見えるものと見えないもの 後編3



「バクラっ、違うの……っ、これはっ……!!!」

玄関に上がり、リビングに入るなり開口一番そう吐き出した私を、ソファーに座っていたバクラは腕を組みながら出迎えたのだった。

続きの言葉を紡げずに黙ってその眼を見つめ返せば、やがて彼は口の端を吊り上げてククッ、と意地悪く嗤い、私は言葉を失ったまま俯くことしか出来なくなってしまう。


やがて上着を脱げ、と指示されて仕方なく言われた通りにすれば、音もなくソファーから立ち上がったバクラは私の横を素通りしてリビングのドアから出て行ってしまった。

後を追うべきなのかどうなのか迷い、上着をゆるく畳んで腕にかけながら、しばしその場に立ち尽くしてそわそわと部屋の中を眺めた。


物の少ない、獏良君ちのリビングルーム。

本当の家主の知らぬまに勝手に家に上がりこんでいることを考えると、彼に申し訳ない気持ちになった。

そんな少し気まずい思いで、その場に立ち尽くしていたのだが――


うかつにも私は、背後から音もなく伸びてきた腕に視界を塞がれるまで、その存在に気付かなかったのだった。

突然布の感触が眼を覆い、咄嗟に手で押し上げようとするも頭の後ろできつく締め上げられて結ばれていく布に、抵抗らしい抵抗も出来ぬまま私は目隠しをされてしまう。

腕からすり抜けた上着が床に落ちる気配がしたが、今はそれどころではなかった。


「バクラ……! これ、は……っ」

「学校で嬲られただけじゃ物足りねえっつーイカレた女にプレゼントだ……!
……もっとも、オレ様にとっちゃ暇つぶしにしかなりゃしねえが……まあいい。
……よし、こいつも受けとりな……!」

「えっ……、」

目隠しが終わったあとは、首に違和感。

バクラの指が一瞬だけ首筋に触れて、何事かと身体を強張らせば、次の瞬間、指とは違う何か固いものが首を一周してぎちぎちと音を立てた。

そして耳を撫でた、チャラリという音色。


「……」

金属が擦れあう音であろうそれは千年リングが生むそれとは違い、嫌な予感が脳裏を掠める。

――そして。

ぐい、と予期せぬ力に、首に回された何か越しに身体を引っ張られ、バランスを失った身体が反転して足が床から離れる。

どさりと倒れこんだらしいその先は柔らかくて、自分がソファーに倒れこんだのだということを咄嗟に理解した。

硬くひんやりとしたものが首を締め付け、軋む。耳をつく金属音。

それらの様子から、目隠しはされていても何となく、今の状況を察することができた。


――そう。

私はきっと、バクラに首輪をつけられ、そこから伸びた鎖の先をバクラに握られているに違いなかった――


「ヒャハハハ!!!
桃香、わかるか……?
今自分がどんな状態になってるかがよォ……!!」

「や……、バクラ……! これは……!」

「おっと、口の聞き方に気をつけな……!!
今のてめえは何だ……? そのふざけたナリはメイドのつもりなんだろう?
メイドは主人に仕えるもんだ……
てめえのご主人様が誰か、もう嫌というほど身に染みてるよな……!!」

「っ……」

「別にオレ様は下らねぇご主人サマとメイドごっこがしたいわけじゃねえ……
だがオマエはどうだ……?
こうなることを望んでたんじゃねえのか……?

ククッ、全ての自由を奪った上で、立ち上がれないほど痛めつけてやったら満足か?
桃香よ……」

「ッ、そんな……っ!!」

反射的にバクラの恐ろしい発言を否定するものの、閉じた脚の中心はトクリと収縮し、私は目隠しをされながらも脚をしっかりと閉じ手探りでスカートの乱れを直した。


「オレ様だけのメイドか……
どこにも行かず、何も見ず、オレ様だけの言うことを聞く人形……
なかなか悪くねえかもな」

「ッ……!」

ゆっくりと吐き出された密やかな声に、下着を纏っていない背筋がぞくりと粟立った。

そういえば、下着をつけないことによってもしかしたら、服の前……、とくに胸部の先端が、不自然なことになっているかもしれない……!!!

そう気付くと、布を押し上げる胸元の膨らみが気になって、私は慌てて胸に手をやって自分の状況を確かめようとする。

がしかし、その手をひんやりとした自分のものではない手が遮った。

もはや確認する必要もない。バクラの手に決まっていた。


「ばっ……、……ッああっ!!!」

胸元に触れた指先が、難無く布越しの突起を探り当て、摘んで捩り上げた。

痛みを感じるほど強い力では決してなかったが、その微妙な力加減がダイレクトにまた脳にシグナルを伝え、呼応した下半身がキュッと収縮する。


「下着もつけないとは……とんだ淫乱なメイドもいたもんだな!!
服越しでもわかるほど乳首立たせて何がしたいんだ、オマエは」

「バクラ……、ごめんなさい……!
許して……、下さい……!!」

「何を謝るんだ……?
オマエは、オレ様に何か謝らなきゃいけないことをしたと言いたいんだな……?」

「あぁぁっ!!! ばっ……!!
やだっ、ちく……っあ、胸、摘んじゃ、や……!!」

「おっと口の聞き方がなってねぇぜ!!
貴様はオレ様のメイドだってことを忘れてもらっちゃ困る……!」

「っはッッ!!」

ちゃり、と金属が擦れあう音が耳をつき、一瞬の後に首を強い力で引っ張られ、首輪から伸びた鎖をバクラに引っ張られたことに気付く。

バクラの手が胸から離れ刺激は消えたが、しかし一度生まれた身体の熱は今が好機とばかりにじりじりと燻って温度を上げていくのだった。

ソファーの上で閉じた脚の中心に違和感を感じ、下着をつけてない以上、このままでは下半身の現状が露呈するのも時間の問題だと戦慄する。

唇を噛み締めながら俯くと、鎖を手にしたバクラがクク、と僅かに声を漏らしていたのだった。


そして。

キン、と耳をつく感覚と目隠し越しでもわかる光を感じ、それが他でもないバクラの胸元で輝いた千年リングによるものだと気付いたところで、私の意識は混沌の中に飲み込まれていったのだった――――


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