異能学園デゼスポワール


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『協力は大事』



 一番大きい魔物の身体は先ほどの説明通り、甲羅で覆われている。どうやら剣などを用いた接近戦は無理のようだ。

「甲羅を破壊出来れば…」

 仮令がぼそりと呟く。魔物の咆哮のせいで、聞き取るのが難しかったが、近くに居た丁のみがその声を聞き鉈を振り回す。

「破壊すればイイんでしょ? 楽勝楽勝」

 丁は歌うように言って、魔物に突っ込んでいく。協調性というのはないのか。だが、鉈を持ちながらもちょこまかと動いて魔物達を攪乱していた。丁を捕らえようとする魔物が、互いにぶつかったりもしている。一方の丁は自らの行く道を阻もうとする魔物を次々に斬り刻んでいく。

 あっという間に大きな魔物の所にまで辿り着いて、鉈を魔物に向けた丁。だが、その時後ろから丁に迫る魔物が!
 危ない!と叫びかけた瞬間、どこかから矢が飛んで魔物の臓を貫く。今の矢はヒロの後ろからきたものだった。振り返って見ると、弓を構えているイリスが。今までの無表情とは違い、キリッとした表情になっている。

「……協力、大事」

 イリスが丁を見て小さな声で言う。恐らく、皆で力を合わせて戦えと言いたいのだろう。丁はそれを聞き受け、仕方が無く一度ひいた。そこから、他の魔物達に目を向ける。その時点で、まずは自分達を囲む魔物を倒そうということが暗黙の了解となった。
 だが、そんな中で一人だけ大きい魔物に攻撃を続ける人が。

「四ノ宮! 無茶だろ!」

 そう、イリスと同学年の千秋だ。千秋は手から炎を出して、魔物の陣地へ突っ込んでいる。こちらを攻撃してくる魔物が居れば、炎でその身を焼き尽くす。そのうちに大きな魔物の所まで辿り着いた千秋は、一気に畳みかけてやろうとその手を魔物に向ける。
 しかし、魔物は咆哮をあげた後、千秋に突進した。千秋は吹っ飛ばされて、仲間達の居る所にまで転がり込む。
 翼と春樹が千秋を気にかけている中、イリスが千秋に手を当てる。そこから現れた淡い光は、千秋のすり傷を治していった。回復が出来るのか、貴重な要員だ。
 千秋はゆっくりと起き上がって、立ち上がる。「無茶だって!」という翼の声も聞かず、千秋はまた火を出す。これはもう何を言っても聞かないようだ。
 魔物の攻撃が千秋に当たらないように、魔物達を倒そうということになって呆然と彼らを見ていた仲間達も、今度こそ戦闘態勢に入った。
 再び戦闘が始まる。
 次に攻撃をしかけたのは春樹だ。抜刀をして剣を構える。魔物達は、こちらの敵意に気づいて春樹をターゲットにする。これでは簡単に攻撃出来ないのではないかと思ったが、春樹は構わず魔物を斬っていく。一体一体、確実に。
 やがて魔物全てがヒロ達を忘れたかのように春樹を攻撃し始めた頃。イリスよりも更に後ろで、凛々しい声というか勇ましい声が響いた。

