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「航ぅ!!!コルァァアア!!!あんたまだ寝てんのか!!!」
午前10時過ぎに、手作りケーキを持って来てくれたゆりさんが、ベッドでまだすやすやと眠っていた航に向かって大声で怒鳴りつけた。
「…うっ、うるせ…、母ちゃんもう来たのかよ…。」
もぞっと身体を動かした航は少々起きるのが辛そうで、俺は慌てて航を庇うためにゆりさんの気を航から逸らさせようと、「あ、ゆりさんコーヒー入れるので座っててください」とテーブルにゆりさんを促す。
昨晩は俺の誕生日ということもあってか航がとても積極的で、嬉しくて、可愛くて、つい夜更けまで航との行為に没頭してしまった。だから、航が起きれなくなるのも無理はない。
ゆりさんがテーブルに座ったのを確認し、航が眠っている部屋を覗く。少し申し訳ない気持ちになりながらのっそりと起き上がる航に「大丈夫?」と問いかけると、航は眠たそうにコクリと頷く。
「ゆっくり着替えておいで」と航の頭をそっと撫でて、俺は再びゆりさんの待つ部屋へ顔を出した。
「るいきゅんごめんなぁ?航に今まで家事とかやらせたことないから、るいきゅんに任せっきりなんちゃう?」
そう言って申し訳なさそうに話すゆりさんに、「全然。航も洗濯とか掃除とか頑張ってくれてます。」と言いながらカップにコーヒーを入れてゆりさんの手元に置く。
するとゆりさんは頬に両手を添えて、「やーん、もうるいきゅん素敵すぎやわぁ。」と俺を見るもんだから、照れ臭くてしょうがない。
「あ!そやそや、るいきゅん誕生日おめでとう!プレゼントめっちゃ悩んでんけどな〜、これ良かったら使って!」
「え、良いんですか?ありがとうございます。」
ハッと思い出したように紙袋の中からシンプルな包み紙で包まれた小箱を取り出したゆりさんから小箱を受け取り、お礼を言いながら包み紙を剥がして箱の中身を見れば、黒地で革製の定期入れだった。俺はそれを見て、思わず笑ってしまった。
「えっなに!?なんで笑ったん!?」
「あっいや、すみません…。航に貰ったのとすげえ似てるから…。親子だなぁ、って思って…嬉しいです。ありがとうございます。」
「えぇ!?航にはプレゼント被らんように定期入れって言っといたんやで!?」
「あ、いや、違います、航がくれたのはこれなんです。」
少し焦りを見せるゆりさんに、航から貰ったプレゼントを見せる。黒い革製の定期入れの隣に、黒い革製のキーケースを置くと、ゆりさんは「うわ、ほんまや似てる。」と驚いていたから、また笑ってしまった。
「出かける時はこれ二つとも肌身離さず持って出かけます。ありがとうございます。」
大切にしよう…と貰ったプレゼントを両手に持ち、もう一度ゆりさんにお礼を言えば、ゆりさんは「喜んでもらえてよかった。」と優しく微笑んでくれた。
その後、ぴょっこりと髪が跳ねた寝癖頭に、服の中に手を突っ込んでぽりぽりと腹を掻きながら顔を出した航に、ゆりさんは何か言いたげに航を見ている。
「ちょっとちょっとぉ、あんたなに?その頭!見てみぃやるいきゅんのこのシュッとした装い!この後まいさんたちも来るのに恥ずかしいからはよ直してきて!」
「んぅ…。母ちゃんキーキーうるせぇ…。」
ゆりさんに文句を言われた航は、まだ眠たそうな顔をしながら寝癖を直しには行かず、ゆりさんの正面の椅子に腰掛けた。
眠気覚ましに、とカップにコーヒー、ミルクと砂糖を少々入れて航の手元にカップを置くと、欠伸をしながら「サンキュ〜」と言ってへらりと笑う航。そんな航を、ゆりさんはまたなんか言いたそうな顔で見ている。
「はぁ。…母ちゃんはあんたをそんなずぼらな子に育てた覚えは……、ある。」
「あるんかい。」
