4 [ 12/172 ]
『高1、2年同じクラスだった昇ってやつが一緒の大学なんだけど、そいつが俺のこと嫌ってるっぽい。』
家に帰り、顔を合わせたらお互いの大学であったことを話すのが日課になりつつあるが、その日に航から聞いた話はあまり良い話ではなかった。
『しょう』?誰だそいつ。
高校時代を遡っても、そんな奴の顔すら思い当たらないということは、航とそれほど仲が良かったわけではないのだろう。
『なっちくんと、昇アキちゃんのこと好きだからじゃね?って予想してんだけどだからってあいつすげえ俺に感じ悪いし関んねーようにしようって思うけどそしたらアキちゃんとも仲良くしにくいしなんか難しい。』
なるほど。アキちゃんに好かれてる航に嫉妬って?だからって航を嫌うのはお門違いだ。嫌っても態度に出すな、と言ってやりたい。むかつく。航がそんなやつのことで悩むな。
俺は、顔も知らないその男に腹が立った。
高校の卒業アルバムを開けて、航に問いかける。
『なあ、しょうってどいつ?』
『こいつ。』
『…ふぅん。』
『殴り込み来る気か?』
『行かねーよ。』
航は卒アルを眺めている俺を見て、冗談を言うようにケラケラと笑っている。
殴り込みなんかして、人生を棒に振りたくない。でも、むかつく奴の顔くらい知っときたい。
航とそんな会話をした日以来、航はそいつの話もアキちゃんの話もしなくなった。関わらないようにしてるのだろうか。
なちくんの話はよく聞くから、きっとなちくんと一緒に過ごしているのだろう。
でも、俺は密かに気になっていた。だから、ふと思い立ったことは、アキちゃんに様子を聞いてみることだった。
“航の大学生活気になってんの?”とか、“心配性”とか、いろいろ文句を言われるつもりでかけた電話は、思いの外内容が重く、俺は居ても立っても居られなくなった。
「るいー、空き時間どこ行く?」
「…航の大学。」
「……えっ!?」
私物を鞄の中に片付けながら答えれば、仁が数秒遅れに驚きの声を上げる。
「おいおい俺はどうしろって!?」
「あ?一人でどっか座ってろよ。」
「冷たいこと言うなよ!!」
空き時間一人が嫌なのか、仁が俺のあとを着いてくる。しかし俺は、気にせず大学を出て、すぐさま駅のホームへ向かい、数分後に来た電車に乗り込んだ。
「で?なんでまた突然友岡くんの大学へ?」
「くっそむかつく奴がいるから。」
「おいおい殴り込みはやめろよ!?」
「大丈夫、釘刺しに行くだけ。」
「なんかこえーよおまえ!!」
「『男と付き合ってる』とか航が無駄に言いふらされてておまえ黙っていられる?」
「……え、友岡くんそんな目に合ってんの?…っていやいや!それでおまえが大学現れたら逆効果じゃね!?」
「もう遅い。行くったら行く。」
「…お前は頑固親父か…。この後の講義どうすんだよ…。」
「仮登録期間だし出席自由だろ。」
「…るい高校ん時よりなんか不真面目だぞ…。」
仁はそう言いながら、半ば呆れたように俺のあとを着いてきた。文句あるなら着いてくんな。
「他校生入っていいのかよ…。」
「学食解放してんだから余裕だろ。」
「…それもそうだな。せっかくだから食って帰りたい!!」
「また今度な。」
さて。
この広い敷地内に、航はどこにいるんだろう。
講義が終わる時間帯を見計らって、俺は航にメッセージを送信した。
【 今どの建物の何教室に居んの? 】
航から返ってきたメッセージには、居場所と、『それがどうした?』という不思議に思っているだろう問いかけ。
俺がいきなり現れたら怒るかな。
怒られたら、帰って航の好きなご飯いっぱい作るから許して。
[*prev] [next#]