「ドゥンケルシュトラーセ!」

 いつの間にかシェアスが、仲間達の一番後ろで魔法の詠唱を唱えていたようだ。大分長かったな。というより、今の声はシェアスのものだったのか。いつもと全然雰囲気が違っていたから、イリスが出したのかとばかり思っていた。
 シェアスの出した闇の魔法は、丸い形状となって魔物を覆いつくして、段々と圧縮していき最終的に丸い形状の闇は魔物ごと消えた。覆われた魔物は一体何処へ行ってしまったのだろうか。
 魔法はつい半年ほど前に出来たばかりの新技術。一つの属性だけでなく、複数の属性を操ることが出来るらしい。使い始めた者達を真似て、人々が興味を持って彼らに魔法の理論を聞き出し、使おうとし始めたのがキッカケだ。魔法の詠唱によって、魔法に必要な物質、集中力等を養うらしい。だから、詠唱の長さによって魔法の威力も変わるらしい。
 魔法というのをこうやってきちんと見たのは初めてだが、とんでもなく怖いな。イリスが先ほど出した淡い光も魔法なのだろうか。
 ヒロは、春樹がわざわざ自分から突っ込んだ理由を理解した。春樹はあえて囮役に出たのだ。そうして、魔物達が春樹を攻撃していたのを見計らってシェアスが魔法で攻撃したということだろう。これは、相手を信じていないと互いに出来ないことだ。二人は以前も共に戦ったことがあるのか。
 そういえばこのメンバーの中では魔法を使うのは、シェアスとイリスだけなのだろうか。まだ最近の技術だし、世間でも魔法の使用は危険とみなされているから、政府に認められた者以外は使ってはならないという決まりがあるらしい。つまり、この二人は政府に認められているということなのだろう。思ったより凄い逸材のようだ。

「よし! 次行くか!」

 張り切る春樹の横で、バトンをぶんぶんと振り回すシェアス。まあ当然のごとく、それは春樹の頭に当たる訳で。

「あ」
「……ロッティ? お前何してくれてんの」
「ご、ごめんね!!」

 とても凄い奴には見えない。むしろ春樹の方がまともだ。
 皆の連携により、周りの魔物は何とか倒すことができそうというところで今度は翼とティーアが動いた。翼は、殴る蹴るなどの体術を得意としているらしい。翼は、大地を蹴り上げて高くジャンプした。そこから、魔物の頭上にパンチを繰り出す。頭上が弱点だと知ってのことだったのか、かなり苦しみ始めた。

「唸れ大地よ! アースローア!」

 その隙にティーアがやたらと短い詠唱で敵が立っている所から巨大な岩がいくつも噴出した。魔法使える奴が此処にも居たか。それによって敵の動きを封じ込める。二人はいくつもの岩を軽く飛び越えて、魔物に強力な一撃を食らわせてやった。

「凄いな……皆」

 思わず呟いた。一人一人が、己の異能力を生かしきって戦闘に参加している。
綾部は論外だが。それに比べて自分はどうだ。異能力がまだ目覚めていないからという理由でまだ戦闘が出来ない。それでは、ヒロだけ逃げ出しているのと同じではないか。足手まといにはなりたくない。早く、自分の異能力が何なのか見つけなくては。

「それにしても、まさか本当に魔法使える奴が居るなんてな。危険すぎるって聞いたから正直ビックリしたよ」

 ヒロが苦笑しながらシェアス達3人に言う。他のメンバーも、彼女らを見て頷く。3人は互いに目を合わせて、首を傾げた。

「魔法は……危険じゃない」
「そうそう! 何たって私達は別……」

 何か言いかけたシェアスをイリスが叩く。シェアスは、叩かれてハッとした後「やっぱり何でもない!」と言って、またバトンを回し始める。

「何なんだよ」

 春樹が、ため息を吐いて呆れ気味に言う。気にしないでください、というティーアに、水臭いと言いながら綾部が近づく。

「教えてくれても良いじゃねーかよティアー」
「触らないでください。後、俺の許可なくティアとか呼んだら…刺しますよ」

 物騒な最年少だ。そう思うと同時に、大きな魔物が咆哮をあげる。俺のこと忘れんじゃねえよと言わんばかりに。
 あ、そういえばまだ終わってなかったなと思い出したヒロ。皆も、魔物を見る。
 残りは……一体だ。

「さて、確実に仕留めよっか」
「言われなくても分かってます」
「そう? ボクの足引っ張らないでよね」
「こっちのセリフですよ」

 千秋と丁が互いを睨み合う。千秋と丁は、喧嘩っ早いようだ。


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