『一難去ってまた一難』
さっきのは一体何だったのか……と、ヒロは頭を抱え込む。あれは頭がおかしいだけなのだと分かっているのだが、あんな所に校章付けるのはどうかと思われる。
遅刻と言い、先ほどの奴と言い、災難ばかりが起きている気がする。あぁもう考えるだけで時間の無駄だ。
とりあえず早く学校に行かなくては、とさっきより走るスピードを上げる。
その時だった。
「えい!」
という可愛らしい声と共に、自身の意志とは関係無しに前に倒れ込む。誰かに押されたのかという判断より先に、ヒロは自らのピンチを悟った。
「「あ」」
先ほどの可愛らしい声と、ヒロの低い声が重なる。
どのような抵抗も虚しく、ヒロは倒れ込んだ先にあった池に落ちた。
「ごめんなさい! ごめんなさい! まさか、池に落ちるとは思わなくて……」
「周り見て判断してくれません?」
新しい制服がずぶ濡れになり、さすがに少し怒りゲージが溜まりつつあるヒロに、黒髪の少女はアハハ……と笑う。
アハハじゃねえよどうしてくれんだ。
新学期早々これとは、ついてなさすぎるにも程がある。それにしても彼女が付けている校章、まさかこの子も櫻木学園の生徒なのだろうか。
「いやー、制服ずぶ濡れだね」
「誰のせいだと思ってるんですか」
他人ごとのように言う少女に、もうやだこの子と思いながらため息を吐く。
困ったように考え込む少女だったが、ふと良いことを思いついたと言わんばかりに、手をあげた。
「私に良い提案がありまーす! 制服燃やせば一気に乾くんじゃないかな?」
「燃やすなよ」
少女のボケっぷりに、つい敬語が外れてしまう。自分は心が広い方だと自負出来るが、さすがにこんな不幸では怒るしかない。ここまでされて、さらに制服を燃やされるなんてことになったら本当に最悪だ。
そんな事にならないうちに、早くこの少女から離れようと歩き出した瞬間だった。
少女が慌てたように、こちらへやってくる。
「それなら、風で乾かすのはどう!? 私、火とか風とか色々出せるから!」
「まあ、それなら」
少女の必死な頼みに、仕方が無く頷く。
良かった! と言わんばかりの満面の笑みを見せた少女は、もう一度右手をあげた。
「空を乱舞する風。その力、集束し糧とならん。我が心に従い、荒れ狂う風となりて虚空を裂けよ! シュトルムファクーム!!」
少女の強い魔法によって、制服を乾かせるどころか、ヒロごと飛ばされてしまった。
「あ、出す魔法間違えちゃった!?」