「でももう航も大人やからな。るいきゅんに甘えてばっかりはあかんで。」
「甘えまくってねえよ。今日はたまたま……、うん…、まあ…。昨日夜更かししちゃって…いつもは早起きしてるけど…、ちょっと今日は腰が痛「なにボソボソ言うてんねん。」……。」
小声で言い訳を言っていた航は、若干頬を赤くしながら黙り込んだ。
俺にも責任があるから、航に申し訳ない気持ちを抱きながらこっそり手を合わせると、航は小さく首を振ってくれた。
次からゆりさんに会う前日のセックスは、控えようと思った。
「とりあえずその寝癖なんとかして!」
そう言って航の髪にゆりさんが手を伸ばした時、部屋にインターホンの音が鳴り響いた。
玄関へ向かいドアを開けると、「お兄ちゃん誕生日おめでとー!!!」と勢いよく顔を見せたりな。その後ろには、母さんとりとが立っている。
「おう、サンキュー。てか珍し、りとも居る。」
「速報!りと、反抗期終了。ちょっ痛っ!痛いし!頭叩くな!!」
りなのりとへの発言に、ここへ来ていきなり兄妹喧嘩が始まりそうな雰囲気の中、りとはフンとそっぽ向いて、「お邪魔しまーす。」と部屋に入っていった。
「なんだあいつ。」
「あっ!りとくんこんにちはー!」
俺のすぐ後ろにはゆりさんが立っていたようで、りとに声をかけてくださったゆりさんに、りとはぺこりと頭を下げる。
「や〜んも〜、りとくんもイケメンだわぁ。あっりなちゃん、まいさんもこんにちは!」
それから、玄関で挨拶をし合う母さんたち。
その時、ゆりさんに続いて玄関に来ていた航の髪に手を伸ばすりと。……には気付かずに、俺はりなと会話をしていた。
「お兄ちゃん!誕プレ持ってきた!」
「まじ?サンキュー。」
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「おぉ、りとくん久しぶり。」
りなちゃんからりとくんも来るって聞いていたけど、ほんとに来た。って密かに思いながらりとくんに声をかけると、りとくんはクスッと笑って俺の頭に手を伸ばしてきた。
「ん?」
「寝癖。」
「うわ、さっそく突っ込まれるとは。」
母ちゃんに散々『寝癖寝癖』って言われたけど、そんなに目立つ寝癖がついてるとは思っていなくて油断していた。
サラリと俺の髪を触って笑っているりとくんを少し見上げると、りとくんと目が合う。……ん?少し見上げると?
そこで俺は、ふと気付いてしまった…。
こいつ、身長伸びてやがる…。初めて会った時は俺とそんなに身長変わらなかったのに…。
と思っていると、りとくんはクスクスと笑いながら俺の頭を両手でグリグリと掻き混ぜてくる。
そして俺はもうひとつ、気付いたことがある。いつもニヤニヤと憎たらしかったりとくんから、あまり憎たらしさが感じられない。
なんか、…そう、この雰囲気は…、
なんとなくるいに似てる。
…と、髪を触られながらりとくんのことを観察していると、「あっ!お兄ちゃん!りとがまた航くんいじめてるよ!!」とりなちゃんがこっちを指差していたから、そこでりとくんの手がスッと俺の髪から離れた。
るいがハッとしたように俺の元へ歩み寄ってくる。すると、りとくんは逃げるように部屋に入っていった。
「あ、大丈夫だぞ、寝癖をちょっといじられただけ。」
「……ふぅん?」
「俺やっぱり寝癖直してくる。」
なんだかりとくんに髪を触られてからやたらと寝癖が気になってしまい、俺はるいにそう言ってから、洗面所に向かった。
そういえば、りとくんの目線は少し前のるいの目線と同じ高さな気がして、それから、笑った顔がるいに似てて、それから、それから、声も似てて、ちょっとだけドキッとした。
友岡 航、一瞬の不覚。
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