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その音に、私は驚き振り向いた  



「明日か…」

ペンギンの部屋へと着いた私は、机に広がっている地図を覗き込んだ
見てみると、明日島へと着くようだ

「いつも通りだなあ…」

綺麗に片付いているペンギンの部屋は流石と言うべきか
ふと、机の壁にかかっている写真が目に入った

「これ…」

思わず手を伸ばして触れてみる…が、霊体なため写真をすり抜けてしまう
写真は、ユリちゃんが来る少し前に皆で撮ったものだった

「ペンギン、写真とかは飾らないって言ってなのになあ…」

そう、ペンギンは自室に写真とかを飾らないタイプだった
少し前になんで?と聞いたことがあった
ペンギンは一呼吸おいた後「本人達がいるのになんでわざわざ写真を飾らないといけないんだ、」と笑いながら答えてくれた
意外な答えに私も思わずそうだね、と言いながら笑った
それくらい、私のことを心配してくれたのだろうか?
泣きそうになりながら改めて、馬鹿なことをしたと後悔をした
その時、がちゃり、という音と共に扉が開いた

「っ!?ナマエ!?」

「え…?」

入って来たのはペンギンで、吃驚はしたけど霊体だから大丈夫と思っていたが、目が合ったと思ったらペンギンは驚いたように声をあげる

「…なわけないか…はぁ、疲れてんのか俺は…」

はあ、と溜息をつきながら椅子に座り込むペンギン

「一瞬、ナマエの姿が見えたと思ったんだけどな…」

そう呟くペンギンに、私は驚きを隠せなかった

「もう、あいつはいないんだ…いないんだよ…」

自分に言い聞かせるように呟いているペンギンを見て、私は思わずペンギン、と小さく呟いた

「くそっ…ナマエの、馬鹿野郎…っ!」

机の上に両手を組み頭を預けるペンギンは、今まで見たことがないくらい悔しそうな顔をしていて絞り出したような、どこか震える声に私はついにその場から逃げ出した





振り切るように船内を走る
いや、走る、といっても中身がない浮きながら走っている感じだ
何も考えず、ただただ走り続ける
さっきから胸の奥がきりきりと痛い

「え、は、ナマエ!?」

「え…?」

再び突然名前を呼ばれ、顔を上げると今度はシャチがこちらを見て今にも落ちそうなほど目を見開いていた

「っ…と…なんだ、目の錯覚か…」

しかしそれは一瞬で、またもや目が合ったと思ったら嘘のように逸らされる

「はぁ…疲れてんのかなあ…あの日からまだ一週間も経ってねえもんな…」

「え…」

一週間も経ってない…?
疑問ばかりが残る中、シャチは喋り続ける

「くそ、なんであの時動かなかったんだよ…動いてれば、ナマエを助けられたかもしんねえのに……俺ってほんと、馬鹿だな」

そう言いながら自嘲を浮かべるシャチはシャチじゃないようで、私はまた一段と胸がきりきりと痛んだ

「くそ、…くそぉ…ナマエっ…ごめん…っ…」

ぎりっ、と歯を噛みしめる音と共にシャチは拳を握りしめた
その拳から数滴、赤い雫が零れ落ちるのと同時に私はまた走り出した


あれから、数時間
私はおかしなことに気が付いた
クル―一人一人が私と目が合うと名前を呼んで驚きの声を上げている
しかしそれも一瞬で、まるで何事もなかったかのようにすぐに逸らされる
その後には必ず目の錯覚だ、とか疲れてんのかなとか寝不足か?とクル―達は呟く
この出来事はあっという間に噂になったようで、船内では私の噂で持ちきりだ
成仏できずにこの船にとりついてるとか霊体になってもここのクル―でいたいんだな、など噂話ばかり飛び交っている
その噂は夕食の時間までにも持ちあがった

「俺ナマエ見たぜ」

「あ、俺もみた!お前どこで見た?」

「甲板だ」

「あいつ、成仏出来なくてこの船にとりつこうとしてんだろ?」

「げっ、まじかよ…あいつのおやつ食べたからか…?」

「てかてかてかユリのやつが気に食わないからこの船に居ついてんだろ?」

「あーそれ聞いたぜユリが船長にべったりだから追い出そうとしてんだろ?」

「うわぁ…マジかよ…女ってこええええ…」

「え、俺船長がユリにべったりだから構ってほしくてちょっかい出してるって聞いたぜ」

「おいおいおいおいナマエって船長のこと好きだったのか?」

「そういえばあいつの浮ついた話って聞かなかったな」

ざわついている食堂で、聞こえる話は全部私の噂話だった
私の噂話は大きくなりすぎたのか、色んな話が混ざりに混ざってごちゃごちゃになっている
そんなクル―達の噂話を私は隅っこの方でただただ聞いていた

「…お前ら、ふざけんじゃねえぞ!!」

色んな噂話が飛び交う食堂の中ペンギンと共に食事をとっていたシャチが突然、立ち上がった
全体に響いたその声は、ざわついていた食堂を一気に静まらせた

「んだよシャチそんなに怒んなくったって…」

「お前ら本気でそんなこと思ってんのかよ!!そんな下らねえことあいつがすると思うか!?本気で、この船にとりつこうとしてるって思ってるのか!?」

静まり返った食堂にシャチの叫びが響く

「シャチ、やめろ」

シャチの反対側で食事をしていたペンギンが制止の声を上げる
しかしシャチとクル―達の言い合いは止まらない

「お前らあいつと何年一緒にいるんだよ!?」

「分かってるよ!そんなこと百も承知だ!!」

「分かってねえじゃねえか!分かってるならあいつのことそんな風に言わねえだろ!?」

「シャチ!」

「こうでもしねえとあいつのことが、いつまでたっても忘れられねえんだよ!!」

「なっ…忘れるっていうのか!?あいつのことを!?!?」

「シャチ、やめろ!!」

「死んだなんて思いたくねえんだよ!だったら忘れちまえば少しは楽になるだろ!?」

「ふ、…ざけんじゃねえよ!!お前何年あいつと過ごしたと思ってるんだ!あいつとの思い出を忘れるって言うのか!?ふざけんじゃねえぞ!!!」

「シャチ!!」


ダンッッ!!!



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