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「……沙希、どういうこと…?」
涙で濡れた目で困惑気味に聞いてきた茉莉花に、あたしも困惑した。
航に指示されて席を離れていたあいだに起こったことについてけない。
「えー…、ちょっとあたしもよくわかんないんだけど…。」
「あの人は誰なの?結局沙希とはどういう関係なの?」
「……友達の彼氏。」
…で、合ってるよね。
もう答えてもいいんだよね。
「なんであの人が彼氏のフリしてたの?」
「…友達が、あんたの考え気になっちゃって。」
「あたしの考え…?」
人の彼氏を略奪する女の心理。
…と言いたいところだけどあたしはそこまでストレートに言えない。でももう言ってもいいかな。みんなあんたに彼氏奪われてあんたの行動にはうんざりしてるし。
「茉莉花が友達の彼氏ばっかり手ぇ出すからその話を友達にしたら興味持っちゃってね。自分の彼氏にあたしの彼氏のフリさせてあんたの言動調べてたんだよ。」
「…最低。誰?その友達。むかつく、連れてきて。」
「むかつくってあんたねぇ。まんまと人から彼氏奪おうとしてた人がよく言えるね。」
あたしは呆れながらそう言い返すと、茉莉花はツンとした顔でそっぽ向いて自分は悪くないと言いたげな態度を取る。
「その友達後悔すればいいよ。あたしに自分の彼氏会わせたこと。絶対奪うし。沙希るいくんの連絡先教えてよ。」
「え、あたしあの人の連絡先知らんし…。」
ほんとのことを言っただけなのに、あたしはジロリと茉莉花に睨まれた。
「…その友達の写真とか無いの?どういう女?かわいい?美人?」
……え、これどうすればいいわけ?
完全に張り合う気満々じゃん。
あれだけイケメンな人の彼女ってわけだから茉莉花の中で描いている人は超絶綺麗な女の人だろうけど現実は航っていう男の子だからね。
「…はぁ。もうあんた、普通に彼氏見つけなよ…。可愛いんだから普通に彼女いなくてかっこいい彼氏すぐできるでしょ…。」
さすがにもうこれ以上は付き合ってられんな。と思いながらもそう言うと、茉莉花は拗ねたように唇を尖らせた。そして、おもちゃを欲しがる子供のように茉莉花は言う。
「…嫌。…あの人がいい。…悔しい、…言われっぱなしは嫌。…あたしあの人を見返したい…。…絶対あの人彼氏にしたい…。」
「…はぁ?」
航ダーリンまじで茉莉花に何言ったの?
もう面倒なことはごめんだけど、茉莉花はそう言ったあと、グズグズと涙を流して泣き始めてしまった。
「え〜!!ちょ、茉莉花…。」
もう!!!どうすればいいのよ!!!
あたしは、航たちが帰ったカフェで、ぐずる茉莉花を前にして途方に暮れるのだった。
34. 人の彼氏を奪う略奪女 おわり
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〜美女を欲するモリゾー〜
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