『匣・輝き』
異能力が馴染んでいない能力者は、使用時の記憶が欠けてしまったり、上手く制御できない事が稀にある。して、ヒロの場合は後者だった。
ヒロは高校の最初の一年を、普通科高校で過ごした。ごく普通に勉強をし、ごく普通に生活をして、ごく普通に卒業するものだと思っていた。
――冬、珍しく深く雪の積もった東京都櫻木区。白と赤の対比。呆然と立ち尽くす少年。彼の右手に握られた剣は普通の学生にはおよそ似つかわしくない。その周囲に散らばった幾つもの刃物もまた然り。
「思い出した、俺は……」
叫声。現代の阿鼻地獄。駆け付けた大人が見たのは彼の少年と、怯え縮こまる少年の友人と思しき人、倒れ伏した魔物。少年が意識を失うと同時に、彼の周りの刃物は消えていった。
「……俺は、俺の異能力を知っている」
「さあ、前を向きなよ。君は力の使い方を知っている筈だ」
記憶のフラッシュバックに、うわ言のように呟いていた。
ヒロの脳内へと直接語りかけてくる謎の声が、彼を現実へと引き戻す。
「結城ッ!」
先程から様子がおかしいヒロを心配した仮令が叫ぶが、ヒロの耳には入らなかった。ヒロは常に己の右目を隠す眼帯へと手を伸ばし、外し、放り投げた。
初めて露わになる彼の右目に、周囲が騒めく。髪色とも、左目とも異なる金色をした瞳には、紅く魔法陣が浮かび上がっていた。
異様な雰囲気に、化け物の動きが一瞬止まる。
ヒロが息を吸うと、何もない空間から無数の剣が現れた。彼の周りに浮かぶそれは、まるで翼のようでもあった。彼が指を鳴らせば、剣は生きているかのように、彼の命令に従うかのように化け物へと飛んでいき、そして、
「甲羅を……突き破った……!?」
甲羅を突き破り、魔物はがくりと態勢を崩す。今だ、今こそ。
ヒロが手を上げると剣が出てきた。一見普通の長くて太めの剣に見えるがそれはヒロの右目の金色の瞳と同じ金色の綺麗な光を帯びていた。
ヒロは目の前にいる魔物を見つめる。そしてその持っている剣を振り下ろそうと両手で掲げるようにした。何かを待つように、溜めるように、目を閉じる。すると周りが、ヒロのいる辺り一帯から綺麗な光の粒子が出てくる。その光の粒子が剣が力を吸収するように集まっていく。
「綺麗……」
仮令はその様子をずっと眺めていた。ボロボロになった仲間達も何かに気づいたのかやっとの事で起き上がる。同じように皆、その様子を眺めていた。
やがて光の剣を魔法陣と強い風のようなものが囲み、竜巻状になる。これから強烈な技を撃つと言わんばかりの何かを感じさせた。
「さぁ、今こそ、仲間の為に放つんだ、その力を」
合図をくれるように語りかける脳内の謎の声。
……あぁ、そんな事はわかっているさ。
ヒロは目を開け、魔物に向かって一歩踏み出した。
「その剣、いや、その武器達こそが君の能力、守る為の力だ」
ヒロは剣を振り下ろした。
「ああぁぁぁぁぁぁーーーッ!!」
竜巻状になった光の剣は魔物を斬ろうと襲いかかる。魔物は逃げられずそのまま飲まれる。威力がすごいのか魔物は一瞬にして消えてしまい、ブオオオと強い風が吹く。
技を放ったのに光は地面から空を繋ぐ柱になるように輝いている。
その輝きをヒロはじっと見つめていた。のちにその輝きは消え、辺りは静かになった。倒したんだ……、とヒロは全てを出し切ってしまったようにパタリと倒れた。