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雄飛のやつ、俺に何も言わずに家帰りやがった。つーか友達って誰だよ。お前俺の知人くらいしか友達いねーだろ!!

雄飛とはかれこれ6、7年ほどの付き合いだが、ずっと同じ学校でずっと連んできたから、俺の知らない友達なんか居ないはずだ。なのに友達連れて地元に戻っているなんて。

雄飛のくせに、と俺はやたらイライラした。最近ただでさえ付き合いが悪い雄飛にイライラしていたから余計にだ。

ラインも無視しやがって。
チッ、と舌打ちをしながら、俺は雄飛のあとを追うように夏休み初日から地元に戻ってきた。

つーか何年一緒に居ると思ってんだ、お前の行動なんてお見通しだ。昼飯はどうせ地元のファミレスだろ?地元で飯食うとこなんかそこくらいしかねーからな。

地元の駅から家への道のりを少し寄り道してファミレスに辿り着き、外から窓ガラス越しに店内の様子を窺うように覗き込むと俺の予想は大当たりで、よく知る幼馴染みの飯を食ってる姿を発見。

俺はフッ…とほくそ笑みながら、さらに雄飛が見える位置へと近付く。

連れは誰だ?雄飛と向かい合って座っているのはどうやら男のようだ。彼氏?ではないな。友達っつってたし。

雄飛の連れがどんな奴か見てやろうとしていたところで、雄飛が俺の存在に気付き、こっちを指差しながら何か言っている。

うはは、こっち睨んでやがる。
『なんでいるんだよ』って顔がそう言ってる。

ついこの前まで俺が声かけてもなかなか地元帰ろうとしなかったやつが生意気なんだよ。と俺は雄飛に向かって中指を立てながらファミレスの店内へ足を踏み入れた。


店員の「一名様ですか?」という問いかけを「連れが居るんで」と躱わし、雄飛が座るテーブルへ向かう。


「うわ、来たし!!絢斗なんで居るんだよ!?こえーわ!!」

「は?お前の頭ん中なんかお見通しなんだよ。」


やや驚き混じりな声を上げる雄飛にそう返したところで、雄飛の連れがチラリと振り向いてこっちを見ていることに気付く。

ちょっと無愛想そうな、同い年くらいのやたら顔が整ったイケメン………え、おいおいちょっと待ってくれ。


…そして俺は……、

雄飛の連れのその姿に、

一瞬で目を奪われた………。



俺は瞬時に手汗を拭うように、手の平をゴシゴシとズボンに擦り付ける。

そして頭を下げながら、片手をその人に差し出した。


「ちょっ、あの!!俺春川絢斗って言います!!」

「は?」

「…おい絢斗やめろ、りと引いてんだろ。」


握手を求めて差し出した手だが、握り返してもらうことはできず、諦めて顔をあげる。

雄飛が呆れた目で俺を見る。

お前は黙ってろ、いつの間にこんな可愛い顔をした男と仲良くなってやがったんだ。紹介くらいしろ、俺のタイプだってことくらい見りゃわかんだろ。


顔を上げて目の前の男をまじまじと見つめる。やばい、めっちゃ綺麗な顔してる。イケメン。俺よりイケメン。すげえイケメン。強気で生意気そうな顔がたまんねえ。マジタイプ。好き。押し倒したい。


「…え、ちょ、絢斗お前りとは無しだぞ。すぐに帰ってくんねー?」


横から聞こえる雄飛の声をサラリと聞き流し、俺はその人の隣にズイ、と腰掛けた。


「どこ高なんですか!?あの、俺こいつと同じ学校の友達で!!」

「あぁ、 さっき聞いた聞いた。ろくでもねえ雄飛のダチな。」

「へ!?」


“ろくでもねえ雄飛のダチ”!?

無愛想にそう言って、ぱくりとハンバーグを口に入れ、もぐもぐと美味しそうに食べている。口の端に付いているソースを舌で舐めとりたい。

…とジッと口元を見つめていると、雄飛が「おい、絢斗!」と名前を呼んでくる。うるせえな、なんだよ。


「言っとくけど俺もお前の頭ん中まる見えだからな。りとに手出したらお前返り討ちに合うぞ。」

「あ、りとって言うんすね!俺もりとって呼んでも良いですか?俺のことは絢斗って呼んでください!」


そう話しかけたが、りとさんは俺の声をまるで聞こえていないかのようにスルーして、ハンバーグをまたぱくりと口に入れる。

俺はまたそんな姿を観察するようにジッと見つめていると、もぐもぐ、ごっくんとハンバーグを飲み込み、水を一口飲んでから、りとさんの冷ややかな視線が俺に向けられた。


……あれ、なんだろう、この冷めた目。
なんかちょっと、誰かとダブるな。


「うるせー。騒がしいやつだな。さすが雄飛のダチだけあって頭悪そう。」

「おいどういう意味だこら。」

「類は友を呼ぶってやつ?あ、雄飛くんバカだから意味わかんないかぁ。」

「はぁ?それくらいわかるっつーの!」


目の前で親しげに会話されると腹立つな。
『雄飛』と、その形の良い唇で名前を呼ばれる雄飛が羨ましくて、思わずやつを睨み付けた。

すると、その俺の視線に気付いた雄飛がややたじろぐ。


「…ちょ、俺なんも悪くねーだろ。睨むなよ。」

「…雄飛ずるい。なんで紹介してくんねーんだよ。俺もりとさんと仲良くなりたい…。」

「えぇ…ちょ…、絢斗拗ねんなって…!」


目の前で幼馴染みと自分のタイプの人に仲良くされることが、俺はたまらなく嫌なのだ。


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