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「そう言えば茉莉花、みゆきの彼氏と付き合ったって聞いたけどどうなったの?」


カウンターで飲み物を受け取り空席を探すと、航となっちくんの姿を見つけて不自然にならないように茉莉花に話しかけながら二人の座る横の席に着いた。迷うことなく茉莉花はあたしの前ではなく航ダーリンの正面に座った。


「え〜?とっくに別れてるよ。」


そんな話今はするなと言いたげにちょっと顔を顰めて、「それよりるいくんとはどこで出会ったの?」とさっさと話題を変える茉莉花は、そう言いながら航ダーリンの方へ視線を向ける。

あたしじゃなく航ダーリンからの返答を求めているようだけど、勿論ここで答えるのはあたしだ。


「友達繋がりだよね。」


そう答えると、コクリと小さく縦に首を動かす航ダーリン。話を合わせてくれている航ダーリンにいちいち安心する。


「へえ、そうなんだぁ。大学は別?」

「うん、別々。」

「どこの大学行ってるの〜?」


身を乗り出す勢いで航ダーリンに問いかける茉莉花。ジー、とまっすぐ見つめられて、航ダーリンはちょっと居心地悪そうにしながらボソッと大学名を答えた。すると、今日二度目の茉莉花の驚きの表情。

まさかのハイスペックすぎる男があたしの彼氏ということでさぞかし妬んでいることだろう。


「うそ…めっちゃ頭良いじゃん…。」と言った茉莉花の声はちょっとだけ低く、素に戻っていた。


「どうやって沙希が付き合えたの…?」


くそっ…あからさまに見下して聞くな。
いちいちイラつくわ。


「どうやって…?うーん…。」


さすがに返答に困っていると、続けて茉莉花の質問が飛んでくる。


「どっちから告白したの?」

「あぁ、あたしあたし。」


良かった。次は答えやすい質問だった。


「え〜沙希すご〜い!あたしだったらこんなかっこいい人に自分から告白なんてできない!」


上目遣いの猫撫で声。すごいな。こうやっていつも人の彼氏を煽ててるんだな。そして煽てられている航ダーリンは………


隣の席で盗み聞きしている航にジト目を向けていた。ちょっと!今はそっち見ちゃダメ!


トントン、とつま先で航ダーリンの足首あたりを蹴ると、前を向いてくれた航ダーリンは、アイスコーヒーを一口飲む。


航ダーリンが動作一つ一つを行うたびにチラチラと目を向ける茉莉花は、「ほんとかっこいい〜。沙希いいな〜。」とちょっと拗ねたように唇を尖らせた。


ちょうど茉莉花がそんな表情を浮かべた時、航ダーリンの視線が不意に茉莉花へ向けられ、その瞬間を待っていたかのように茉莉花は航ダーリンを見て可愛らしく微笑んだ。

あたしはその瞬間思わず隣の席の航の方を見てしまい、笑ってしまいそうになった。

何故なら航がそのタイミングで「今のテクニックかな。」とコソコソなっちくんに話していたからだ。そしてなっちくんも「あれはかわいいな。」と真面目に返している。


ちょっと2人とも!
声聞こえるから黙ってて!


あたしに二人の声が聞こえてるということは当然航ダーリンにも聞こえているわけで、茉莉花が航ダーリンに夢中のあいだにあたしは航ダーリンの様子を少し窺ってみると、茉莉花に可愛い微笑みを向けられた当の本人は、また一口アイスコーヒーを飲んだ後、珍しく自ら口を開いた。


「まりかちゃん?だっけ。すっげー武器持ってんなぁ。」

「……え?」


突然向けてもらえた航ダーリンからの言葉に、茉莉花は可愛く小首を傾げる。そんな茉莉花に航ダーリンは、片腕をテーブルについてやや身体を乗り出すように茉莉花をジッと見つめた。

航ダーリンに見つめられただけでポッと赤くなる茉莉花の頬。なにがしたいんだ、航ダーリン?と思っていると、航ダーリンも茉莉花に負けないくらい人を惚れさせる笑みを浮かべて一言、茉莉花が絶句するようなことを口にした。


「そうやってにこにこして人の彼氏奪うんだ?」


「…え、」と狼狽える茉莉花にあたしは思わず「ちょっ!」と声が出たあと、『航ダーリン』と呼んでしまいそうになり慌てて口を閉じる。隣の席に座った航となっちくんは、何も言わずに二人でアイコンタクトを取っていた。


「と、…らないけど…、どうして…?」


声を絞り出すように航ダーリンに返事をした茉莉花は、笑顔を保とうとするもその表情は少し引きつっている。


「え、だってなんか俺すっごいアピールされてるような気になっちゃって。ごめんね?勘違いして。」


そう返した航ダーリンの態度は物腰柔らかで、茉莉花はちょっと安心したようにホッとしながら「ううん」と首を振り、また可愛く微笑んだ。


もーヒヤヒヤするよ航ダーリン…。

あたしもホッとしていると、ポケットに入れていたスマホが振動したことに気付いた。けれど今スマホを出すわけにもいかず放置していると、隣から航がスマホを指差して何か言いたげにこっちを見てくる。

え?なに?スマホ見ろってこと?

何食わぬ顔をしてポケットからスマホを取り出し確認すると、【 沙希ちょっと席離れて二人だけにしてみて 】という航からのラインが入っていた。

うっそ、ちょっとなにこの指示!

まさかの航からの指示にあたしは悩んだ末、友達から着信があったと嘘をついて席から立ち上がった。


大丈夫だろうか?二人きりにして。なにが心配って、航ダーリンが茉莉花に変なこと言わないかが心配だ。


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