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その日の夜、お母さんにりとが反抗期終わったかも!とウキウキしながら報告すると、お母さんも「やっぱり?」と言って笑っていた。お母さんも言うのなら間違いない。
そう言えばクソブタとかあんまり言われなくなった気がする。試しになんか言われるか、りとが買ってきたジュース飲んでみよう。と、りとがお風呂に入っている隙を狙ってりとのジュースを飲み干すと、風呂上がりに冷蔵庫を漁ったりとに、その後頭叩かれた。
まありとのだと分かっててジュースを飲み干したりなが今回は悪いけどさぁ。
「りとだってりなのやつ飲むじゃん!」
頭を叩かれて痛かったから文句を言ったけど、りとは無反応で牛乳を飲んでいた。りなの文句に言い返してこないりとは、やっぱり反抗期終了で間違いなし?って思った。
次の休日、りなはお母さんとお兄ちゃんの誕生日プレゼントを買いに行こうと出かける準備をしていた。
相変わらずリビングのソファーでゴロゴロしているりとに向かって「お兄ちゃんの誕プレ買いに行くから3000円。」と手を出すと、これまた珍しく「俺も行く。」と身体を起こすりと。
りなはこの時、これは事件だと思った。
「…お母さん…りと絶対なんか企んでるよ…。」
一旦りとが自分の部屋に行ったあとお母さんに言えば、お母さんは「かもね。」とクスクス笑っている。
部屋着から私服に着替えて、手ぶらでポケットに財布とスマホだけ突っ込んだりとは、大人しくりなとお母さんのあとに付いてきた。
お母さんは珍しく一緒に買い物に付いてきたりとに、ちょっと嬉しそうだった。
騙されちゃだめだよお母さん、どうせこの後焼き肉食って帰ろう、とか言い出すに決まってる。
……っていうりなの予想は見事に外れ、りとはお兄ちゃんの誕プレにりなとお母さんが選んだバッグの代金を支払う時、大人しくお金を出してきたから、りなはこの時また事件だと思った。
焼き肉食いに行こうとも言わないし。
ほんとにお兄ちゃんの誕プレ買うのに付いてきただけみたいだ。
そんなりとにお母さんはとても嬉しそうで、「なんか食べて帰る?」とりとに問いかけている。お母さんは良い子にしてると優しいから。だから、いつも良い子だったお兄ちゃんに、お母さんはいつも一番優しかった。
「焼き肉はやだからね!」
りとが焼き肉とか言い出す前に言っておくと、「じゃあ焼き肉。」って言いやがったから、やっぱり中身は性悪野郎に変わりはなかった。
「肉系はやだ!!!」
「じゃあファーストフード以外ならどこでも良い。」
「あ、お母さんもりとと同感!」
りとの発言に、お母さんは嬉しそうにりとに同意してきたから、りなはその後ちょっとだけ拗ねた。
でも三人で入ったお店で食べたカキフライ定食が美味しかったから、りなの機嫌はいつの間にか直っていた。
次の休みにお兄ちゃんと航くんが住むマンションへ、お兄ちゃんの誕プレを渡しに行けることになったけど、珍しくりとも着いてくるってさ。
お母さんは、「お兄ちゃんの生活にりともちょっと興味があるのかもね。」って言っていたけど、りとの考えていることはもうりなにはさっぱりわからん。
「りと反抗期終わったの?」
って言ったら頭叩かれた。チッ。
*
「航、お待たせ。」
「ううん、俺も今来たとこ。……っていうデートの待ち合わせてきなやり取りすんのひょっとして初じゃね!?」
本日4月22日は、るいの誕生日。
しかし残念ながら平日ということで、学校が終わったあと待ち合わせをして、これからおデートなのである。
行き先は特に決まってないけど、誕生日プレゼントをこれから買ってあげる予定だから、俺はあれこれ街中にあるメンズショップをかたっぱしから物色する。
「あ!このレザーブレスるいに似合いそう!
あ!こっちのも似合いそう!
あ!この服るいに似合いそう!
あ!こっちの服も似合いそう!
あ!ていうかお前なんでも似合うわ!」
結論、るいが身に付けるとなんでも似合ってしまうということで、るいの誕生日プレゼントが決まらない。
興奮気味にあれこれ商品を物色する俺に、るいはにこにことご機嫌そうで、久しぶりのおデートに俺もテンションが上がりっぱなしだった。
「大学で持っててもらえるものがいいから。」
という俺の希望で、結局選んだものは黒い革製のキーケース。うん。るいにぴったりじゃねえの、ってすげえ満足しながらお会計を済ませる。
「家の鍵をちゃんとここにつけて、んでこれを持ってちゃんと家に帰ってくるんだぞ。」って言いながらプレゼントすると、るいは物凄く嬉しそうに「うん。ありがと。大事にする。」と頷いてくれた。
メンズショップの物色をようやく終え、「このあとどうしたい?」って問いかけると、るいは「家に帰って航とイチャイチャしたい。」って答えるもんだから、俺は「クソぉ!!!仕方ない、帰るぞっ!!!」と早急に帰宅した。
『クソぉ!!!』っていうのは、つまり『るいきゅんあいちてるこのやろう!!!』っていう俺独自の使い方である。
俺たちが住むマンションに到着し、エレベーターに乗り込む。俺たちしか居なかったから、るいが甘えるように俺の首に腕を回してきた。
「るいきゅんもうちょっとだから我慢して。」
「むり、我慢できない。」
チュ、と頬に唇を寄せてくる。
仕方ない、誰もいないしまあいいか。…と、油断して、その後開いたエレベーターの扉の外には、…
「……あっ、あっ…。こんにちはぁ〜…。」
福田さんが立っていた。
あからさまに『やっべ。』って顔された。
何事も無かったように俺からスッと手を離するいが、「おでかけですか?」とにこりと笑みを浮かべながら問いかける。
「あ、う、うん、バ、バイトに…!」
って福田さんすっげーどもってるから。るいきゅん、あなたの素知らぬ態度ってほんとうにすごいと俺思う。
「がんばってください。」っていい笑顔で言って、「それじゃあ」とぺこりと会釈するるいに、福田さんは「う、うん、それじゃあ」とエレベーターに乗り込んだ。
「あぁ、福田さんにバレたな。…なにがって?るいが俺のこと好きすぎることをだ。」
ドヤ顔でるいに言えば、るいは「はやく航もバラせばいいよ。…航が俺のこと好きすぎることをな。」……ってニッと笑いながら言い返されたから、俺はまた「クソぉ!!!」と叫んだ。
俺たちの部屋はもう間近。
るいの手を引いて扉の前へ。
「はい、はやくっ!はやくっ!鍵だしてっ!はい鍵開けてっ!」
俺がプレゼントしたキーケースをるいが使ってるところを見たくて促せば、るいは「はいはい、今鍵開けるから。」と、黒いキーケースを鞄の中から取り出したから、俺は満足気に頷いた。
「うんうん。とても良い。」
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