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結局今日は、映画を見る気分ではなくなり、航とまっすぐ自宅に帰った。
あれから航はずっと暗い表情をしている。
なんて声をかけたら良いかわからない。
ソファーに座ってぼーっとしている。
その隣に腰掛けて、航の顔を覗き込むと、航の顔が徐々に歪んで、ポロポロと涙を溢し始めた。
「うぅ…ごめっ…、なんか、泣けちゃった…。」
航は我慢していた涙を堪えきれなかったようで、泣き顔を隠すように俺の胸元に顔を埋めた。
「いいよ、大丈夫。」
ずっと仲良しだった子だもんな。
あの子の泣き顔を見るのが、航には辛かったのだろう。
子供のように嗚咽を漏らして泣く航の頭をよしよしと撫でる。
暫くすると航は少し落ち着いたようで、赤くなった目でチラリと俺を見上げてきた。
「…るい、怒ってねえの…?」
「ん?俺?」
「…うん、るいに内緒で彩花ちゃんと会ってたから…。」
「あー…うん。大丈夫。怒ってないよ。」
まあ、女子大生って聞いてたからどこのどいつだと思ってたけど。あやかちゃんとなれば話は別だ。
「…よかった、るい来た時どうしようかと思った。」
航はそう言って、少しだけへらりと笑った。航の目の下にある涙の跡を、親指でグイッと拭うように触れる。そのまま航の方へ顔を近付けて、チュッと航の唇に口付けた。
女子大生って聞いた瞬間、不安で航のところまでわざわざ行ってしまったことには、ほんの少しだけ反省してる。
でも、そこに居たのがあやかちゃんだったから、俺は航を連れ去りたいのをグッと抑えて、これでも我慢した方なのだ。
唇を離し、角度を変えてもう一度キスしようとした瞬間、航は何か話そうと口を開く。
「彩花ちゃんにるいと付き合ってること言ったよ。そしたら、『将来のこと、ちゃんと考えてる?』とか言われちゃった。」
航はそう言って、悲しそうにふっと笑った。
あの子だって、航のことが好きで好きで、だからこそそんなことを言ったのだろうと思うけど…。
その言葉はちょっとどうなんだろう。
「は?考えてるっつーの、航は俺が養うよ。」
「いやいや…なに言ってんだ。」
「いや、本気だし。」
俺は、本気だ。
将来のことならちゃんと考えてるから、まるで適当な付き合いかのように…、そんな風に俺らを見るのはやめてほしい。
「将来は航と一緒に住むでっかい家買うからな。なんなら航の家族と一緒に住める二世帯住宅でもいいよ。」
「え、やめろよ、それは俺が嫌。」
真顔で嫌がる航に俺は、ちょっと調子取り戻してくれたかな、とホッとする。
そして再び、航にキス。
角度を変えてもう一度。
ドサッとソファーに航を押し倒しながらも、もう一度キス。
そうしながら、航の着ている服を捲り上げ、航の身体を撫で回す。
服を脱がせて、身体中にキスを落とす。
つまりこうなると、その先にやることは決まってて。
「航、…ベッド行こ。」
「…うん、いいよ。」
頷く航に俺は笑みを浮かべ、嬉々として航を抱えて寝室へと向かった。
そして俺たちは、不安とか邪念を取り除くためのように、夢中になって行為に没頭したのだった。
それでも航は、その後暫く、落ち込んでいるようで元気が無かった。
航にとってあやかちゃんは、大切な大切な友人だから。
21. 諦められない恋ごころ おわり
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