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「アイスコーヒーSサイズで。」


カウンターでコーヒーを注文している航さんのご友人様。

文句無しのルックスに、高身長でスラリとした体付き。落ち着きある色合いの大人っぽくてお洒落な服装に、軽くセットされ整えられているサラリとした髪。

あぁ…なんて素敵なの。
あまりの美貌に暫く見惚れてしまったわ。


高校からの友人、彩花の長年片想いをしている相手には興味があった。どれほどの良い男なのかという興味だ。

可愛いくてモテるくせに彼氏を作らない彩花にはいい加減イライラする。可愛い友人がいつまでもフリーで居るのが、あたしはなんとなく気に入らないのだ。


待ち合わせの場所に現れた“航くん”を視界に入れた瞬間から、彩花の態度はガラリと変わった。まるで彩花の周りにはひらひらと花びらが飛び散っているようなイメージの、可憐で乙女な女の子に様変わり。

久しぶりに会えて嬉しそう。本当に好きなんだろうなぁ。長年の片想いだもんね。この人が、彩花の好きな男の子かぁ。

へぇ、かっこいいじゃん。がんばれ彩花。

そんな気持ちで二人のやり取りを見守っていた時だった。


『航、待ちくたびれて来ちゃったよ。』


突如あたしの目の前に、イケメン美男子が舞い込んで来たのである!!!


彩花は航さん以外の男には興味なし。そんな一途な彩花だから、あたしは彩花と仲良くしていられる。

彩花はそっちを頑張って。
あたしはこっちをがんばるわ。


彩花たちが居る場所から、少し離れたテーブルへ。向かい合って座るあたしと航さんのご友人様。


「あの、お名前聞いても良いですか?」


話しかけたのはあたしからで、でも航さんのご友人様はあたしの問いかけを無視してチューとストローでアイスコーヒーを吸い上げながら、ジッと彩花たちの方を見ている。


そして、ストローから口を離し、彼は徐に口を開いた。


「あやかちゃん…って、やっぱ航のこと好きなのか…。」


あたしの方は一切見ずに、彩花の方を見て彼はそう口にする。……あれ?ちょっと待って、このご友人様…彩花のこと知ってるの?もしかして彩花に気があるなんて言わないでしょうね?

そんな疑いを持ってしまい、あたしはそれが嫌で、彩花が航さんのことをそれはもう好きで好きでたまらないということを教えてあげる。


「あぁ、もうあの子ずーっと航さんのこと好きみたいですよ?小学生の頃から?とか。長い片想いみたいです。」

「ふぅん、…そうなんだ。」


あたしの言葉に頷いてから、ようやく彩花から視線を逸らし、またストローに口を付ける。

この方、いちいちかっこいいから目が離せなくて困ったなぁ。


「彩花、航さんに前一回振られてるらしいけど、今は航さん彼女居るんですか?いい加減報われて欲しいんだけどなぁ。ほら、あの二人めっちゃお似合いじゃないですか?」


この方との間に沈黙が流れるのは嫌で、適当にベラベラ口にしたその話題に、航さんのご友人様は初めてあたしの方へまともに視線を向けてくれた。

そしてまたストローでチューとアイスコーヒーを吸い上げてから、ご友人様は口を開く。


「…そうだな、お似合いなんじゃねえの。でも航はダメ。付き合ってる人いるから。」

「あっ…そうなんですか?」


突然むすっと不機嫌そうに眉を顰めて唇を尖らせたご友人様。彩花と航さんがお似合いだと言ったことに機嫌を損ねさせてしまったのだろうか?

やっぱりあなたは、彩花のことが気になるの?

…と、こんなイケメンにまでモテてしまう彩花に対してあたしは少々嫉妬してしまった。


それから暫しの沈黙。

ご友人様はまたチューとストローでアイスコーヒーを吸い上げ、吸い上げ、吸い上げ、カップの中身を一気に空にした。


「そろそろいいか?もう限界。」


店内に現れた時より愛想は悪く、そして低い声でそう言って、ご友人様はガタリと席から立ち上がった。


「あっ!えっ!もう行くんですか!?」


まだ名前も連絡先も何も聞けてないのに!

焦って声をかけるあたしだが、彼はそんなあたしの声を無視して彩花と航さんがいる方へ向かってしまった。


「航、まだダメ?そろそろ行こ?」

「あっおう、ごめんな…?」


一言二言会話をしている航さんとご友人様の様子を、黙って聞いている彩花の目が、何故か鋭くご友人様のことを睨みつけている。


えっ…あんな彩花、見たことない……


航さんとの時間を邪魔されたから怒っているのだろうか?とにかく今まで見たことのないようなキツイ表情で、彩花はご友人様を睨んでいる。


そんな彩花の目にご友人様が気付いてしまったようで、ご友人様は無言で彩花を見返した。


…あれ?なんか、…良くない空気?


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