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俺がるいのことを好きだと彩花ちゃんに打ち明けたあと、彩花ちゃんの顔には苦笑が浮かび、「えっ?」と戸惑うような声で聞き返された。
「もしかして…、前に言ってた人のこと…?」
「あ、そうそう。俺の初恋!」
「…えっ…、航くんは…、じゃあ、男の人しか好きになれない人…?」
「いや、好きになった人がたまたま男だったってだけだけど。」
俺の話に彩花ちゃんからいつもの可愛い笑顔は消え、ほんの少し顰めっ面になってしまった。
「まさか付き合ってるとか言わないよね…?」
「あれ?まさかって言うほど?そのまさかなんだけど。」
うわー…ひょっとしてこれ、言わない方が良かったやつかな…。今度は俺が彩花ちゃんの反応に苦笑してしまった。
「男同士で…?嘘でしょ…?結婚も子供もできないよ?航くんちゃんと将来のこと考えてる…?」
そんなことは分かってる。将来のことだってちゃんと考えてるさ。でも、彩花ちゃんの言葉はグサグサと俺の胸に突き刺さった。
…やっぱ、言わない方が良かったかも。今までの環境が恵まれすぎていて、ちょっと麻痺しちゃってんのかも。
そりゃ簡単に受け入れてくれる人ばっかじゃねえよなぁって、改めて実感した。
「すっげー考えてるよ。でも別に結婚と子供は俺の中ではそんなに重要じゃねえし。」
「…そんなの、今だから言ってられることじゃない…?」
「いや俺もう決めてるもん。結婚しねえし子供も要らねえ。」
「でも、航くんのご両親は、そんなの望んでないかもしれないよ…?」
…はぁ。
俺なんで彩花ちゃんとこんな話してんだろ。
思わずため息が出てしまった。
もうこれ以上は彩花ちゃんと話すのちょっとキツイな…と思い始めた頃、頭上からるいの声が聞こえる。
『航、まだダメ?そろそろ行こ?』
耳にスッと入り込んでくるるいの声を聞き、お前はほんっとタイミング良いなぁ。って、なんかちょっと安堵する。
あとでるいのご機嫌取りしないとなぁ。とかひっそりと考えながら、るいに返事をして立ち上がる。
彩花ちゃんとは、もうほんとに会うことは無いかも…。
「じゃあ彩花ちゃん、俺もう行くわ、バイバイ。」
『またね。』とはもう言わない。
最後に一言そう言って立ち去ろうとした俺だったが、その時の彩花ちゃんが、今まで見たこともないキツイ視線をるいに向けていたから、俺は驚きで目が逸らせなかった。
けれど、それも束の間だった。
「やだよ!航くんいかないで!!」
立ち去ろうとする俺の背中に抱きついてきた彩花ちゃん。店内にいた客たちが、彩花ちゃんの声に何事かとチラチラ視線を向けてくる。
「え…ちょっ、彩花ちゃん…、」
…どうしよう。
今度は助けを求めるようにチラリとるいに視線を向けると、こっちはこっちでかなり不機嫌そうに顰めっ面で彩花ちゃんを見下ろしている。
そしてるいは強引に、彩花ちゃんの手を俺の身体から引き離した。
すぐに俺の手を取って、無言で出入口へと向かうるい。
店を出て数メートルを歩いてもまだ、るいは無言で俺の手を離さない。
バタバタと背後から、駆け寄ってくる足音が聞こえる。
「やだって言ってるじゃん!!航くんを返してよっ!!!」
そして、ヒステリックに叫んだ彩花ちゃんが、駆け寄ってきて俺の着ているシャツを掴んだ。
こんな彩花ちゃんは見たことがない。彩花ちゃんがこんなになるまで、俺はこの子に好かれていたのか…という驚き。
「…返すもなにも、お前のもんじゃねえだろ。」
俺を諦めてくれない彩花ちゃん相手に、るいはツンとした態度だ。女の子相手なのに珍しい…。
「もういいだろ、あっち行けよ。」
「やだっ!こっちの台詞だから!!」
そしてるい相手にこんな態度を取る女の子もまた珍しい…。
「あたしの方が航くんのこと好きだし、ずっとずっと好きだったんだからっ!!」
「お前の気持ちなんか、知らねえよ…。」
彩花ちゃんの言葉に素っ気なくそう返したるいだったが、俺は気付いてしまった。
るいの声が、微かに震えていることに。
口では『知らねえ』とか言いつつ、優しいるいのことだ、ほんとは彩花ちゃんの気持ちを痛いほど理解しているし、でもどうしようもできないことに、るい自身が苦しんでいるのだ。
ギュッと強い力でるいに掴まれている手首が痛い。
その態度だけで、るいの気持ちが伝わってくる。
るいを不安な気持ちにはさせたくない。
安心させたい。
そうなるとやっぱり、ここで彩花ちゃんの気持ちには応えられないことをはっきりと伝えなければならない。
「…ごめんな、彩花ちゃん。今まで俺のこと、好きでいてくれてありがと。気持ちに応えてあげられなくてごめん…。」
彩花ちゃんにそう告げると、彩花ちゃんの目からすぅっと涙が溢れた。
堪え切れないかのように涙が溢れ、鼻をすする。胸が痛い。なんか、こっちまで泣きそうだ。
背後でそんな光景を見守っていた彩花ちゃんの友人が、慰めるように彩花ちゃんの肩に触れる。
涙で濡れる顔を、彩花ちゃんは何度も何度も手で拭った。
笑顔が可愛かった友人の最後に見た表情は、悲しそうな泣き顔だった。
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