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「大学の学食って綺麗だよなー。学食っつーかレストランだよなー。」
まだ数えるほどしか利用していない大学の学食に、そんな感想を述べながらメニューを選んでいる航は、一体何を選ぶのかと思えば。
「ふむ。やはりカレーライスだな。」
「やっぱりな。」
そうだろうと思った。俺の反応を見た由香が「航カレー好きなんだ?」と問いかけると、「うん大好物。」と頷く航。
なんとなく由香はいつも通りの態度を心掛けようとしているように感じられる。が、あとの2人がやっぱり変だ。
「なぁなぁ、なんか航に言いたいことでもあんの?」
チラチラ、と航を見ている二人に問いかければ、あかりと沙希は言いづらそうに「う、うん…ちょっと友達から航の話を聞いちゃって…。」と教えてくれた。航の話?一体なんの話だろう。
「ねえあかり、先になっちくんに聞いてみたほうが良くない?違ったら航に失礼じゃん。」
「うん、そうだね…。」
コソコソ、と会話をする二人に、俺はまじでなんなんだと気になり始めたところで、航が由香と「おーい先に席取って座ってるからなー。」と呼びかけてきたから、俺は航に「すぐ行くー!」と返事をしてから、再び二人と向き直った。
航と由香が先に席に着いたのを確認すると、あかりは俺に問いかける。
「…航、男の人と付き合ってるってほんと…?」
「……え。」
問いかけられた内容に、俺は反応に困って固まった。その問いかけはまるで航のことではなく、自分にも聞かれているような気分になったから。
「なんか、高校でその人とイチャつきまくってて引かれてたーとか聞いてちょっとびっくりしてるんだけど…」
「…誰がそんなこと言ってんの。」
まあ一人思い当たるやついるけど…。
男と付き合ってる、は正解。
イチャつきまくってた、も正解。
引かれてたー…ってのはちょっと微妙。
矢田くんと航がイチャついてたことに引いてた奴なんか俺が知ってる限りではモリゾーと日下部と仁くんと雄飛…まあ身近な人だ。
別に本気で引いてるとかじゃなくて、あいつらまたやってるよ…みたいな。親しみもこもってる感じ。
けれど、この話を誰かに言ったやつはどうも悪意を感じる言い方をしている。航を陥れたい、みたいな。だから俺は、そう考えたら余計に反応に困ってしまった。
それから、自分も男と付き合ってるから、もしそのことを言ったら引かれるのかな、って思って。
雄飛のことを俺はどんどん好きになっていって、今雄飛と付き合えていることはとても幸せに思っているけど、友達や親には言えないな、って思っていたところだから、今まさに俺は自分の話じゃなくても、自分に聞かれているような気になったのだ。
「…俺知らねっ。知りたきゃ航に直接聞いてっ。」
ごめん航、俺は、航が何て答えるか、どんな風に答えるかが気になってしまった。だから、彼女たちの問いかけには知らないふりをして、逃げた。
『男と付き合ってるの?』
俺がもしそう聞かれた時、自分ならどう答える?って、今の俺にはとても言い出せることじゃなくて、俺は、航をお手本にしようと思ってしまった。
三人で航と由香が座るテーブルへ向かうと、航は「お前ら遅いから先食っちまってるぞ。」と言いながら、カレーライスをスプーンで掬い取っているところだった。
「ごめんね!何食べようか迷っちゃって!」
そんな言い訳をしながら席に座るあかりと沙希。俺はなんとなく航の顔が見れなくて、無言で航の隣の席に腰掛ける。
なんとなく空気が重い、…気がするのは俺の気のせいだろうか。チラリとあかりに目を向けると、あかりと目が合った。
その次の瞬間、あかりは「ねぇ、航?」とカレーを食べようと「あー」と口を開けた航に声をかけた。
「あー?」
「…あ、ごめん食べていいよ。」
「んあ。」
ぱくり。と一口カレーライスを食べ、もぐもぐと口を動かしながら、航は『なに?』と聞きたげにあかりに視線を向ける。
そんな航に気付いたあかりが、ようやく航に問いかけた。
「なんか知り合いから聞いたことなんだけど、航男と付き合ってるってほんと?」
なんでもない風に、世間話をするように…問いかけたあかりに、航は顔色を変えずにもぐもくと口を動かし続けている。
そして、ゴクンと口の中のものを飲み込んだ航が、頷いた。
「うんほんとだけど?」
それがなに?とでも言いたげに。
はっきりと頷いた航に、あかりは困ったように黙り込んだ。
「…ただのデマだったら否定しとこうって思ったんだけど…。」
次に、黙り込んだあかりの横から沙希が口を挟む。そんな沙希の言葉に、航は重苦しい空気を振り払うように、ヘラリと笑った。
「そのあかりの知り合いってのは、どうせ昇から話聞いたんだろ?ほんとほんとー。」
最近昇、俺らとは連まずに女の子と連んでるのを見たことがあったから、どうせそのあたりに言ってるのだろう。航も、そう思ったのだろう。それ以外考えられない。
「…あいつ、自分だって晃のこと好きなくせに。自分だけ航のこと言いふらしてサイテーだ。」
ボソッと航にだけ聞こえるように言えば、俺の声を聞いた航がクスリと笑った。
「俺が魅力的ゆえにの僻みまじ困るわぁー。」
冗談で言ってんのか、へらへらと笑っている航。なんで航は、こんなに余裕な態度で居られるんだろう、って思った。昇に腹立たないんだろうか。
仲良くなったばかりの友人にも変な目で見られて。嫌ではないのだろうか。
「…ふぅん、そうなんだぁー…。」
ほんとのことを航の口から聞いたあかりたちは、なんだかちょっと浮かない表情をしている。
「やっぱさー、あんまり良い目では見られないよね。実際あたしにそれ言ってきた友達とか航のこと最初は紹介してーとか言ってきたくせに、今では航のこと後ろ指さして嘲笑っててすっごい感じ悪いんだよ。」
そう言って、あかりは悔しそうに表情を歪めている。そんなあかりの表情に、俺は少しホッとした。この子は、航に後ろ指さして笑っている子に嘘なら否定したいと思って、だから航にほんとのことを聞いてきたのだ。
でも航に聞いたらほんとうだった。
ほんとうだったから、戸惑っている。
カレーライスを口に含みながら、無言で話を聞いている航は、またゴクンと口の中のものを飲み込んで、やっぱりヘラリと笑った。
「言いたいやつには言わせとけ。」
全然、気にもしてなさそうな航の態度が、俺は凄いと思った。『後ろ指さされて』とか、そんな話聞いたら嫌な気持ちになんない?
俺はやだよ。あいつ男と付き合ってんだってー。とか、自分がネタにされるのなんか。
でも、航はへらへらと笑っている。
とても自分には真似できないと思った。
「俺はるいのこと好きな自分に胸張って生きてるからな。別になに言われても余裕。」
「……るい?」
「あ、俺のすっげー好きなやつ。」
あかりたちにそう答えた航は、めちゃくちゃ笑顔で嬉しそう。
「言っとくけどクッソイケメンだからな?」
「えっ、うそ!!」
「写真ないの!?」
嬉しそうに話していたかと思いきや、突然ニヤリと笑った航に、三人はかなり食いついた。
「なっちくんも見たことあるの!?」
「え、うん。てか同じ高校だし…。」
「そんなにイケメン!?」
「……かなり。」
若干彼女たちの勢いに引きながら答えれば、「キャー!見たい見たい見たい!」と騒ぎ始めてしまい、航は愉快そうに笑った。
笑って、新しい友人にカミングアウトできた航を、俺は羨ましく思った。
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