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「りとくんの学校共学だよなー、可愛いJK見れるかなー。…おっと失言失言。」
ジトーとした目をるいに向けられ、俺はわざとらしく手で口を押さえた。冗談だってば。
「それはさておき、りとくん文化祭でなにやんのかな。るいなんか聞いてる?」
「さあ。あいつが俺に言うわけねえだろ。」
「それもそうだった。」
朝からそんな会話をしながら、身支度をする。
りとくんの学校での様子を見れるのはちょっと楽しみかもしれない。るいが男子校であのモテっぷりだったのだから、共学校のりとくんなんかさらにチヤホヤされているのだろう。
「りとくんモテモテだろうなあ。」
ちょっと俺がそういう発言をすると、隣でムッと唇を尖らせるるい。可愛い。妬いてる。
「あ、るいもモテモテだったけど俺のモノにしちゃったからなあ。ごめんな?もっとモテてたかったか?」
「俺はずっと航にだけモテてたい。」
「ぶふふ、ウケる。」
「ウケんな!」
るいが真剣な顔してそう言うもんだから、ちょっと笑ってしまった。“俺にだけモテてたい”って言葉の使い方おかしくねえか。まあいいけど。
身支度を済ませ家を出て、俺とるいは電車をいくつか乗り継ぎながら、りとくんが通う学校へ向かった。
*
その頃、文化祭開幕を待つ生徒一同、朝から賑やかに出し物の準備を進めていた。
そんな中、一人の男子生徒の叫び声が、教室内に響き渡る。
「は!?おい、ちょっ、おかしいだろ!!!」
周囲を見渡すと、クラスメイトの女子は色違いで揃えたフリフリのスカートとエプロンを合わせ、可愛らしく着こなしている。男子はこちらも色違いで揃えたTシャツとシンプルに黒パンツ、腰巻きエプロンを合わせてなかなか様になっている。
自分にも同じような衣装が用意されていると思いきや、女子から受け取ったのは明らかに見てわかるほどの手の込んだ衣装だった。
つるりとしたシルクのような布でできたこれは、…マントか?いや、おかしいだろ。エプロンじゃねえのか。それになぜ、王冠が用意されている?
衣装を受け取った男子生徒、矢田りとはひどく困惑した。
「りとー、早く着ろよ。はじまっちまうぞ。」
「は!?こんなん着るかよ!!」
「えっ…!だって矢田くん衣装なんでもいいって…!」
バサっとマントのようなものを床に投げつけたりとに、女子がうるっと涙を見せた。
「違うだろ!なんで俺だけこんなん着るんだよ!おかしいだろ!!」
「おかしくないっ!!そんなのかっこいいからに決まってるでしょ!?」
珍しく女子がりとに言い返した。それも、りとさえも怖気付く勢いで。
珍しく男子たちが、りとに同情の眼差しを向けている。確かに自分にあの衣装は似合わない。しかし、例え似合っていたとしても、あの衣装は着たくない…と。
「…りと。これで利益でたらほぼお前のおかげだから。打ち上げはパァっと派手にやろうぜ。…な。」
ポンポン、と慰めるように男子がりとの肩を叩く。普段は喜んでりとが食いつくような言葉も、今のりとには響かなかった。
渋々りとは、不服そうにしながらも、用意された衣装に手を通す。そして、このクラスに一人の王子様が誕生した。
パチパチと拍手され、女子全員から歓声が上がる。
「やばい、超かっこいい〜!」
「やっぱり矢田くんには王子様衣装が一番似合うよね!」
そう満足気に語る女子たちに、りとはひとつだけ用意された豪勢な椅子に座らされた。
大道具係が作った看板に書かれた文字は、【 王子様の好物 】だった。このクラスの出し物のタイトルは、“王子様の好物”と、りとの知らないところで決められていたのだった。
【 やっぱり文化祭こなくていい… 】
文化祭が始まる前からげんなりと項垂れるりとは、半泣きになりながら航にラインを送った。
その頃航とるいは、すでに高校の最寄駅まで来ていたため、勿論時すでに遅しだ。
ぐったりしながら椅子に腰掛けるりとの背後から、普段は大人しそうな女子がこっそりりとの頭に王冠を乗っける。せっかく用意した王冠をしっかり付けてもらわなくてはならない。
そして、これまた普段は大人しそうな女子が、グーと親指を立てながらウインクしている。
完全にりとは、女子のおもちゃになっていた。
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