異能学園デゼスポワール


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『クライシス』



「何も見えん……。悪い、敵の情報が何にも分からんけん、暫くは様子見で!」

 最後に一体残った化け物の情報を探っていた仮令が悔しそうに叫ぶ。ジャミングでもされているらしく、弱点が分からない。仕方がないが今は彼の指示に従うしかない。
 大型の化け物は先程まで、ばさばさと倒されていた小型とは違い、しっかりと状況を見て判断するらしい。実際には短い時間なのだろうが、長い間膠着状態が続いていたように感じられる。
 睨み合いが続い

「嘘ッ、速――」

 ヒュン、と鋭い物が風を切る音と共に、化け物はヒロへと狙いを定め飛び掛かってくる。
 咄嗟に横方向へと跳んで避ける。が、一瞬遅れたヒロの腕に切り傷ができた。あの攻撃をまともに喰らっていたらどうなっていたか、考えただけで肝が冷える。

「ぼさっとしてんじゃねえよ!」

 化け物がヒロへと攻撃をしたのを皮切りに、警戒していた全員が攻撃を再開する。初めに動き出したのは高い機動力を誇る丁だった。敵の動きを鈍らせようと、脚を狙って鉈を振るう。
 ――今の自分では足手纏いだ。
 ヒロは、同じく攻撃ができない仮令の腕を引っ掴み、少し離れた地点へと移動した。

「……Gelgjaゲルギャ ――足枷に捕らわれた哀れな者よ」

 凜とした声が場の空気を変える。シェアスの詠唱だ。何の呪文かは、魔法を使えない者には知りようがないが、詠唱中は隙ができる事は分かる。全員がシェアスを護るように動き出した。

Gjollギョッル ――高く高く悲しみの叫びを上げよ
Svitiスヴィティ ――我、ここに杭を打ち付け汝を封じ込めん
『フェッセルン』!」

 詠唱が終わった瞬間、敵の上空から柱のような、杭のような物が振ってくる。敵の動きを一定時間封じ込める呪文だ。全員が淡い期待を抱き、希望に縋る。

「嘘でしょ……!? 何で……!」

 だがその小さな希望すらも打ち砕かれてしまった。化け物が尾で薙ぎ払えば、魔法は呆気なく解けてしまった。
 隣で見ていた仮令が小さく言葉を溢した。

「これは憶測ばってん……あの化けモンは、自分に掛けられる能力が無効化できるんじゃなかと?」
「えぇ? じゃあ攻撃のしようがないよ…!」

 仮令の口から出た憶測、それでシェアスやティアは焦る。そこで翼は前に出る。

「魔法が効かないなら、物理はどうかな!?」

 そう言って魔物の方へと走り、思いっきりと言わんばかりのパンチを食らわせる。これは効いたのではと期待をするが翼のパンチをした方の腕から突然血が噴き出す。

「あああッ……!?」
「くっそ、あいつ物理も無効化すんのかよ!」

 痛さに悲鳴をあげる翼を助けようと次は春樹が助けようとするが魔物に薙ぎ払われ、翼が吹き飛ばされる。それを読んでいたのか如く春樹は翼を受け止めるが岩に衝突をする。
 ヒロと仮令は、心配そうに翼と春樹に駆け寄ろうとすると2人の後ろにブオンッと何かが通り過ぎた。気になって後ろを見ると驚愕の光景が。

「嘘、イリス……!?」
「な、なんで……!」

 なんとそこにはボロボロになって立っているイリスとその後ろにはシェアスとティーアがいた。どうやらイリスが2人を庇ったようだった。

「良かった……2人とも……」

 そう微笑んだイリスは2人に向かって倒れ込む。2人はイリス、イリスと名前を叫ぶ。
 魔物はそんな3人を見据えて突進しようとしてくる。そこで千秋がブオオオ、と火を出す。だが効いてる様子は無く気を逸らす程度にはなったようだった。そしてそこからまた丁が斬りかかろうと上から鉈を振り下ろす。
 だかしかし、ガチンッとした音がしただけで手応えがあったという様子は無かった。

「こいつ、前よりも硬く……!」
「……! まずい!」

 千秋の予感が当たったのか魔物はブオンブオンッと暴れまわり、丁を払うように吹き飛ばした。それと同時に千秋も吹き飛ばされた。幸い2人は死んではいないがかなりの大ダメージを受けている。

「……お前、よくも……!」

 怒りに燃えた顔をしたシェアスとティアが立ち上がる。だめだ、そいつは能力が、と止めようとしても遅かった。魔法で攻撃するにも2人はあっという間に他の皆と同じように薙ぎ払われてしまった。
 ヒロと仮令以外の皆はボロボロになってしまった。その光景に仮令はガチガチと震え、腰を抜かしたように尻餅をつく。
 どうすればいい、逃げるか? でも皆を置いて逃げるわけには。
 魔物がこちらを見ている。赤い目がこちらを見つめる。そこからは獲物をヒロと仮令に切り替えたように前足を蹴る。

「も、もうだめばい……もう終わり……」

 仮令が震え声で呟くように言う。そして何故かヒロが前へと出ていた。

「結城……!?」

 仮令の声を背中に受け止め、ヒロは皆を守るように前に立つ。とにかく、時間稼ぎだ。
せめてイリスが回復して皆に回復魔法をかけてくれれば。それまでは自分で時間稼ぎをするしかない。
 そう決心した側から化け物がこちらに向かってきた。ヒロは自らの身体能力を信じて何とか化け物を攻撃をかわしていく。しかし、このままではヒロの体力に限界が生じるだろう。いつまでもこうしてはいられない。攻撃を、ダメージを与えなければ。
 どうすれば……。と、思った瞬間に。

――随分困ってるね、君。
「誰だ!」

 突然どこかから声が聞こえた。だが、どこを探しても声の主は見つからない。まさか、直接脳内に……!?
 テレパシーのような力を使って唐突に語りかけた声は、クスクスと笑って言った。

――何でそんな雑魚相手に苦戦するんだい? 君ほどの実力なら、すぐに倒せるはずだよ。
「……俺に、力なんて無い」
――そうかな? あぁ、なるほど。気づいてないだけ、か。

 何かを急かすような口振りに段々腹が立ってくる。何が言いたいというのだろうか。
尋ねようとした時、ふとヒロの肩に手が置かれた。その方向を見るとボロボロになりながらも何とか立っているティーアが。

「ティーア!? お前、無茶するな!」
「その……今、会話してるの……。まさか…セパル兄さんじゃ……」
「セパル……兄さん?」

 ティーアから漏れ出た名前に疑問符を上げるが、仮令の声がそれを打ち消した。

「2人とも! 早よう逃げな!!」

 仮令の忠告で気づいた頃には、化け物がヒロ達の前まで来ていた。まずい! と思ったヒロは、ティーアを守るべく彼を抱き込む。
 だが、化け物の攻撃は弾かれた。ヒロとティーアを包むバリアーによって。

「このバリアーは……」
――もー、あまり力使うの嫌なんだけどなあ。

 また脳内に響く声。この声の主の名がセパル兄さんとやらなのだろうか。しょうがない、という声が聞こえると同時にヒロの中で突如力が沸き始める。

――よく聞きなよ。今から君に力を送る。その力は、君の能力を開花させるものだ。それでそこの雑魚を倒しな。

声の主の言ってることが分からず、どういう意味だ!と問いかけるも返事は返ってこなかった。だが、沸いてくる力で化け物を倒せるなら……?
 ヒロはティーアから離れて、化け物に向かって歩き出す。

「さあ、やるか」

 ヒロ本人も知らない本気を、この化け物にぶつける!


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