異能学園デゼスポワール


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『世も末・刺激的』



 余裕をもって家を出た結城ヒロが間違いに気付いたのは、通学路という線分上の、寮という点と学校という点の丁度中間辺りだった。商店街の時計が、早くしろと急かしている。
 しかし、彼の部屋の時計は、商店街の時計よりも結構、呑気していた。つまるところ、遅刻である。

「冗談じゃない。転校初日から遅刻とか冗談じゃない。何が冗談じゃないって、こんなお約束な展開が普通に起こることが冗談じゃあない!」

 春は出会いの季節である。食パンこそ咥えていないものの、遅刻だ遅刻だと言いながら走るヒロの姿は、少女漫画のヒロインさながらだった。

 彼の行き先は、“櫻木異能力者育成学園”という学校で、読んで字の如く、異能力者のサポート、育成を行う学校である。
 数年ほど前から突如生まれ始めた、超能力を持った人間達は、周囲の人間にも受け入れられず、虐待や暴行を受ける者が少なくなかった。異能力者の数は年々増加しており、そしてまた彼らも人間であることには変わりない。考えた末に政府が作ったのが、異能力者育成学園、通称“異能学園”だった。
 異能学園は数はそれほど多くないものの、各地方に一つは必ず存在している。そして、櫻木異能学園は、東京都に位置する、中高一貫の全寮制学校である。

「ええっと……、櫻木ってこっちだったっけか?」

 ヒロは焦りで忘れつつある記憶を頼りに、曲がり角を曲がった。学生寮と学校とはあまり遠くなかったから、ここを曲がればもう校舎が見えるはずだ。
 ふと、瞬間的な息苦しさに襲われ、視界が揺れた。

「わっ」
「痛てて……。悪い、大丈夫か」

 かなりの速度を出していたヒロは、曲がった先を歩いていた人にぶつかってしまった。どこまでベタな展開が続けのだと考えながら、ぶつかった相手に手を貸す。
 想像していたより重い、手を引く感覚に、ヒロは違和感を覚え、相手の姿をまじまじと見る。
 足には可愛らしいデザインのスニーカーを履いていて、同系色のふわりとした長めのスカートが女の子らしさを醸し出している。上を見ようと視線を上げてみれば、身長はヒロよりも高い。

「あっ、その制服、櫻木ですか」

 低い声は女性のものとはとても思えない。
 ヒロは、まず思考の整理を始めた。

 可愛らしい服装に自分よりも高い身長に女性とは思えない低い声。
それにヒロがこれから向かう学校の名前を聞かれ、思わず「あぁ」と答えてしまう。

「そうでしたか、なら私と一緒に行きませんか?」

 よく見たら、可愛らしい服装には合わず、体つきがよく、肩幅も女性とは思えない。まるで男のようだ。女ではなく男? とヒロの思考が混乱した。しかも一緒に行かないかと誘われ、同じ学校とさらに混乱している。保護者の人間? そうだとしたら普通、自分の子供以外の他の子供と一緒に行くなんてまず考えないだろう。

 生徒だとしたら校章がついているはず、とヒロは相手の全身を探るように見つめる。だがしかし、校章は何処にも見当たらなかった。思わずヒロは聞き出した。

「あの、校章は?」

 それを聞くと相手は口角を上げてにやりと笑う。それを見たヒロは嫌な予感がした。
 すると相手はスカートをたくし上げた。

「ここに付いてるぜ」

 相手の思わぬ行動に目を瞑りそうになったが、その発言に目を開けたままになってしまった。
 付いてるという場所はまさかの体の中心と思われる場所であった。男性の下着を履いている上で体の中心…言わば股間と思われる場所に肝心の校章が付いている。

 可笑しくね? これ可笑しくね? と言わんばかりの校章の付けている位置。もしかして自分が可笑しいのだろうか? とヒロは混乱した。

 ハッ、そう言えば…とヒロは混乱していた思考を整理しつつ、昨日の夜の事を思い出した。いつぞやに貰ったパンフレットの制服のページを思い出した。櫻木学園にも、普通の学校と同じように制服がある。が、指定された日以外は、櫻木学園の生徒だと分かる物――校章など――さえ付いていれば、私服でも登校できるのだ。

 だからと言って股間につける奴がいるのだろうか?いやもしかしたら、元々股間につけるものだったのかもしれない。ヒロはそう思い、襟につけている校章に手をかけたその時。

「あ、そこであってるぜ校章」

 校章を股間につけている相手に堂々と言われ、ヒロは相手が元々いなかったかのようにスルーして学校へと向かった。


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