料理より(TOX)


野宿をするにあたって、一番に用意しなければならないものは食事だと思う。
特に僕たちの場合はものすごい大食いがいるからなおさら食事が用意できないと困る。
でも、料理ができなかったり、苦手なメンバーがいるのもまた事実で。
普段だったら野宿、夕方とくれば僕はせわしなく手を動かしているはずなのだけれど、今日はなぜか暇だ。
理由は単純。僕以外のメンバーがなぜかてきぱきと作業をこなしているから。
じゃあ、そのメンバーは誰なんだ。
視線を巡らせると、誰が動いていて誰が動いていないのかはっきり分かった。
まず、ミラとアルヴィンは相変わらず何もしてない。動く気すらなさそうだ。
エリーゼとレイア。いつもより数段せわしなく動いているような気がする。まあ、二人とも普段から動くほうだから不自然じゃないんだけど。
そして一番の問題は、本日のMVPでも狙ってるんじゃないかと思うくらい高速で食材を刻んでいるナマエだった。
ナマエはこう言ったら悪いかもしれないけど、普段は食事の準備なんてしない。せいぜい僕の隣で味見係になってるくらいだ。
そのナマエが、今日は自主的に調理に回っている。
「嘘だ……」
こんなつぶやきが出るのも仕方ない。不可抗力だ。
いつも料理なんかしない彼女が、本当に失敗せずに調理できるのか。そのあたりがとてつもなく不安になった僕は、ナマエに歩み寄った。
「ナマエ、あとは僕がやるから、ナマエは座ってても……」
「ジュードは黙ってて!」
心配してかけた僕の言葉は、なぜか言い終わる前にさえぎられてしまった。
しかも怒気をはらんだ声で。
僕、なんかしたのかなぁ……。
叫びながら振り向いたナマエはまるで犬でも払うように僕に向かって手を払った。
「とにかくジュードは黙って座ってて!」
とどめとばかりに言い放ったナマエはまた食材に向き直って腕まくりをし、鬼気迫る雰囲気を醸し出し始めた。
「はいはい……」
納得がいかないまま、それでも包丁を向けられないために、僕はまた座り込んだ。
いつの間にかナマエの隣にはローエンがいて、料理の指導をしているようだった。もっとも、ローエンは楽しそうでもナマエは顔が真剣すぎて楽しそうに見えないけど。
そんな真剣な顔もかわいいな、なんて本人には言えないけど、心の中で思うくらい許されるだろう。
武器の手入れをしながら、久々に料理を待つ側になった。
待つ側になって思ったのは、待つのは楽だけど暇で仕方ないってこと。
いつもは隣にナマエがいて、僕自身も料理をして手を動かしているから、暇なんて感じたこともなかった。
けれど、こうして改めて話し相手もなく夕飯の完成を待っていると、暇で暇で仕方ないし、気分もよくはなかった。
「なんだかなぁ……」
よくわからないけど、どうにも落ち着かない。隣に誰もいないせいかもしれないけど、特に解決策もないし。
ただ、と少しだけナマエのほうを振り返る。
料理も終盤に入って笑顔を浮かべる彼女の隣に、いつもいたいと思う。
料理よりも、もっと僕を見てほしいと、そう思う。
彼女なりの気遣いを無駄にしてしまう気持ちかもしれないけれど、やっぱりいつも通りの僕たちがよかったな、なんて今更か。
今日は仕方がないけれど、今度からは昨日までと同じように僕が作って彼女が味見をする。うん、それがいい。
「できたよー」
ナマエの声で、夕飯ができたことに気づいて仲間と同じ一か所に集まった。
「うまそうだな」
「ふむ……これはもう食べていいのか?」
「ミラ、とりあえずよだれ拭いてね」
いつものやり取りを繰り広げる僕たちに、ナマエは笑みを浮かべて一つ頷いた。
いや、意味的にはミラに頷いたともとれるけど。
「どうぞ。お召し上がりください」
ナマエがその言葉を言い終わらないうちにミラは料理にがっつき始めて、レイアとアルヴィンも決して行儀がいいとは言えないような食べ方で食べ始めた。まともな食べ方をしてるのはローエンとエリーゼくらいだ。
ナマエは自分で作ったからか知らないけど、手を付けていないようだった。
これ幸いと、僕はナマエの腕を引いた。
「ちょっといい?」
「うん」
静かにうなずいたナマエを連れて、みんなから死角になる影のほうに行く。
「何?ジュード」
座り込んで首をかしげる彼女に、同じように座り込んで言った。
「次からは、また僕が料理するから」
僕の言葉に、ナマエは大きく目を見開いて固まったかと思うと、急に怒鳴った。
「なんで!?ジュードがいっつも大変そうだから、たまにはと思ってしたことなのに……迷惑だった?」
尻すぼみになっていく言葉は、それでも怒気をはらんでいて。
だから僕はナマエの怒りを鎮めるために彼女を抱きしめた。
「ごめん。でも、僕が我慢できないから」
突然のことに暴れていたナマエは、呆けたような顔になっておとなしくなった。
仲間たちの楽しそうな会話に、彼女の小さなな疑問の一言が溶け込んだ。
「……え?」
見開いた目から、疑問の視線が注がれる。
僕は目を細めてその視線に応えながら、続きを口にした。
「料理じゃなくて、僕を見ていてほしくて。僕を見てないナマエに我慢できない」
最後まで言い切った僕の腕の中で、ナマエは顔を真っ赤にして黙りこくってしまった。
そんな彼女に、僕はさらに言う。
できるだけ納得してもらえるように、ゆっくり。
「だから、今まで通りがいいんだ。だめかな?」
トマトみたいに赤くなったナマエは、首を横に振って口を開く。
「そんな風に言われたら……だめって言えないじゃん」
それに、と付け足す声に、僕はまた耳を傾ける。
「私もホントは、料理より私をジュードに見てほしくて、こんなことしたんだし」
ぼそぼそと付け足された言葉に、今度は僕が驚く番で。
動機は同じ。ナマエがいつもと違う行動をとったのも、僕がナマエにいつも通りを望んだのも、同じちょっとばかりの独占欲が理由なんだ。
僕もナマエも同じ。ただ見てほしかっただけなんだ。
「じゃあ、今まで通りでいいよね」
「うん。約束ね」
ナマエの小指に自分の小指を絡めて、嫌に子どもっぽい約束をした。
かと思ったら、目の前にいきなりドアップのナマエの顔があって唇に生暖かい感触が。
「これで子供っぽくない約束になったよね?」
そう笑顔で言い切るナマエに、やっぱり僕はとらわれてしまっているみたいで。
これからも振り回されてしまうのを覚悟したんだ。
それすらもうれしいと、彼女と一緒にいられる幸せだと思えてしまう自分がちょっと怖かったけど。
これでいつも通り、一緒にいられるね。
子どもっぽい約束に付き合ってくれて、ありがとう。
そんな思いを込めて、僕はもう一度ナマエを強く抱きしめた。

料理
(僕を)
(私を)
((見てほしいな))
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あとがき
初ジュードです。やばい。エクシリア最近やってないからジュードが大変なことに……。
ジュード大好きですよ!思い入れが強いキャラですね。
もっと出したいけどアスベルをそろそろ書いてあげようかなと思ってます。
こんなの読んでくださいってありがとうございました!
thank you for reading!

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