりますよ。」
「えぇ!そうなの?やっぱり性格悪いんだ…。」
きゅるんとチワワのような目を向けられ、俺はあまりの可愛さに胸を打たれた。
ここで、美女が俺の方を向いている隙にすくっと素早く鞄を持って立ち上がった矢田くんが、スササササと忍者の如く笑えるくらいに急いで立ち去ろうとテーブルの横を通り、俺の横を通り過ぎようとする瞬間ボソッと告げられた。
「航の名は絶対出すな。」
それだけ言ってポンポンと俺の肩を叩き、早足で立ち去る矢田くんに、「ああっ!るいくん!」と立ち上がる美女。
「もう!せっかく大学でるいくん探して見つけれたのに…!」と残念そうに頬を膨らましている。
まだいまいちよくわからない状況の中で、俺はひとつだけ分かったことがある。
それは、この状況が矢田くんから与えられた、美女とお近付きになるチャンスだということ。
ポンポン、と肩を叩かれた瞬間、俺はふとそう思ったのだ。
「えっとさ…、矢田くんの彼女となにがあったか聞いていいか?」
立ったまま矢田くんが去っていった方を見つめていた美女に問いかけると、渋々美女は腰を下ろしてくれた。
「…るいくんの彼女があたしの幼馴染みと友達で、るいくんをあたしの幼馴染みの彼氏のフリさせたの。なんか、あたし結構男の人にモテるから、あたしの言動が知りたいからってあたしが幼馴染みと会うときるいくん連れてきて、るいくんにあたしの行動観察させてたの。…最低でしょ?」
そう言って、きゅるんと可愛い目で見られたら俺はもうダメだ。さっぱり話の意味はわかんねえがうんうん、と頷き、俺は必死に彼女に同調する。
「最低だな。あいつなんてことするんだよ。」
この時脳内にはニヤリと悪巧みするような表情の航が思い浮かんだ。
「どういう子なの?写真とか持ってない?幼馴染みも全然教えてくれないし…。」
「あー写真、ちょっと待って…、」
聞かれた通りに俺はスマホを手に持って写真一覧を開こうとしたとき、画面上部に【 矢田 るい 】と表示されており、矢田くんからラインが来ていることに気付いた。
写真一覧を見る前に俺はひとまずラインメッセージに目を通す。
【 モリゾー美人紹介しろっつってたよな。恩を仇で返すようなことはすんなよ?あの女に航の存在知られるようなことは絶対言うな。 】
やはり俺の思っていた通りだったか。矢田くんありがとう…いい友達を持って俺は幸せだ。
俺は【 了解です 】と返事をして、スマホをポケットにしまった。
「あー…写真ないなー。でもキミより断然ブスでペチャパイ。」
「ほんと!?」
適当なことを言うと、パッと花が咲いたような明るい表情を見せた。……かわえぇ…。
「あ、そうだ名前聞いていいか?」
「茉莉花だよぉ〜。」
「茉莉花ちゃんね。名前までかわいいな。」
「えへへ、ありがとう。そっちは?」
「俺は森園 力弥。力弥って呼んで。」
「わかったぁ!力弥くんね!」
俺は日頃から常に観察して取り入れた矢田くんから溢れ出るイメージ、雰囲気、態度、言動などを真似するように彼女に接する。こんな俺、彼女にはどう映っているでしょうか。
「力弥くんはるいくんの彼女の連絡先知ってる?」
「あー…知らねーんだわ…ごめんな。」
「そっかぁ…。誰か繋がりある知り合いとかいない?」
「んー、どうだろ…あ、矢田くんの親友とか。」
俺はそう言いながら、航へのライントーク画面を開いた。
【 お前矢田くんの彼女の連絡先とか知ってる? 】
俺は茉莉花ちゃんにも見えるようにそう文字を打ち送信する。ここで俺がやるべきことは、とりあえず茉莉花ちゃんの役に立つことなのだ。
すると、数分後に【 は? 】と航から返ってきた。
まあそうなるよな。
「返事返ってきた?」
「んー…、ちょっと待って。」
【 茉莉花ちゃんって子が矢田くんの彼女と連絡取りたがってるんだけど 】
つまりはお前とってことだけど。
俺には正直まだよく理解できない状況だけど、とにかく矢田くんの彼女=友岡 航だと知られるようなことをしてはいけないんだよな。
俺なりに考えて送った航へのラインに、その直後航から着信がきた。日頃なかなか返信すらしないくせにこんな時だけ電話かけてきやがる。
「うわ、友達から電話かかってきた。ちょっと出ていい?」
「うん、どうぞ。」
いちいち言動が可愛いなぁ〜。
にっこり笑う茉莉花ちゃんに癒されつつ、俺は航からの電話を取る。
「もしもし?」
『お前なんで茉莉花ちゃん知ってんの?』
うわ、航のやつすげえ焦ってやがる。
どうやらいけないことをした自覚があるらしいな。
「なんでって、矢田くんから呼ばれて、」
うっわ〜かわいい。通話する俺を頬杖ついてにこにこ微笑みながら見てくる茉莉花ちゃんにデレデレにやけが止まらない。
「るいくんの親友?ちょっと電話代わってもらえないかなぁ?」
「あ、うんいいよ。」
はい、と俺は茉莉花ちゃんの可愛さに気を取られ、二つ返事で茉莉花ちゃんに俺のスマホを手渡した。
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