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「晃平これとか良いんじゃね。」


服屋に入って早々に王子が手に取った服を俺に見せてきた瞬間、航がペシンと王子の頭を引っ叩いた。


「お前適当にもほどがあるぞ。」

「チッ、バレたか。」


そっと元の売り場に王子が服を戻していると、店員が王子の方へ歩み寄ってくる。


「そちら、今日入ったばかりの新作でして〜!」


営業スマイルを浮かべながら王子に話しかける店員に対し、王子はツンとした態度でめんどくさそうに店員をあしらった。


王子の代わりに航が店員の声に耳を傾け、「ふうん、晃平新作だってさ。」と今度は航がその服を手に取り、俺に見せてくる。


航がその新作の服に興味を持つと、王子も一度売り場に戻したはずの商品に再び目を向けた。


「るい、これに合うズボンは?」

「んー、これとか?」

「だってさ晃平。試着だけしてみたら?」

「お、おう。」


航に手渡されたのは、店員が新作だという薄手のシャツと白と黒のボーダー柄のTシャツがセットになっている商品と、ボーダー柄の色に合わせたような黒いズボンだった。


まだ服屋に入ってそんなに時間も経っていないのに、トントン拍子で航に試着を勧められた俺は、店員に試着室へと案内され、試着室に入って今着ているどこにでも売ってそうなシャツとジーパンを脱ぐ。


試着後約30秒ほど、あらゆる角度から鏡に映った自分を見つめた。


「おお、いいじゃん。…買お。」


その服を着たまま試着室を出ると、王子と航の姿が見当たらず、店員のみが「お客様いかがでしたか!」と近寄ってくる。


「あ、これ気に入ったんで買います。」


つーかあの2人どこ行った?と辺りを見渡すと、商品の帽子を楽しそうに笑顔で航の頭にかぶせている王子の姿があった。

航は帽子には興味なさげにスマホをいじっている様子。


「王子ー、航ー、どう?」


俺は2人にそう声をかけながら歩み寄ると、パッと揃って2人の視線が俺に向く。


「おー良いんじゃねえの?」

「おー晃平似合ってる似合ってる。」


王子それちゃんと本心で言ってくれてる?と思ったけれど、まあ俺自身が気に入ったから不満はない。


「靴は買わなくていいのか?今履いてるスニーカーじゃその服に全然合ってねえけど。」


じゃあこの服買ってこようか。と思った瞬間、王子は俺の足元を見ながら何気ないように口にした。


その言葉に、俺は暫し固まった。

…靴、か。靴とか全然考えてなかった。


「…あとで靴も見てもらっていいか?航!」


俺は王子に頼むことはせず、航にそうお願いした。

何故なら俺は、気付いたからだ。

王子は航の頼みでないと、進んで行動してくれない…と。


「だってさ、るい。あとで靴選んでやれよ。」

「うんいいよ。」


王子は航からの言葉に、笑顔で頷いた。


……作戦成功だ。王子ちょろいな。



こうして俺は航と王子に約二時間ほど買い物に付き合ってもらい、満足な買い物ができた俺は、「腹減った。」と言う航に付き合って飯を食ってから帰る事になった。


適当に通りかかったファミレスに入ると、ファミレス店員は俺たちに向かって「何名様でしょうか?」と問いかけてくる。

その店員の顔は、真っ赤になりながら王子だけをまっすぐ見つめていた。


「店員顔真っ赤。」


航にコソッと話しかけると、航は「ああ、いつもいつも。」とどうでも良さそうに返事をする。


「モテすぎて焦ったりしねえの?」

「モテてることに自覚なさすぎて焦ることはある。」

「なんじゃそりゃ。」


この顔でモテてることに自覚無いとかちょっと俺には理解できない。


その後、店員に四人掛けのテーブルへ案内されると、王子は当たり前のように航を奥の席へ促して、王子はその隣に座った。


「そういや晃平奥寺さんと映画行くのいつ?」

「あー…一応次の日曜の予定。」

「へー、もう約束してるんだ?」

「晃平奥寺さんとホラー映画見るんだって。」

「へー。」

「王子興味ない時の顔わかりやすすぎる。」


思わず思ったことを口に出してしまうと、王子はわざとらしく「え?興味?すげえある。」と真顔で言ってきたからこれは絶対嘘だ。


「映画館でホラー映画とか隠れるとこねえのによくやるよ。」

「そうなんだよなー、俺もホラー得意なわけじゃねえし映画館でとか初だから正直緊張する。」

「ちゃんと映画始まる前トイレ行っとけよ。」

「…あ、はい。」


そういえば王子、いつの間にか俺への態度がすげえ冷めた感じになってるから、初対面の時って多分猫かぶってたんだろうなと思った。

そしてこれが、王子の素。


「映画見終わった後は?もう解散?」

「飯でも誘いたいなーとは思ってる。あ、そうそう、その時って奢るべき?割り勘?」


せっかくだからこのモテ男たちの意見を聞いておこう。と2人を交互に視線を向けながら問いかけると、二人は揃って「さあ?」と首を傾げた。


いやいや『さあ』って。なんか意見くださいよ。……と思っていた直後だった。


「あ、でも飯代って俺が気付いた時にはもうるいが出してくれてる。」

「それは相手が航だからだよ。

お前ももし相手の分まで出したいって思うのなら、相手に気付かれないうちに出しときゃいいよ。」


航の言葉に返事を返した王子は、続けて俺にそう言ってきた。

俺はそんな王子の話を聞き、思うことはひとつだった。


王子先輩さすがっす!!!


『相手に気付かれないうちに出しときゃいい』だな。よしよしそれでいこう!


「気付かれないようにっつーか俺は気付いてるっつーの。だいたいいつも俺が便所行った時に会計してんだろ?」

「いいのいいの。こういうのは気にしちゃ負けだって。」

「気にしちゃ負けって、気にするわボケ。」


そう言いながら、ペシ、と微力で王子の頬を叩く航の手首を掴んで、「じゃあお礼はチューで」とか言っている王子。口が若干アヒル唇になっている。


目の前でなんか二人がイチャイチャし始めてしまい、俺は反応に困って無言で席を立った。


トイレに行って、戻ってきても、まだ二人はイチャイチャしていた。

………仲良いな。いや良すぎだろ。


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