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約束していた奥寺さんとホラー映画を見に行く日。
髪型はキメキメ、航と王子に選んで貰った服と靴を身に付け、ちょっとばかり緊張した趣で待ち合わせ場所に到着すると、奥寺さんは先に待ち合わせ場所で俺を待っていた。やべっ!
「晃平遅刻ー。」
「うわ!まじすか!?」
今更もう遅いが慌てて時計を見ると、時刻は待ち合わせ時間の五分前で、奥寺さんは「うそうそ。行こっか!」と歩き始める。
俺はホッとしながら、緊張感を必死で抑えつつ、奥寺さんの隣を歩いた。向かう先は勿論映画館だ。
「なんかさー、口コミサイトには超こわいって書いてあったんだけどほんとかなぁ?」
「えっそうなんすか?あってか俺トイレ行っていいっすか!?」
「あはは、晃平びびってんのー?」
「あっ!いや!王子にちゃんとトイレ行っとけよって言われたんすよ!!」
緊張感と、実はビビってるのもあって、口から咄嗟に出たのは王子の話題だ。
「えぇ!?王子にホラー映画見に行くこと話したのー!?」
すると奥寺さんは、王子の話題に食いついてくる。
「実はこの前、航と王子と飯行って。」
「えー!?二人と!?いいなぁ!!」
食いつく食いつく。
奥寺さんは、航の名前も出した瞬間、さらにその話題に食いついてきた。
「あの二人ってマジ仲良しっすわー。」
あー二人が付き合ってること喋っちまいてー…と思いながらそう口にした瞬間、奥寺さんはさらにテンションを上げて語り出した。
「可愛いよねー!!航くん超愛されてるって感じでもうほんとたまんない!!!末長くお幸せにって感じで…、…ハッ!」
興奮気味に話す奥寺さんは、話の途中で勢い良く自分の口を塞いだ。
「……え、…奥寺さんってひょっとしてあの二人のこと知ってるんすか…?」
もしかして…?と思い恐る恐る問いかけると、奥寺さんは眉間にしわを寄せ、険しい顔をして俺を見上げる。
「航と王子が付き合ってる、って「軽々しく口にしちゃダメ。」…あ、はいすみませんっ。」
真剣な表情の奥寺さんに話を遮られ、俺は口を閉ざすと、奥寺さんは「いい?晃平。」と真剣な表情で話し始めた。
「この話はバイト先ではしちゃダメだからね。私と晃平の間だけにしようね。」
「え、俺とはこの話していいんすか?」
「二人だけの時ね。」
「…なんか奥寺さん顔ニヤニヤしてますけど。」
真剣な表情を浮かべていたかと思いきや、奥寺さんの表情はいつのまにか気持ち悪いくらいニヤニヤしていた。
「だって航くんってば、毎日王子の手料理食べてるとか考えるとさ〜、やだたまんないっ!私ご飯三杯いける!」
「食いすぎでしょそれ。」
「例えよ、例え!」
それからの奥寺さんは、航と王子の話ばかりで、ホラー映画はまさかのキャンセルになった。俺はちょっとホッとした。
「あ!晃平ごめんね、なんかいっぱい話しちゃって!また今度日を改めてホラー映画付き合ってもらっていい?」
「え!いいんすか?俺で良ければ喜んで!」
「あ!今日はお礼にご飯でも奢ってあげるよ!」
「いやいやいいですよ!俺が奢ります!!」
てか!なんか…!なんか…!
俺と奥寺さん超いい感じじゃね!?
…と俺が浮かれている頃、奥寺さんの脳内は、航と王子の2ショットでいっぱいだった。
19. 奥寺さんと秘密を共有 おわり
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