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その後店の外にあったるいの姿が消えたと思えば、店の自動ドアが開き、忍び寄ってくる存在感を徐々に背後から感じた。

やべえ…、あいつほんとに突撃してきやがった。ごくりと俺は口に溜まった唾を飲み込む。


「うっわ、あの人超イケメン…。」


目の前から聞こえる、彩花ちゃんの友人の呟き。こいつは間違いなくるいのことを言っている。

いつもは誇らしいはずなのに、今の俺はそれどころではない。こんな状況は最悪だ。彩花ちゃん、今すぐ俺の腕から手を離してくれ…。


それから数秒後、忍び寄ってきた存在感が俺の真後ろで停止する。

ギョッとした目で俺の背後を見上げている彩花ちゃんの友人の顔は、ほんのり頬を赤く染めた乙女な顔つきだ。惚れるなよ、そいつは俺のダーリンだ。


さて、俺はどうするべきだこの状況……


態度には出さずとも内心焦っている俺に、るいは背後から俺に声をかけてきた。


「航、待ちくたびれて来ちゃったよ。」


やけに優しい声だった。

うん。つまり、やばい。

これは『あとで詳しく聞くからな』という意味が隠れているに違いない。俺はるいの声を聞き、勢い良く振り返った。


「ごめんるい!彩花ちゃんが学校の近くに来たって言うもんだから久しぶりだし会っちゃってた!」


俺はなんてことない風に話す。
安心して、るい。なんもやましい事はない。


「なんだ、そっか。連絡くれたら良かったのに。あと何分くらいかかる?どこかで時間潰してくる。」


すげえ猫かぶりな態度…。
これは確実に後がこわい。


「いや!もう行く!ごめん彩花ちゃん、俺こいつとこの後約束してたからもう行くわ!」


俺はそう言って、彩花ちゃんの腕を引き離し、立ち上がった。

さっさとここを立ち去ろうとした俺だったが、ここでもまた彩花ちゃんの友人が、本日二度目の余計なお世話を仕掛けてきた。


「あ!待って待って、彩花にもうちょっと時間あげて?二人会うの久しぶりみたいだし。彩花、航さんにすっごい会いたかったみたいだから。

航さんのお友達さん、よければあたしとあっちで時間潰しませんか?」


にこりと愛想の良い笑みを浮かべた彩花ちゃんの友人。態度が少し変わった気がする…、この子もしかしたらるいのことを狙ってるな?


俺は早くここから何としてでも立ち去ろうと思った。けれど、再び彩花ちゃんの手が縋るように俺の腕を掴んでくる。


「お願い、航くん…もう少しだけ…。」


どう断ろうか悩みながら、るいの顔色を窺って、チラリとるいに目を向ける。怒るか、拗ねるか、嫌がるか…。

どれかだと思いきや、るいは口角を上げ、爽やかな態度で彩花ちゃんの友人に返事をした。


「あー…じゃあ、少しだけ。」


口元は笑ってるけど、目は全然笑ってない。


その後、るいと彩花ちゃんの友人は、二人で奥のテーブルへ向かってしまった。…最悪だ、なんだよこの展開…。


「…よかった。また航くん、あの人に持ってかれるかと思った。」


ホッと安心するように口を開く彩花ちゃん。


「仲良いね。前地元戻ってきた時もあの人と一緒に来てたよね。」

「あーうん、すげー仲良いよ。」


いくらるいと俺が仲良くったって、少しも俺らの関係を疑うことはねえんだろうなぁ。隠してるってわけでもないけど、言いづらいからできれば察して欲しいな…なんて。そんなに都合良くはいかねえか。


「あの人絶対なおちゃんのタイプど真ん中だよ。かっこいいし、今頃口説かれてるかもね。」


彩花ちゃんは楽しそうにクスッと笑ってそう言った。勿論俺は笑えない。クスリとも笑わない、無表情な俺の顔を、彩花ちゃんは不思議そうに覗き込んでくる。


「航くん?突然黙ってどうしたの?」


俺はそんな彩花ちゃんには返事をせず、髪をガシガシと掻きむしり、目の前にあったキャラメルマキアートをズズズと勢い良く吸い込んだ。


そして、『タン!』とカップをテーブルに置いて、彩花ちゃんの方へ身体ごと向けながら口を開く。


「あのさ、彩花ちゃんだから言うけど。」


俺はほんの少し緊張しながら、彩花ちゃんの目をジッと見つめて、言いづらいその話をした。


「俺、あいつのこと好きなんだ。」


この時の彩花ちゃんの瞳は、

動揺するように揺れていた。


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