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どうやら俺は、完全に昇に嫌われているらしい。

俺を見ながら、隣にいる女の子とせせら笑っている。気のせいではないのだろう。そんな目で俺を見て、優越感に浸っているように感じる。

おかしいなあ、高校の時は普通に友達だったはずなのに。でもそう言えば高校ん時も、いつの間にかあんまり話さなくなってたなあ。って、俺は少し高校時代のことを思い返してみた。

しかし昇は、女の子と親しげにしながらも、アキちゃんとも行動を共にしている。どうやら昇を取り囲むグループが出来たようだ。

そんなグループの中に控え目に居るアキちゃん。……いや、なんとなく俺には、アキちゃんが今更出来上がってしまったグループから、抜け出したくても抜け出せないような気がした。

アキちゃん、そっちが居づらいなら、こっちに来ても良いんだぞ。…って思うけど。

でもそれは勝手な俺の想像で、憶測でしかないから、俺が口出しをするとおせっかいかもしれない。

でも俺はできればアキちゃんと、また、高校の時みたいに、仲良くしたいと思っている。





昇が、僕の居ないところで、航の悪口を言っていた。僕の耳には入れないように、ちゃんと僕の居ないところで。

でも、僕は昇と仲良くなった女の子が「あの人男と付き合ってるんだってー。」と航を指差しながら他の子に話している会話を聞いてしまった。僕は、すぐに昇が言ったんだと悟った。


「気持ち悪いよね、高校ん時その男とイチャつきまくってたらしいよ。」


笑いながら、航のことを噂している…そんな会話を聞いてしまった瞬間、僕はショックで泣きそうになってしまった。


昇だって僕のこと好きって言ってくれたのに…。その昇が、どう考えても悪意のある言い方で航の話をしていて、僕はショックで昇にどういう態度を取ったらいいか分からなくなった。

けれど、昇は僕にいつも通りに接してくる。笑顔で『お腹減ったな』…とか、気さくに声をかけてくるのだ。

だから僕も『うん、そうだね』って笑って頷いて…、心の底では航の悪口言って最低…って叫びながらも、僕はそれを口に出すことができなかった。思ってることを、ちゃんと言えないのが悔しい。


そんな、密かな悩みを抱えていた時、僕のスマホには珍しい人物からの連絡があった。

卒業式の日、『まあ一応交換しとくか。』って。ちょっと笑いながら連絡先を交換した……、

矢田くんから、電話がかかってきた。


びっくりした。
僕は、見間違いかと思った。

ジーッと3秒間くらいスマホ画面の文字を見つめてから、通話ボタンを押す。


「…もしもし?」


僕はなんとなく、慌てて教室を出た。

昇の近くで、聞かれて良いような話じゃないと思ったから。


『あ、アキちゃん?俺、矢田。』

「…いや分かってるけど…。なに?」

『今は確か休み時間だろ?』

「そうだけど…うわ、ひょっとして航の時間割把握してるの?」

『あー、把握しとくのも有りだよな。ところで航は?一緒にいんのか?』

「…ううん、いないよ。」


僕は、矢田くんへの返答に、ちょっと言葉が詰まった。

…どうしよう。…僕今すごく、矢田くんに話を聞いてほしい。


矢田くんなら、僕が抱えている悩みの解決法を、教えてくれるんじゃないかと思ったから。


「…ねぇ矢田くん、ちょっと良いかな。」


その日僕は、矢田くんに全部話した。

昇に好意を寄せられていたこと、

その所為で航が敵視されていること、

航のことを悪く言っていたこと、

出来上がったグループは居心地が悪いこと。


全部を話したあと、矢田くんは『…ふぅん。話してくれてサンキュー。』と言って、僕との通話を切った。


あ……。解決策を聞く前に電話切られちゃった…。

と思ったその日、

矢田くんは僕らの大学に現れた。


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